デザイン・デジタル・共創コミュニティの力でローカルをアップデート
今回は「J-Startup NIIGATA(以下、Jスタ新潟)」の選定企業である、株式会社DERTAの特集記事をお届けします。
DERTAとは?
ーー株式会社DERTAはどのような企業なのでしょうか?
私たちは、インパクトスタートアップとして、社会的価値と経済的価値の両立を目指している企業です。地方企業や地域が抱えている課題を、デザイン・デジタル・共創コミュニティという3つの軸で解決していくことをスローガンとして掲げています。
具体的には、地域に熱い想いをもった起業家やクリエイターと、自治体や大学などを繋げる"ハブ"となり、地域の中で人と企業が成長するための社会装置としての役割を果たすというものです。
事業に関わるメンバーは18人いますが、そのうち正社員は2人だけです。残りのメンバーは他の組織に属しながら、業務委託などといった形で参加しています。
ーーメンバーの9割が兼業というのは珍しいですね。
これは、我々の特徴であり、強みでもあると思っています。起業家やクリエイター、研究者などの様々な職種が集まることで、幅広いネットワークにアプローチすることができ、各々のネットワーク効果が合わさって企業成長に繋がっていると考えています。
ーー具体的には、どのようなことに取り組んでいるのでしょうか?
事業としては、コミュニティ運営やコンサルティング、知見の研究発表など様々ありますが、特に注力しているのはコミュニティ運営です。DERTAが運営する様々なコミュニティでは、新潟ゆかりのクリエイターやイノベーターなど、延べ700人にご参加いただきました。経営者やエンジニア、営業職はもちろん、高校生なども含めて幅広い職種の皆様とともに、属性や組織の壁を超えて手を組み、地域のアップデートのために何ができるかを話し合っています。この交流を通して、地域の中で信頼関係が生まれ、地域課題に応じたプロジェクトチームが立ち上がりました。現在は10以上のプロジェクトが生まれており、そのプロジェクトを支援しています。
コンサルティング事業は、このコミュニティを活かした展開をしています。企業が新規事業を立ち上げる際にコミュニティのメンバーを派遣する、いわゆる伴走型のコンサルティングです。あくまで企業側が主体であるため、実際に企業の皆さんに手を動かしていただき、どのようにして取り組んだら良いのか、ワークショップなどを開催しながら学んでいただきます。
また、知見の研究発表は、コミュニティで得られた学びを資料化し、研究論文として学会に提出するなど、コンサルティングの後押しに繋げることを目的としています。
デザイン思考を取り入れて課題を解決
ーーDERTAの軸に"デザイン"とありますが、視覚的にアプローチするということでしょうか?
「視覚的に」という捉え方ではなく、我々は"デザイン思考"という意味でデザインという言葉を使っています。デザインというと、多くの方はロゴやポスターなどの最終的な成果物を思い浮かべると思います。しかし、デザイナーの仕事をつぶさに見ていくと、成果物が出来上がる前段階には、その商品やサービスにどのような歴史があるのか、誰にどんな風に愛されているのかなどがきめ細やかに設計されています。これがデザイナーの本質的な仕事だとも言われています。
我々が掲げている"デザイン"というのはまさに、きめ細かいプロダクト設計の考え方です。会社員が"デザイン思考"を持つことで課題解決に繋がったり、新しいものを生み出したり出来ると考えており、それがDERTAのすべての軸となっています。
ーー具体的には、どのようにしてビジネスに活かしていくのでしょうか?
例えば、デザイン思考において最初に取り組むのは、「ユーザーの声を聞く」ということです。多様なメディアに囲まれている現代では、価値観も多様化していて、誰も答えがわからない状態になっていると思います。その環境下で商品やサービスを提供するならば、正解は実際に手に取ってくださるユーザーの皆さんの中にしかないと思います。ユーザーの声を聞くことが、最終的に良いものを作り上げることに繋がります。
"1万日"を機に起業を決意
ーー大学院卒業後は新潟県内の大手メーカーに就職されていますが、いつから起業を考えていたのでしょうか?
起業する未来は私が高校生の頃から抱いていましたが、そのきっかけは中学生時代に出会った"アフィリエイト"です。自分のHPを作成し、サイトに広告枠を設けてお金を稼ぐという仕組みです。両親に頼んで契約してもらい、HPを作ってブログを書き始めました。Webサイトを制作していく中で、どのようにしたらもっと良い結果を出せるのかなど試行錯誤しつつ、様々な角度で情報を探していたところ、起業・創業という道が世の中にあることを知り、自分でもビジネスを起こしたいと思うようになりました。
大学に入ってからは、海外の商品を輸入して販売してみたり、2日間限定のかき氷店を開いてみたりと、起業に向けていろいろなことに取り組みました。どうやったらビジネスとして成り立つのか試行錯誤したものの、ピンとくるコンテンツがなく、まずは社会に出てみようと就職に至りました。勤め先のメーカーは仕入れや加工、流通まで全てを担っており、私は経営管理という立場から社会の全体像を学びました。その後、起業に踏み切ったのは、"自分が生まれてから1万日を前に"というタイミングです。
このタイミングで起業しようと考えた理由は、大学生の頃から"人生はおよそ3万日しかない"と、人生を逆算して考えながら物事を進めてきたということもあり、人生の1/3が終わる前に起業しようと思ったためです。とはいえ、趣味程度の知識のまま起業に踏み切ったため、当時はとても苦労しました。2014年に勤め先のメーカーを退職し、当時普及し始めたスマートフォン対応のHP制作を基盤にフリーランスでの事業を開始しました。2015年には株式会社クフーを立ち上げましたが、さらなるサービス展開をしたくても、Web制作の受託で手一杯になってしまい、事業拡大は思うように上手くいきませんでした。そんな中、EC運営を手がける「合同会社直送計画」の社長だった谷(現:株式会社クーネルワーク代表取締役)と出会い、地域の採用・教育における課題感が一致し、合併することになりました。合併してできた会社が、私が現在、取締役CFOを務める株式会社クーネルワークです。
ーー取締役CFOを兼任しながら、2022年に株式会社DERTAを立ち上げました。その背景にはどのような想いがあるのでしょうか?
