起業支援から上越をリードするフルサット【民間スタートアップ拠点】
新潟県では、起業・創業にチャレンジしたいという熱い想いをお持ちの方をサポートするため、県内に9つの“民間スタートアップ拠点”を設けています。
それぞれの地域や拠点の特色を生かし、新潟発のベンチャー・スタートアップのエコシステムを実践していく場として、すでに多くの方々にご活用いただいております。
民間スタートアップ拠点についてもっとたくさんの方々に知ってもらいたい…そんな想いから、今回は上越市の「フルサット」をご紹介します。
上越市のスタートアップ支援拠点である「フルサット」の設立者である株式会社北信越地域資源研究所 代表 平原匡さんへ現状を伺うとともに、上越で起業されたデジタルマネージ・ウィズエー株式会社 代表取締役の横田孝宜さん、クラフトビール事業での起業を目指す宮本 正裕さん、社内ベンチャーの立ち上げを行なった株式会社越後薬草 代表取締役 塚田和志さんからお話をお聞きし、上越での起業について深掘っていきます!
スタートアップ支援へ踏み出す
ーー最初は商店街からスタートしているフルサットですが、そこからスタートアップ支援を始められたのはなぜでしょうか?
平原:そもそもフルサットは、新しい場所に共感した人たちが独立・起業・チャレンジを思い描きながら集まってきた場所なので「ゼロから拠点をスタートアップ」した場所だということと、開業のタイミングから「スタートアップ支援」へ個人的にも関心を寄せていたからですね。
しかし、もともとフルサットは「コンテナの商店街」的な見た目から始まっているので、フルサット本体で日常的に行う支援は飲食店の開業・経営等のアドバイスの部分でした。
それに加えて、新たな街が出来たということで環境整備に時間がかかり、初期の頃はスタートアップとはちょっと関連が薄く、私の想いとは裏腹に支援へ本腰を入れるのは容易ではありませんでした。
ーーなるほど、もともと目はつけられていたのですね。そういった状況からどのようにスタートアップ支援を始められたのでしょうか?
平原:現状について少し説明すると、そもそも独立して飲食店経営を志向する人がフルサットという新しい場所に期待し、テナントとしてお店を始めることが多いんです。そういった経営の支援をしていく中で、その延長として徐々にスタートップ支援拠点としてのポジションを認めてもらってきました。
だんだんとフルサットは「何か迷ったら、そのモヤモヤを晴らせる駆け込み寺」になってきているんです。これからは、そういったモヤモヤしている人から起業家をどんどんと輩出していきたいと考えています。
スタートアップ支援への歩み
ーーまずは改めて現状どのような支援を行われているかお聞きできますか?
平原:「フルサットアップス」というプロジェクトで、スタートアップ支援を行っています。
具体的には①無料相談、②メンタリング、③セミナーの3つを提供しています。それ以外にも、お茶を飲みながらざっくばらんに話せる「UPSカフェ」という少しカジュアルな相談の場所も提供しています。
ーー駆け込み寺としての役割から起業家支援まで、幅広く手掛けていらっしゃるのですね!そういった初期段階のフォローから発展し、さらに深い支援をされることもあるのでしょうか?
平原:はい、起業する人向けに事業計画からどっぷり浸かってサポートすることもあります。あとは人によりけりですが金融機関さんと繋げる支援や、フェーズが上がればより現実的な話を行うことももあります。
もちろん相談に来る方の全員が「よし起業しよう」と決断できているわけではなく、悩みの段階に合わせてアプローチも変えています。例えば悩みが漠然としている人には、まずはその「モヤモヤとした悩み」を解決してあげられるような支援をしています。その結果、起業以外の着地地点に落ち着くこともあるんですよ。
ーー支援した方の最終地点として起業以外の道もありえるのですね。様々な方が相談に来られるとのことですが、ずばりどういった方が「起業に向いている」とお考えですか?
平原:「何かの手順を逆に出来る人は起業に向いている」というのが持論です。笑
逆にきちんとひとつひとつの手順を踏むタイプの方は「目の前のことが終わらないと次に行けない」と思ってしまうので、先に進み難い可能性もあるなと。
先に「こうありたい」という想いが先行している人は強いですね。結果のためなら順番はなんでもいい、まずはやってみたいという人は起業できるし、成功しやすいのではないでしょうか。
起業における、上越だからこその強みとは
ーー上越を長年見てこられ、かつスタートアップを支援されている平原さんから見た「上越の強み」はどういったところでしょうか?
平原:上越での起業を念頭に考えると、「地域資源」がひとつのキーワードになるかなと。上越には手つかずで未開拓の資源がまだまだあるので、それらを活用できると面白いと思います。
無鉄砲にやりたいこと、新しいことに取り組めるだけのリソースが上越には眠っていると思います。自分に自信があるという人には、大胆なチャレンジができるだけの環境があるわけです。
ーーそんな上越に位置している「フルサット」の今後の発展についてどうお考えですか?
