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フレッシュな視点で挑む第二創業「0の視点」

今回は、株式会社大橋洋食器の星野さんへ第二創業に至った経緯や事業内容についてインタビューしました。星野さんは事業の核である洋食器販売と並行し、新規事業として『バイオマス原料を用いたモノづくり』に挑戦されています。この異色の第二創業について詳しくお聞きしていきます。


株式会社大橋洋食器 取締役社長 星野太志さん

〈プロフィール〉
星野 太志(ほしの たいし)

神奈川県生まれ。上智大学卒業後、NTTドコモ入社。当時国内で発売されたばかりのスマートフォン端末やサービスのリリースに関わり、同社広報部では経営幹部のプレゼン資料の作成や報道対応などの役割を担う。

親族が経営する(株)大橋洋食器の前社長が急逝したことで平成25年に同社へ入社し新潟へ移住。
平成30年には燕三条地場産業振興センターの「商品開発アドバイザー」に就任するなど、県内工場とのリレーションを構築し、県産の技術を生かした独自のモノづくりスタイルを確立。
独創性のある商品が評価され、帝国ホテル、星野リゾートなどの国内施設の他、パリの星付きレストランにも納入するほか、国内外の多くのホテルレストランでの取扱いが決まっている。

『選択と集中』により専門性を高め、成長を図る

ーー第二創業の内容を伺った際は、なぜその事業に挑戦したのかとても疑問に思いました。まずは本業についてご説明いただけますか?

星野:「洋食器販売とバイオマス原料を用いたモノづくり」という組み合わせが異色なことは自覚していますが、ちゃんと理由があるのでご説明しますね。

もともと大橋洋食器ではホテル・飲食店向けに食器を軸として幅広い商品を販売していましたが、ECの普及で問屋事業がかなり厳しい状況に立たされました。そこで事業の見直しを行い、幅広く取り扱うのをやめ、商品を絞りました。選択と集中ですね。

以前、国内の洋食レストランは「海外から輸入された白いお皿」を使うことが一般的でした。そんな中、外国人観光客から「なんで日本のレストランでは自国の物を使わないのだ?海外の物を使っている日本のレストランが多いことに驚いた。素晴らしい技術があるのだから、日本の料理は日本のお皿で出して欲しい」といった声が出ていると聞きました。

その話から「レストランで使われるお皿は輸入品が強く、まだまだ日本製に焦点が当たっていないんだな」と実感しました。そこで着手したのが『和のデザインを取り入れた洋食器』の開発です。一方で、「今後、必ず海外からの観光客は増える。そうなれば日本製のお皿を使ってみたい、見てみたいという海外観光客の需要が高まる。」という確信もありました。

ーー日本製のお皿が使われていない市場状況と、インバウンド需要に注目し、“和食器のテイスト”を洋食器に取り入れたお皿づくりを始めたわけですね。そこからどう第二創業に繋がるのでしょうか?

星野:読みどおり、2013年頃からのインバウンド需要の高まりと『和のデザインを取り入れた洋食器』が上手くマッチし、資生堂、帝国ホテル、星野リゾートを始め、多くの取引先を獲得でき順風満帆だったのですが、2020年のコロナを機にすべてが一転します。

ほぼすべての取引がストップし、オリンピックに合わせていた計画がすべてひっくり返りました。2020年は過去最高益を更新するはずだったのですが、一気に売上が伸び悩む事態となり、1つの市場に依存する経営のリスクを痛感すると同時に、今後は複数の柱を作り、社会変化に強い会社を作る必要があると感じたことがきっかけとなりました。


苦心のすえに見つけた二本目の柱

ーーコロナをきっかけに集中型の危うさを痛感したわけですね。そこからどのように第二創業を進められたのでしょうか?

