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完全栄養食のアイスクリームで、誰一人取り残さない食体験を作る 〜学生起業家インタビュー 株式会社LacuS〜

今回は学生起業家へのインタビューとして、株式会社LacuS代表取締役 古津さんにお伺いしました。

株式会社LacuS 代表取締役 古津 瑛陸さん

古津 瑛陸(ふるつ えりく)
2001年長野県上田市生まれ、開志専門職大学事業創造学部4年生。2年生時(2022年)に株式会社LacuSを設立。現在はシニア向け完全栄養食の開発・販売事業を行う。


シニア層に向けた完全栄養食のアイスクリームを開発

ーー株式会社LacuSとはどのような企業なのでしょうか?
私たちは「誰一人取り残さない食体験を世界に」をコンセプトとして、高齢者に特化した世界初の完全栄養食ブランドを立ち上げました。開発した商品を、主に介護施設や一般の在宅介護に携わる人々に向けて販売しています。現在は、インターン生や業務委託を含め、10名ほどのメンバーが事業に関わっております。

ーー具体的にはどのような商品を開発しているのでしょうか?
ブランド初のプロダクトとして、完全食のアイスクリーム「Me ICE」(読み方:ミーアイス)を開発しました。現在はきな粉、チョコレート、抹茶の3種類の味を展開しています。
高齢者に特化した完全栄養食として、高齢者に必要な33種類の栄養素を厚生労働省の摂取規格に合わせてバランス良く配合したアイスクリームです。

ーーなぜアイスクリームを選んだのでしょうか?
2年ほど前に、終末期のがん患者の人々が、アイスキャンディーのガリガリ君を食べているという記事を読んだことがきっかけです。実際、現場に行ってお話も聞いたところ、終末期に近づくにつれて体温が上がったり、食べ物を飲み込むことが困難な患者の食事の課題に対し、アイスが適切な食べ物だということを知ったと同時に、 アイスを食べている患者の姿も目の当たりにしました。食事を摂ることが難しくなっている患者にも受け入れられているアイスにさまざまな栄養素が含まれていれば、一つの食事として提供できるのではないかと考えたのです。
そこで、LacuSの初期メンバーや研究員、栄養管理士、医師をはじめとしたさまざまな専門職員の方々とともに、原材料の選定を含めて100回ほどの試作を経て「Me ICE」を開発することができました。

ーー実際に「Me ICE」を食べた方からはどのような反応がありますか?
「普通のアイスと変わらない」「これで栄養素が取れるのなら全く問題ない」といった感想を多くいただいています。栄養素が摂れることはもちろん、おいしく食べられるようにと考えて開発した商品なので、「普通のアイス」というのは私たちにとっては褒め言葉で、非常に嬉しいです。
また、終末期の現場では、経口摂取ができなくなると、点滴から栄養素を取り込む食事のスタイルに移行します。しかし、「Me ICE」を導入・利用することで口から食事を摂り続けることができ、「点滴に移行するタイミングをずらすことができた」という声もいただきました。

ーーシニア向けの完全食アイスクリームを開発しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
そもそもの開発のきっかけは、私の曽祖母の介護をしていた祖母が、曽祖母の食事の面でとても苦労していたという実体験があったからです。社会とのつながりを持たなくなる、体を動かせなくなることに加え、固形物が食べられなくなると、信じられないほど老いてしまい、老化を加速させるということを目の当たりにしました。そこで私は「食体験のイノベーションを起こしていきたい」と考えるようになったのです。
そして、「誰一人取り残さない食体験を世界に」をコンセプトに、食事を摂ることが難しくなった方にも、口から栄養素を摂れることにフォーカスしたブランドを立ち上げました。

完全食アイスクリーム「Me ICE」

「20歳で起業する!」挫折を経験したからこその決意

ーー起業を志すきっかけは何だったのでしょうか?
私は幼い頃から12年間、野球に打ち込んでいました。しかし高校3年生の時、肘に大きな怪我をして、2回ほど手術をしたものの完治はせず、野球の道が閉ざされてしまいました。今でも、両手で顔を洗えないほど、肘が通常よりも曲がらないのですが、その度に「あの時は悔しかったな」と思い出すくらい、私の人生の中で大きなインパクトがあった出来事でした。
起業に興味を持ったきっかけは、怪我をして落ち込んでいた高校3年生の夏、活躍している若手起業家の存在を知り、孫正義さんの伝記を読んだことです。社会を変える起業にとても大きなインスピレーションを受けました。なかでも、株式会社タイミー代表取締役CEOの小川さんは、当時22歳で23億円を調達するという活躍ぶりで、「大学生でそんなことができるのか」と驚くとともに、「私にもできるのではないか?」という思いも芽生えたのです。