平原:まずは上越妙高駅という立地の良さを活かし、上越地域で三市(上越市・妙高市・糸魚川市)がつながる拠点となり、三市をリードしていきたいと考えています。そういった次のステップを考える段階にある今、次の世代の「まとめ役となるような若者」が上越へ参入し、旗を掲げるとまた状況が色々と変わってくると思っています。
Uターン創業を上越で
ーーまず初めにどのような領域で起業したのか、簡単にお聞きできますか?
横田:「結果的に」ですがUターン創業で、2018年にデジタルマネージ・ウィズエー株式会社を起業しています。自治体や事業者をメインターゲットに「Wi-Fiを活用して特定範囲の人の存在や移動をみえる化する事業」のサービス化を目指しています。
ーーUターン創業なんですね!人流解析というとなかなか聞き馴染みのない分野ではありますが、どのようにデータを集めているのでしょうか?
横田:なかなか説明が難しい事業だとは思っています。笑
一言でいうと、Wi-Fiが感知するスマホやノートPCなどモバイル機器の数から人の存在を「データ化」するというものです。直接的な個人情報をとらずに、人の存在を継続的に取得する試みは特に自治体や公共事業者の皆さんの潜在的なニーズに適う取り組みだと考えています。
当初簡単にできると思っていたことに時間がかかったり、反対に想定していなかった意外な活用法を見出したりする日々ですが、まちづくり、観光、交通、防災など様々な分野で幅広く応用できると考えています。
起業までの道のり
ーー専門性の高い領域で事業を行われているのですね。そもそもこの領域で起業を考えるに至ったきっかけを教えていただけますか?
横田:専門性と言われると説明しにくいのですが(笑) もともと大学の専門が哲学だったり、就職しても体を壊してまったく仕事ができなかった時期があったりと、実は今の私を直接的に説明できるような経歴がないんです。
一方でとにかくできることをしてきた経験が生き方に対する気付きにつながり、起業や今の挑戦につながっているとは感じています。
ーーこれをやりたい!というような事業がベースにあったわけではなく、「生き方」が起業を考える原点だったわけですね。
横田:そうですね。何をやるかという視点からの起業ではなく、より自分らしく生きるために起業を考え、そして地元の上越市に戻ってきたという感じでしょうか。
起業支援と起業
ーー横田さんにとってフルサットはどのような支援拠点でしょうか?
横田:そもそも私は「フルサット」に事業拠点を置いて支援を受ける立場でもありますし、6月からフルサットを運営する北信越地域資源研究所のサポートメンバーという立場にもなっています。なので運営する側と相談する側、双方を知る立場としてお話しさせていただきますね。
フルサットは上越地域で他にはないスタートアップ拠点として、とても重要な役割を果たしていると考えています。歴史ある企業、事業者さんは多い反面、新しい取り組みをするために必要な情報が現在でもすごく少ないと感じています。
この点、民間スタートアップ拠点として当地にフルサットがあることで、県をはじめ、地域外の情報や取り組みもダイレクトに伝わってくる上、さらに身近に関わることが可能になります。私はここが最大のメリットだと感じています。
ーーフルサットの支援を受け起業し、またフルサットの支援メンバーでもある横田さんだからこそのご意見ありがとうございます!最後に起業を考えている方に一言をお願いできますでしょうか?
横田:まず大前提として、起業そのものはいまや転職に違和感を感じないのと同様、難しく考えなくていいのではないかと思います。ただ「自分らしく生きることが必ずしも楽ではないこと」に気付いているけど、「それでもやっぱり、自分らしく生きるを選んでしまう」と思える人なら起業はひとつの選択肢になるかと思いますね。
今の私の事業や立場としては、地域を盛り上げたい、そのために事業を成功させたいという想いをもち、共に高みを目指して行動できる人と一緒に上越を盛り上げていきたいです。
上越でクラフトビールに捧ぐ
ーークラフトビールで起業を考えていらっしゃるとのことですが、現在はどのようなことに取り組まれているかまずは伺えますか?
宮本:現在は上越市内で、クラフトビール事業を展開すべくその準備に奔走している段階です。
2023年の夏前までには自家醸造ビールの製造販売を開始できている状態を目指し、まずは資金調達に向けてひた走っていますね。
この事業は僕一人で進めているわけではなくて、上越出身の綿貫卓人と共同創業で開始する予定なんです。
ーー共同での創業なんですね!お二人はどういう経緯で起業を考え始められたのでしょうか?
宮本:きっかけは3年ほど前になります。当時バーを経営していた綿貫から「一緒にクラフトビールを作らないか」と突然提案を受けたんです。その時、私は会社員として働いていたのでその場ですぐに色好い返事を返せはしなかったのですが、今の事業を考え始めたのはそのタイミングでした。
そこからあれよ、あれよと言う間に会社を退職し起業に向かって走り始めていましたね。僕を誘った綿貫も気がつけばクラフトビールを学ぶために上越を離れ、静岡に単身武者修行に出ていますし、もうこれはやるしかないなと。そんな怒涛の流れではありますが、クラフトビール事業での開業を目指し夢中で取り組んでいます。
ーー綿貫さんからの突然の勧誘で始まった「クラフトビール事業」にかける想いを伺えますか?
