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地方での起業サポート力を強化したい!湯沢きら星BASE【民間スタートアップ拠点】

新潟県では、起業・創業にチャレンジしたいという熱い想いをお持ちの方をサポートするため、県内に8地域9か所の「民間スタートアップ拠点」を設けています。
それぞれの地域や拠点の特色を生かし、新潟発のベンチャー・スタートアップを創出していく場として、すでに多くの方々にご活用いただいております。

新潟県内の民間スタートアップ拠点

詳しくは、にいがた創業支援プラットフォームからご確認ください。

今回は湯沢町の民間スタートアップ拠点である「湯沢きら星BASE 」の特集記事をお届けします。


きら星株式会社 代表取締役 伊藤 綾さん

〈プロフィール〉
伊藤 綾(いとう あや)
1985年生まれ。新潟県柏崎市出身。慶應義塾大学法学部を卒業後、株式会社日立ソリューションズで勤務したのち、イオンモール株式会社で商業不動産管理のプロとして経験を積む。「地方に人を呼び込むことで街づくりをしたい」との想いから、ボーダレスキャリア株式会社へ社会人インターンとして参加し、キャリア支援のスキルを学ぶ。その後2019年に、湯沢町を拠点とするきら星株式会社を設立し、湯沢地域を中心として移住相談を行っている。2023年には燕三条拠点を作り、事業はさらなる広がりを見せている。同時に、民間スタートアップ拠点としての役割も果たし、起業を目指す人たちのサポートを行う。



地方で暮らす人を増やし、消滅可能性都市をなくしたい

ーーきら星株式会社の事業内容を教えてください。
私たちきら星は、「地方での暮らしをたのしむ人を増やす」を理念に掲げ、2019年10月に湯沢町に拠点を設けました。過疎になってしまっている自治体さんと連携し、移住相談に関する"お困りごと"を民間企業として請け負っています。

具体的には、移住の際に多くの人がつまずきやすい、住まいや補助金に関する相談、仕事の支援、移住先のさまざまな情報の提供などをワンストップでサポートしています。若い方を地方に呼びこむことで地域を盛り上げたいという想いから、主に20〜40代の移住者の相談に応じています。

ーー移住相談を、あえて民間の企業が担うことでどのようなメリットがあるのでしょうか?
長期に渡る手厚いサポート
があることでしょうか。
全国の自治体に相談窓口はありますが、自治体の職員さんは、決して多くはない人数で莫大な業務量に追われているため、1組の移住検討者に細かいところまで寄り添い、相談に乗るというのはなかなか難しいです。

また、数年間隔で部署異動があるため、「移住」に関する全ての情報を把握することも難しく、人によって情報量に差があることもあると思います。一方で、移住相談をしている人も、頼りにしていた担当者の方が途中で替わってしまったり、信頼できる担当者がいないというのは不安だと思います。「移住」というのはとても時間がかかるものなので、長期的なサポートが大切になってきます。

ーー移住にはどれくらいの期間が必要なのですか?
平均で7〜8ヶ月はかかります。最近はYoutubeなど様々な媒体から情報を得られるので、自分でサクサク情報を得て短期間で移住を決め、補助金のことだけ相談に来られる方もいらっしゃいますが、これはとても稀なケースです。

さらに、ファミリーの場合は2〜3年がかりで検討する方も少なくありません。中には、定年退職してから5年以内に移住することを目標にしたいという方、まだ時期もはっきりしていないが移住をしてみたいという方まで様々です。相談内容によって対応が全く異なってくるので、全て行政でサポートするのは難しいと思います。

その点、長期的にサポートできる私たちであれば、相談者の細かいリクエストに対応することが可能です。私たちは自治体から業務委託という形で請け負い、相談者の方に向き合いながら、自治体と連携してサポートを続けています。

一人一人の希望に寄り添いながら、仕事を支援

ーー移住相談を請け負うきら星が特に力を入れているのはどんな部分ですか?
移住検討者の皆さんの多くが重要視する、「仕事」に関して力を入れています。具体的には以下の3本柱で、相談者一人一人の希望に寄り添える体制を整えています。

①地元の企業と移住者をつなぐ人材紹介
②テレワーカーの居場所を作るシェア&コワーキングスペースの運営
③起業支援

地元の企業に就職したい人には仕事の紹介を行いますし、最近増えているテレワーカーの方(現在の仕事を移住先でも続けることが出来る)には、「居場所」を提供する支援を行っています。テレワーカーの方は部屋から出る機会が少なく、せっかく移住したのに地元の方と交流する機会がほとんどなく、孤立してしまうということがよくあります。そのため、コワーキングスペースを設けて、テレワーカーの方の居場所を作ることで「交流の場」を提供しています。また、新たに事業を起こしたいという方には起業支援を行っており、移住者が希望する仕事によっては必要な支援が異なるので柔軟に対応しています。このようなきめ細やかなサポートの結果、創業から4年ほどで193人(2024年1月時点)の移住を実現させています。

自治体への移住相談の場合は、自治体で全てを解決するというより、仕事のことはハローワークへ、住まいのことは不動産へというようにその道のプロに繋ぐということが多いですが、我々は民間企業だからこそワンストップで出来ることを目指しています。

