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DXの力で、のびのび働く環境づくりをサポート 〜起業家インタビュー 株式会社Pepo代表取締役 木村愛子さん〜

今回は、新潟にUターン起業し、子育てと仕事を両立されている、株式会社Pepo代表取締役 木村愛子さんにお話を伺いました。

株式会社Pepo代表取締役 木村愛子さん

<プロフィール>
木村 愛子(きむら あいこ)
1984年新潟県新潟市西蒲区(旧巻町)生まれ。千葉大学教育学部にて幼稚園教員および小学校教員免許を取得。卒業後はベンチャー企業に就職し、システム開発のスキルを身につける。会社の倒産をきっかけに転職し、2011年にはIT企業の立ち上げに携わる。システムエンジニアとして経験を積み、2019年に独立。2020年に地元・新潟へUターンし、夫と共に株式会社Pepoを立ち上げる。



FileMakerで業務課題を解消

ーー株式会社Pepoについて教えてください。
株式会社PepoはバックオフィスのDX化を推進しているIT企業です。主にClaris FileMaker(以下FileMaker)というシステムを使い、業務システムの開発や運用をサポートしています。また、新潟県内唯一のFileMakerパートナーとして、長年ご利用されている既存ユーザーの技術サポートも対応しています。夫婦で自宅の一室から始めた会社ですが、今では4人の仲間も加わり、お任せいただける案件の規模もますます大きくなっています。

※Claris FileMaker
Appleの子会社であるClaris International Inc.が開発したデータベース管理システム。日本国内では20万以上の組織で利用され、高い人気を誇る。収集したデータの蓄積や管理ができ、なかでも「操作が簡単」という特徴がある。また、複数人で共有できるため、部署やチーム内で同じデータベースを使うことが可能。ノーコード・ローコード開発に優れ、自由な画面設計と高い操作性を備えたデータベース管理システム。

ーーFileMakerをメインに使用している理由を教えてください。
私がFileMakerの"ユーザー"だったことが1番の理由です。私はもともとエンジニアではなく、最初に勤めた会社では事務職としてFileMakerを使用してデータ集計を行っていました。しかし、業務の過程で「こんなシステムがあったらいいな」という思いから開発に興味を持ち始め、そこから3年ほどかけて自らデータベースを設計し、新しいシステムを作るようになりました。そのため、我が社では現在、FileMakerをメインに使用しています。

ーー作り手としても使い続けたい魅力があるのですね。
FileMakerは、プログラミングやデータベースの知識がない方でも直感的に画面デザインが作成出来るところが魅力です。データ入力や検索はもともと機能として備わっており、それを活用しつつ、パワーポイントと似た感覚で扱えます。加えて、機能の拡張性が高いところも魅力の1つであり、私が作りたいと思ったものは概ね実現出来ています。他のサービスなども試してみましたが、私には学習が難しかったり出来ないことが多かったりして使いにくさを感じました。そのため、今では休みの日もFileMakerの情報収集をしてしまうほど、FileMakerの虜になっています。

紆余曲折しながら乗り越え、その先に見つけた"得意"を仕事に

ーー起業するまでの経緯を教えてください。
起業する前は、会社員として3社経験を積みました。1社目は約800人の社員がいるベンチャー企業で、営業職と事務職を経験しました。私は千葉大学の教育学部出身なので、本来であれば教師や保育士の道を選ぶはずでした。しかし、いざ就職活動を始めた際に「自分の適性とは違うな」という気持ちが芽生えたため、民間企業への就職を決意し、携帯電話や水などさまざま商品を扱うベンチャー企業に入社しました。そこで、保険商材を売り始めるための新規事業部に営業として配属され、ひたすら個人宅に電話するというのが主な業務でした。しかし、営業はあまり得意ではなく、半年ほど経った頃、管理部の役員からお声がけいただいて事務職に移りました。

事務職の仕事では、書類の不備をチェックするなどの事務作業はもちろん、このベンチャー企業は営業に大変力を入れていたため、「どうしたら成約率を上げられるか」「どのようにしたら不備を減らせるか」を追求する作業も行っていました。加えて、不正を防ぐためのコンプライアンスチェックなど、営業のサポートに関する業務全般を請け負っている部署でもありました。その部署で、データベースから顧客リストの整備をする業務を通してFileMakerと出会いました。

ーー具体的にはどのような業務なのでしょうか?
架電リスト(リード)のデータベースの重複チェックの他、見込と契約のデータベースから営業KPIの集計・粗利計算などを行っていました。組織拡大のスピードが速かったため、新しい部署のために営業管理システムを構築し、提供したりしていました。その作業の中で、検索・集計の作業に楽しさを感じると同時に「自分はこれが得意なんだ」と実感しました。これをきっかけに「こんな業務に取り組んでみたい」と上司に提案するなど、仕事に対して積極的になっていきました。さまざまなことに挑戦できる、とても恵まれた環境だったと感じています。
しかし、入社3年目に倒産してしまい、その後はソフトウェアの開発・提供を行う企業に一般職として入社しました。しかし、以前のように効率よく仕事が出来る仕組みを作ろうと残業をしていたところ、上司から指導を受けました。「あなたの仕事はそこじゃない。あなたは一般職なので、決まった仕事をこなすだけでいい」という会社の方針に、違和感を感じていました。そんなタイミングで前職の仲間たちから「会社を作るのでエンジニアとして来てくれないか?」と声をかけてもらい、3社目の株式会社サポータスに立ち上げメンバーとして参加しました。