星野:まずは経営者の先輩から話を聞き、情報の整理と戦略立てから始め、「新事業は“隣接異業種”を意識して考える」という方針を決めました。自社の強みである洋食器の開発ノウハウは活かしつつ、「市場」や「商品の提供方法」等の戦略軸を1つだけ隣に動かすという発想です。

最初に着手したのが「商品の提供方法の変更」です。ほとんど外注していた商品開発や製造方法を見直しました。製造設備などを入れ、自社で素早く商品開発・生産が可能な体制にシフトすることで、社会環境の変化にも強い組織作りを目指しました。当時は商品をつくる際の原材料不足や価格高騰が深刻な課題になりつつあったので、その課題解決に繋がるモノづくりをしたいと考え、次に「食品廃棄物を使った食器の開発」へ進路を決めました。

原料に関しては環境に優しい再生材の活用なども考えましたが、カフェを運営する社長から「コーヒーの粉の処理方法」が環境問題になっていると聞き、「廃棄されたコーヒーの粉を使った食器づくり」を新事業として行うと決めました。

そして、バイオマス原料のモノづくり事業における最初のステップとして『コーヒーの粉を使ったカトラリーづくり』をスタートさせました。カトラリーがようやく形になり、現在は販売に向けて最終調整を行っているところです。

コーヒーの粉を原料に使用した実際の商品

倒れず進み続けられた理由

ーーだから、洋食器販売からバイオマス原料でのモノづくりという異色の第二創業に挑戦されているわけですね。困難な挑戦をここまでやりきってこれた理由は何だったのでしょうか?

星野:「社外の協力者の存在」だと思います。想いだけでは解決できない状況で冷静にさせてくれたり、活路を見つけるための客観的なアドバイスをもらえたからこそ、ここまでこぎつけられました。

新しいことを始める際には、「同じ想いや志」を共有できる人がいることで、よりビジネスプランの精度も上がり、1人の時よりも力が大きくなります。「廃棄されたコーヒーの粉を使った食器づくり」も、カフェを運営する社長の存在が大きく、共に歩んでくれる存在が原動力となりました。今後この事業を発展させるため、一緒に新しい組織や仕組みの構想も検討しており、やはり協力者がいると一気に事業がスケールすると実感しています。


「0」の視点から見る

ーー社内で話題には挙がるけれど、なかなか第二創業に踏み出せないという話をよく耳にします。星野さんは「第二創業の挑戦」に何が大事だと思いますか?

星野:『視点が固定されないように補正し続ける』ことでしょうか。

私は生まれも育ちも新潟ではないですし、前職では通信やITに関わる仕事をしており、地域や業界の知識が0の状態で大橋洋食器に入社しています。ある意味素人だからこそ客観的な視点で見れました。

新潟には優れた産業が多くありますが、地元で育った人たちにとっては当たり前になっていて、対外的な発信はしていなかったりします。対して私は外から来たことで、地元の方があまり見ていない場所にも実はすごい、というモノが多くあると感じられました。それが新商品の開発や新事業を考えるキッカケにもなっています。

フレッシュな視点もすごく大事で、「お風呂の中で名案が思いつく」という話があるように、私も職場以外のところで視点の補正を行なっています。例えば東京出張の際、上越新幹線の車窓から流れる景色を見て、新潟という土地や洋食器業界の常識に染まりつつある感覚を0に戻すようにしています。

洋食器販売事業からバイオマス原料のモノづくり事業という第二創業の挑戦について話しましたが、そもそも第二創業することでフレッシュな視点に立ち返ることができ、視点をリセットできました。本業以外に軸足を持てることが第二創業の大きなメリットではありますが、視点の補正効果も大きいと考えています。


相乗効果と還元

ーー最後に今後の展望について伺えますか?

星野:今後5年くらいのうちに、『バイオマス原料でのモノづくり事業』をもっと盤石な状態にしたいです。また現状は本業との間である程度の相乗効果は生まれていますが、第二創業で培ったノウハウを母体の大橋洋食器にもっと還元していきたいと考えています。

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