ーー一貫したきめ細やかなサポートが、確実に移住者を増やしているポイントなのですね。2023年には燕三条拠点もオープンしましたが、燕三条を選んだ理由は?
燕三条地域は地場産業が有名だったり、若手の経営者たちが地域を盛り上げていたりしています。その勢いに魅力を感じていたことや、ありがたい事にこのタイミングで自治体からのお声がけがあり、オープンすることができました。
燕三条拠点では、「オーダメイド移住体験」という1泊2日の移住体験を提供しています。移住希望者とスタッフが、一緒に空き家を見てまわったり、仕事先を探したりと手厚いサポートを行っています。
ここまでのサポートは自治体にはなかなか難しいところなので、私たちならではの取り組みだと思います。実際に体験をされた方からは「移住の解像度が上がった」、「また来てみたい」というお声もいただいており、移住促進への可能性を感じています。
私は社会的なインパクトを残しながら、成長していくベンチャー企業として事業を継続していきたいという想いがあります。全国の人口減少が進んでいる地域に対し、自分たちのソリューションを通して人口を増やしていきたいので、燕三条のようなモデルを県内各地さらには全国に拠点を広げていきたいと考えています。

コワーキングスペース入り口
コワーキングスペースの雰囲気

起業の経験から、痒いところにも手が届く起業支援を実現

ーー移住支援と同時に民間のスタートアップ拠点として起業支援を行っているのはどうしてでしょうか?
私たちの場合、移住者の「仕事」を支援する上で、すでに起業するための相談を受けていました。そのような中で、県からの認定制度があったため、手を上げさせていただきました。

ーーそもそも、なぜ起業支援を移住相談の1つに盛り込まれたのですか?
起業を希望する移住者のサポートと同時に、将来的な雇用を創出するという狙いがあります。私たちが拠点を置いている湯沢だけでなく、日本各地の過疎地域に当てはまることなのですが、人口の少ない地域の仕事は業種、業態が多くあるわけではないのが現状です。特に湯沢町だと、観光業が4割、土建業が3割という産業構造になっていて、製造業がほとんどなく、IT企業も少ない状況です。そのため、新規で自分の事業を立ち上げるという方をどんどん増やしていかないと、この地域の雇用の受け皿がなくなってしまいます。

この地域で起業される方をサポートすることで新たな産業が生まれ、新たな雇用の受け皿ができ、将来的な移住促進に繋がります。スタートアップ拠点はその一環になります。

ーー起業支援について、具体的にどのようなことを行っていますか?
相談者に合わせてレベル別にプログラムを提案しながら、一人一人に合った伴走をしていきます。まずは、「やりたいこと」「実現したいこと」を具体的にしていき、すでにアクションを起こしている方であれば起業準備の状況を確認することから始めていきます。
起業するといっても、個人事業にするのか法人にするのかなどの検討から、創業計画書の書き方、マーケティング、起業資金の調達方法、ビジネスの伝え方など、起業に関する全てのことを最後までしっかり寄り添います。

相談に関しては、1時間あたり5,500円をいただいています。
地域によっては自治体のバックアップのもと支援センターが設けられていて、無料で相談を請け負っています。しかし、全ての自治体が実現できるわけではありません。私たちもスタートアップ拠点とはいえ、大きな費用を動かせるわけではないので、民間企業として費用をいただく形でサポートさせていただいています。会社員を経験してから起業をし、色々な壁を乗り越えてきた私だからこそできることがあると思いますし、スポット的に、必要なタイミングで相談ができるので自由度も高く、相談者の方のプラスになる点も多いと思います。

ーーこの湯沢の地で起業支援を行う意義はどのように考えていますか?
きら星という会社の立場からすると「雇用を生み出したい」と考えていますし、スタートアップ支援拠点という立場では「地方での起業サポート力を強化したい」と考えています。湯沢町と新潟市を比較すると、起業のサポート力という部分は湯沢町の方が劣ります。人口の少ない地域の起業支援は商工会が主な窓口になると思うのですが、相談出来る場所を1つでも増やすことが大切だと考えています。自分が起業した時のことを振り返ると、事業に関する相談をもっといろいろな方と行って、もっと多くの情報を得られたら良かったなと思います。地方であればあるほど、相談出来る相手自体が少ないですから、1つでも多くの窓口を作るという意味で、この湯沢で支援を行う意義があると思います。

ーー起業する際、伊藤さんは窓口ではどんな情報を得たかったのですか?
会社の売上に繋がる情報を得たいなと感じていました。人脈を広げたいという気持ちが強かったのですが、これは「色々な企業と繋がる▶︎案件が生まれる▶︎お金が生まれる」という意識をもっていないと難しいと思います。そのような経験を踏まえて、私たちはその点も意識して支援を行っています。

ーー自身の経験を踏まえて、痒いところまで手が届くサポートを行われているんですね。起業を目指す方にはどのようなことを意識して伝えていますか?
「起業家の志」というのを意識して伝えています。起業をして3年後の継続率は約65%、10年後は約6.5%だと言われています。