ーー学生起業家の先輩の存在に勇気づけられ、高校生の頃から起業を考えていたのですね。当時は、どのような事業アイデアを考えていましたか?
「社会に対していかにインパクトを与えられるような事業をするか」ということを重視していたため、領域を問わずにグローバル目線で、日本だからこそ誇れるような事業をしたいと考えていました。また、起業は区切りの良い20歳の時にしようと決めていたので、起業への道が最短になる大学を調べ、開志専門職大学に入学しました。

ーー目標通り、大学2年生(20歳)で起業し、現在は創業3期目を迎えました。改めて、起業して良かったなと思うことを教えてください。
起業したことで、私たちが作りたいと考えている「誰一人取り残さない食体験」を実現できる社会に向けて、「自分たちの力で現状を変えていける」という感覚を持てたことです。一方で、スタートアップ企業という特性上、環境が目まぐるしく変化していくため、組織のメンバーの中で齟齬が生まれるなど、課題に対して同じ熱量で同じ方向に走って行くことの難しさを感じることもあります。しかし、自分たちの理想に向かってやりたいことができる点は、起業家の特権だと思います。
起業して間もない頃は先輩起業家に憧れ、事業を通して社会を変えることに興味がありましたが、最近は「自分自身が幸せに生きるために事業をしている」という部分も少なからずあると気づきました。さまざまな人と出会うなかで、まずは自分が満たされることで、周りに対しても優しくなれるのだと思うようになりました。
また、当社には個人投資家が入っており、その中には会社を上場させた経験を持つ人もいます。出会えるはずがなかったような方々と出会い、一緒に戦えるこの環境は尊く、大きなやりがいを感じています。

誰一人取り残さない食体験を広げていきたい

ーー株式会社LacuSの今後のビジョンを教えてください。
「誰一人取り残さない食体験」ができる社会を実現するには、何年かかるのか正直分かりません。しかし、まずはこのブランドの認知を広げ、開発した商品を着実に提供し続けていきたいと考えています。
より多くの人々に「Me ICE」を手に取っていただけるよう、最近はECサイトでの販売も始めております。

ーー「Me ICE」の他にも、商品の開発を考えているのでしょうか?
日本には四季があり、季節によって受け入れられる食品も異なるため、今後は四季折々で味わっていただけるような商品を開発したいと考えています。例えば、寒い時に食べたくなる温かいものであったり、常温で長期間の保存がしやすいフリーズドライの食品など、幅広く展開しようと考えています。

「どう生きたいか」を考え、人との関わりを大切に

ーー起業を考えている方にメッセージをお願いします。
起業をする、しないに関わらず、「人生をどう生きたいか」を考えることは非常に重要だと思います。「何のために起業するのか」という動機づけはしっかりと咀嚼してほしいです。私は、一概に起業した方が良いとは言いません。起業の道を選んだ先で経験するであろう苦しい経験や、起業した方全員が耐えられるかといえば、そうではないと思うからです。しかし、その辛さを超えて作りたい社会やなりたい自分の姿、克服したいコンプレックスを持っているのであれば、ぜひ全力で挑戦してほしいです。

ーー特に起業したい学生さんに向けて、起業するために必要なアクションはありますか?
さまざまなフェーズの人と関わることではないでしょうか。私自身の経験でも、異なるバックグラウンドを持った方々とお話をすることで、自分自身の引き出しが増えたことを実感しています。なかでも、「自分にはない視野を持ち、すでに大きな成功を収めている人」「自分の一歩先で活躍している人」「自分と同じ立ち位置にいて、ライバルになりうる人」との関わりは特に大切にしてほしいと思います。
また、学生起業家は周りから応援されやすいと感じています。起業家の先輩方も親身に相談にのってくれますし、学生限定のコミュニティも充実しているため、多くの人と関わることで孤独を感じずに挑戦できることが学生起業のメリットだと思います。起業を考えている方は、多くの方々と関わりを持って話を聞き、全力でチャレンジして欲しいと思います。

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