会社の経営に携わる一方で、2019年から起業家やクリエイター向けの勉強会などを行う共創コミュニティを運営していました。そのコミュニティから生まれるアイディアや活動は大変魅力的なものだったのですが、コロナ禍により状況が変わり、動きがストップしてしまいました。利益を重視して動いてきたわけではなかったのですが、やはり、お金が回らないと資本主義が主体の社会においては活動自体もままならないと考え、地域の共創コミュニティという社会的意義のある活動とビジネスを繋げるための核となる組織を作ろうと思い、株式会社DERTAを立ち上げました。
サードドアを活かして、さらなる可能性を広げたい
ーー2023年にJスタ新潟に選定されましたが、今後、どのような変化が期待できますか?
取締役CFOを務めている株式会社クーネルワークもJスタに選定していただいているので、その影響力の大きさは常々実感しています。Jスタ新潟に選定いただくと信頼度が増し、融資や補助金などの申請においてはとても強みになります。また、県からの支援も厚く、事業が飛躍するためのキーパーソンをご紹介いただき、さらなるネットワークの広がりが期待できると考えています。
加えて、首都圏などで行われるセミナー情報等、得られる情報が格段に増えます。時には、普段お会いするのが難しいような経営者の方々と繋がることができるので、サードドアが常に開かれているなと感じています。今後は、そこにどう飛び込んでいくのか、この環境を活かすための行動をしていかなければいけないと考えています。
一人一人のポジティブな一歩を踏み出すきっかけを
ーー今後についてはどのようなビジョンを持っていますか?
多くの企業や個人が一歩前に踏み出すことのできる、新しい環境を作りたいと考えています。誰かが頑張って、誰かが頑張らなくて良いということではなく、皆がポジティブに一歩を踏み出せる状況という意味です。ポジティブな一歩に繋がる事業を多く生み出して社会に実装することで、関わってくださった皆さんに喜んでもらいたいです。また、良いサービスや商品、環境などが生まれれば、"新潟に住みたい"という人も増えてくると思いますし、さらなる地域の活性化に繋がり、地域の未来を変えていってくれるのではないでしょうか。
ーー地域に人を呼び込むことも視野に入れているのですね?
新潟に限らず、地域社会全体として閉塞感を感じています。物事が変わらないと優秀な人材が首都圏に流れてしまうということも実際にあると思います。しかし、生まれ育った場所に愛着を持っているという方はたくさんいるはずなので、そのような方々が住み続けられる、戻ってこられるような地域になるお手伝いをしたいという想いがあります。
周りに目を向けることが起業のアイディアを生み出す
ーー起業したいと考えている方にアドバイスをお願いします。
起業をしたいと考えているなら、「とりあえず起業してみる」この一歩が本当に大事だと思います。起業したいと思いながらも踏みとどまっている人が多いと思うのですが、「まずは起業してから考えましょう」と言いたいです。私は起業のための準備をしっかりせずに勢いで起業しましたが、起業したからこそわかったことが沢山あります。
"起業検討中の人"と"起業している人"では、周りが話してくれる内容も圧倒的に違うと思っています。つまり、得られる情報が変わってくるのです。お金を稼がなきゃいけないと焦ることで本気度も変わってきますし、そのためのアンテナも広がっていきます。今はどこに住んでいてもインターネットを使えば調べられる世の中だとは思いますが、何かをやっていなければ情報は入ってこないですし、自分に必要な情報しか見ようとしないと思います。一方で、起業したら探すキーワードが変わってきますし、人を雇えばしっかり給与を払うことができるか心配にもなります。このような経験は起業しないと得られませんので、一度起業して壁にぶつかりながら、その都度考えていったら良いのではないでしょうか。
ーーまだ何もアイディアがないけれど、"起業"というキーワードを思い描いている人にはどのようなアクションが必要でしょうか?
まずは周りの人の話を聞くことが大切なのではないでしょうか。アイディアはないが起業を考えている方は、自分自身に目が行ってしまっていることが多いと思います。実際にお金をいただいて何か提供しようと思うためには、誰かの課題を解決しなければいけません。しかし、その課題が見えていないから、起業したいけど何したらいいかわからないという状態なのだと思います。課題が明確で、この人たちを助けたいと思ったら、起業するためのコンテンツはたくさんありますし、事業化できると思いますので、まずは自分ではなく、周りに目を向けましょう。
また、場合によっては自分自身を作り変えていくことも必要だと思います。作り変えていかないと、自分にできることだけで考えてしまい、可能性が狭まってしまいます。例えば、アプリ開発が出来なかったとしても、自分が本当に解決したいと思える課題であれば、アプリ開発について学ばざるを得なくなります。仕組みを学んだり、自分で試してみたり、どれくらいの相場で売られているのか調べてみたりもすると思います。仮にアプリを作り切れなくてもこのようなアクションは必要です。自ら勉強したり、時には人に聞いてみたりして、自分自身を作り変えていくような努力をしていくことが大切です。
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