宮本:そもそもクラフトビールと市販のビールの大きな違いは、「ブルワーの想い」という部分です。私達であれば、「さまざまな物事が飛び交う世の中で、人々、町、自然とがつながるその瞬間に、そっと寄り添えるような温かみのあるビールを造り続けます」という想いの部分ですね。
上越地域の看板である雁木通りは別の家の軒先同士をつないで、冬でも人が通れるような道を地域のみんなで作っていました。人と人がつながって作っていた雁木通りのように、私達も人と人をつなげながら、ビールを通して楽しいひとときを共有してもらえる空間を作っていきたいです。
フルサットの支援で、上越起業
ーーフルサットとはどういった経緯で繋がったのでしょうか?
宮本:創業場所を探しているタイミングで、知り合いからフルサットの平原さんを紹介してもらったのがきっかけです。そのご縁から起業に関して色々と相談に乗っていただくようになりました。補助金申請のアドバイスなど、起業で最も大事となる初動の部分でとても手厚くサポートしていただきました。
最初はフルサットの中で醸造所を建てるような話も出ていたのですが、箱の大きさや諸々の関係で断念せざるを得ず、別の場所に設立予定です。ブルワリーの設立後もフルサットの中でポップアップを企画したりして、継続的にコラボしていきたいです。
ーー偶然の縁からの繋がりだったのですね!最後に、上越ならではの良さと宮本さんが思う上越で起業する意味について伺えますか?
宮本:上越の良さは「地域を盛り上げる、街の魅力を広げる」という点を学べることですね。良い人間関係を構築しやすいのがとても良いと感じています。
自分の出身地である宇治市よりも、断然に上越に対する想い入れのほうが強いので、取り組むのであれば上越市の課題が良いですし、上越には都市部の人がまだ発見できていない課題があると思います。そんな課題に挑戦していくことが上越で起業する意味ですね。
主力事業から偶然生まれた、社内ベンチャーの芽
ーーまずは「株式会社越後薬草」について、それから社内ベンチャーの内容について簡単に聞かせてください!
塚田:株式会社越後薬草は、今年で創業46年目になります。もともと畜産飼料から事業をスタートしているのですが、現在は健康食品や植物発酵飲料等の販売をメイン事業として展開しています。弊社の事業は”酵素”がキーとなっており、主力製品も酵素が使われています。
そのメイン事業とは別に、クラフトジンをつくる事業も展開していてそれが社内初のベンチャーとなっています。もう少し具体的に説明すると、主力製品をつくる際に副産物的に排出される「アルコール」を用いて「クラフトジン」をつくるという事業内容ですね。
クラフトジン「THE HARBALIST YASO GIN」ができるまで
ーー社内ベンチャーを立ち上げ、クラフトジンをつくるに至った経緯についてさらに詳しく伺えますか?
塚田:今までは利用せず、揮発させるだけだったアルコールの活用を考えた際に目に止まったのが「ジン」でした。個人的にはそれほどお酒が好きな方ではなかったのですが、半年でジンを400種類は飲み、研究し尽くしました。単純計算で1日2種類は試飲していることになるので、やると決めたらとことんこだわり抜くという自分の中にある「ものづくり精神」に火がついたんだと思っています。
ーー「ものづくりの魂」へ一気に火が付きここまで走って来られたのですね。事業を展開する上での想いについても伺えますか?
塚田:本業ではOEM、PBという形で製造を担当することが多く、エンドユーザーと直接関わることはそもそも少なかったです。しかし社内ベンチャーを立ち上げてからは「製造から販売まで一貫して社内で行う」ことができ、そういった知識・ノウハウの蓄積もできるので、会社としてのメリットもすごく大きかったと感じています。
また満を持してクラフトジンを発売するというタイミングでコロナに直面しました。その際もものすごく苦労はしましたが、同時に「自社のみで販売するスキル」を磨くことができ成長できました。本当に色々な意味で僕も会社も成長させてくれている事業だと思います。
上越を盛り上げる
ーー波乱万丈な社内ベンチャー立ち上げ秘話をここまでお聞きしましたが、最後に上越を盛り上げるために必要なことについて伺えたらと思います。今後の上越発展に必要なことは、なんだとお考えでしょうか?
塚田:まずは優秀な若い人たちが流出してしまう現状を少しずつでも変えたいと考えています。「上越は魅力的なモノができてきたね」「上越にちょっと残ってみようかな」と彼らに思わせられる理由付けになる企業にしたいです。
そして雇用をつくりたいですね。
若い人が勤めたくなるような雇用先があるという状態をつくりたい。越後薬草は平均年齢29歳ですが、この輪をどんどん広げていき、一つの企業ではできない『上越を盛り上げる』を達成していきたいですね。
前回の記事はコチラ