起業をすること自体は本当に簡単で、パソコンでシステムに入力すれば、開業届を税務署に提出できるサービスも出てきています。
しかし、続けていくのはやはり難しいです。だからこそ、「なぜやりたいのか」「なぜ続けていくのか」を自問自答出来るほどの志をぜひ持っていただきたいです。会社を経営するうえでのハウツーみたいなものはインターネットで拾うことが出来ると思いますが、経営を続けていくためのマインドの部分はわからないと思います。スタートアップ拠点だからこそ伝えていける、起業経験者の私だからこそ伝えていけるものがあると信じています。

まちづくりの要は、建物ではなく、そこに集まる人々

ーー会社員だった伊藤さんが起業したきっかけを教えていただけますか?
地方に人を呼び寄せることで「まちづくりをしたい」という想いが芽生えたことです。以前勤めていた会社では、ショッピングセンターなどを地域に作ることで、「まちづくり」に携わる仕事をしていました。
タヌキやキツネが出るような地方の都市に、大きなショッピングセンターを建てて、ショッピングセンターを中心として周りに住宅街が出来て、人が集まってきて1つの街が出来上がります。20年ほど前はその手法で成り立っていましたが、今は地方の人口が減って買い物客も減少しています。ショッピングセンターというのは賃料ビジネスなので、テナントさんの売上が上がらないと、賃料が入りません。買い物客が減って、売上がどんどん下がっていくと、テナントは閉店してしまい、最終的にはショッピングセンター自体を閉店させなければいけなくなってしまいます。実際、私も当時担当してた2店舗を、そのような形で閉めざるを得なくなってしまったことがあります。大きな箱を作って、雇用をどんどん生み出すという仕事はとてもやり甲斐があって大好きでしたが、悩むことも多かったです。
また、ショッピングセンターの運営に携わる方々と一緒に仕事をするなかで、「トップに立つ人次第で全体の士気が変わる」ということにも気づき始めました。最終的にたどり着いたのは、箱物も大事だけど、最も重要なのは「人」であるという考え方でした。つまり、まちをつくるのは人なんだということを仕事を通じて学びました。

また、旅行が好きなこともあり、日本の面白さとして各都市の風土や食べ物、住んでいる人たちの気質の違いなど、多様性に魅力を感じていたので、人口減少でその魅力がなくなってしまうのはもったいないなと感じていました。
そんな想いから、今まではハード面からでしたが、今度は「ソフト面からまちづくりに携わりたい、地方に人を送り込むような仕事をしたい」と考え始めました。

ーー起業するまで、どんな準備をされましたか?
2年くらいは会社員をしながら迷走していました。それこそ、起業スクールなども受講しました。具体的なアクションに繋がったのは、2017年ににいがた産業創造機構(NICO)が企画していた、潟チャレ(新潟起業チャレンジ)というU・Iターン補助金事業を見つけたことです。
その事業にチャレンジャーとしてエントリーし、"ここで認められたら起業しよう!"と地方移住ビジネスをプランとして持ち込みました。
結果は、とても厳しい意見を沢山いただきました。「地方で人材紹介会社をしても利益が見込めない」「ビジネスとして成立しない」とまで言われてしまいました。これがとても悔しかったです。しかし、ここで諦めずに1年後にもう1回チャレンジしようと決めました。

ーー厳しい意見を受け止めて、乗り越えたんですね!再チャレンジのために、どんなことを行いましたか?
まずは、移住を希望する方にヒアリングをしました。まだ仕事をしていて関東に住んでいたので、休日は有楽町にある「ふるさと回帰支援センター」に行き、移住したい方に「移住するうえで何がネックになっているか」などをひたすら聞いて回りました。同時に、エンジェル投資家も探しました。その結果、現在、きら星の株主であるボーダレスジャパンさんに出資していただけることになりました。
試行錯誤しながらプランをリブランディングし、ビジネスとして成り立つということをより明確に示したことで、2018年には潟チャレで優秀賞を受賞することができました。

ーー資金調達が出来たことがポイントだったのでしょうか?
それは大きいと思います。資金調達が出来たということは、このビジネスが社会的に認められるものだということの裏付けになり、評価されたのではないかなと思います。大変な道のりでしたが、初めの挫折が原動力になったと思っています。あの悔しさがなければここまで行動に移せなかったなと思います。

志を磨き上げることで、継続できる事業を実現する

ーー苦労を乗り越えてきた伊藤さんだからこそ出来る起業支援があると強く感じました。これから起業を目指すみなさんにアドバイスをお願いします。
やはり、「なぜ起業したいのか」ということをしっかり考え抜いて志を持っておくのが大事だと思います。会社を立ち上げるのは簡単ですが、続けていくことはとても難しいです。資金の問題だったり、人の問題だったり、色々な課題がでてくると思いますが、強い「志」がないと、自分の心が折れてしまうと思います。そのため、「なぜ自分が起業したいのか」「どうして苦しくてもやらないといけないのか」「何のためにやっているのか」という「志」をしっかり磨き上げることで、事業を継続することが出来ると思います。
起業することが目的ではありません。その先をしっかりと見据えてほしいと思います。


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