ーーそこから本格的にエンジニアとしての経験を積んでいったのですか?
1社目と同じ、ユーザーの要望に沿った管理システムを提供するという仕事をこなしました。得意だと感じていた業務ですし、提供する相手が社内の人たちから社外の人たちに変わっただけだったため、抵抗なく打ち込むことが出来ました。
営業以外の全工程を1人で担当していたため、ユーザーの要望をヒアリングしたり、解決策を提案する上流工程では、文系の特性が役に立ったと思います。

起業することで、のびのびとした仕事・子育てを実現

ーー新潟にUターンされたのは何かきっかけがあったのでしょうか?
理由はいくつかあるのですが、大きな理由としては子育ての環境を考えるようになったことです。2012年に1人目を出産し、東京での子育てに大変さを感じていたのですが、2017年に2人目を出産したことで大変さもさらに大きくなっていました。

ーー東京での子育てにどんな大変さを感じましたか?
公園は整備されていてとても綺麗なのですが、不審者の情報が絶えないことや交通量が多いことが心配で、子どもを1人で遊びに行かせられない大変さがあります。また、学校や習い事が充実している一方で、選択肢が多すぎると感じました。幼稚園受験、小学校受験、中学受験、習い事の選択は多くの場合、子どもの意思が芽生える前に親が決めることが多いため、親の責任が大きすぎるという大変さがあると思います。新潟であれば、近くの保育園に通い、公立の小中学校に行き、高校は本人の希望を聞いて一緒に選ぶことができると考えました。
また、当時はマンションに住んでいたため、子どもが走り回る度にとても気を遣いました。子ども達のことを考えると戸建てを検討しましたが、理想の広さを求めると価格も高く、難しいなと感じていました。

ーー子育ての大変さ以外にはどんな理由があったのでしょうか?
働く環境の変化がありました。創業当時から働いている私は、エンジニアとしての開発以外に総務や事務、人事として採用も行っており、昇格や役員登用については子育てで残業や休日出勤ができないため断っていました。しかし、同じ役職の他の社員と比べると与えられている裁量が明らかに大きく、会社が成長するにつれてその違和感も増していき、新しく導入した人事考課制度では育児と両立しながらのキャリアアップは頭打ちの状況になりました。そんな中、社長から「独立した方がもっとキャリアアップできるのではないか」というアドバイスを受けて、独立を考え始めました。

ーー子育てと仕事をバランスよく両立させるために独立を検討し始めたのですね。独立から起業に向けてはどのような流れで動きましたか?
業務委託という形で、独立する会社の仕事を請けることから始めました。自分でも営業活動をしてみて、軌道に乗りそうだと判断できれば起業しようと考えていました。実は夫も、私が独立する会社に業務委託という形でIT営業のノウハウを叩き込んでもらいました。1年間、とても手厚い環境の中で夫婦でお世話になり、その後、新潟に移住して起業することが出来ました。

ーー今、思い描いた環境は実現できていますか?
仕事も子育ても伸び伸び出来ているのが嬉しいです。子どもがまだ小さかった創業当時は、1日5時間ほど会社のために時間を使い、残りは子育て時間に切り替えていましたが、下の子が小学生になったタイミングでフルコミットしました。自分のライフスタイルに合わせて仕事時間の調整が出来るのは、起業したからこそだと思います。
さらに、新潟に来てからは家と会社、学校などの子どもを育てるために必要な施設が近くにあり、移動もスムーズなので時間を有効に活用できています。

細やかなコミュニケーションで業務も人間関係もスムーズに

ーー独立する会社から驚くほど手厚いサポートがあったのはどうしてなのでしょうか?
おそらく、そのまま働き続けても組織の中で私の望んでいる環境を実現するのは難しいと、私自身はもちろん経営陣も感じていたのだと思います。在職中は就業規則や人事規定の策定も担当しており、私の理想の働き方については社長や上司と共有していましたが、組織の拡大とともに方向性の違いが出てきました。今振り返ると、創業当時は女性が私一人だったこともあり、家庭との両立の課題については私から社長や同僚へ積極的に相談していました。また、社長が「会社から独立する人を増やしてパートナー企業として皆で幸せになるような仕組みを作りたい」という想いを抱かれていたことも、背中を押していただいた理由ではないでしょうか。

ーー日々のコミュニケーションと関係性が現在の独立に繋がったのですね。
在職中のコミュニケーションはもちろんですが、独立してからの関係性も重要な気がします。一緒に仕事が出来る関係性があれば上手くいくのではないでしょうか。現在も、独立した会社とは繋がっていて、1つの案件を共同開発することもあります。最近では弊社も大きな案件が増えてきたため、逆にこちらから業務を依頼することもあります。お互いに頼り頼られるといった点が、独立後も良好な関係性となる秘訣なのかもしれません。

ーーその経験を自社に活かしているところはありますか?
仕事の情報共有を大切にしています。 私も家庭と仕事のバランスを取りながらずっと働いてきたので、どんなタイミングで大変になるか共感できます。子どもが熱を出してお迎えに行かなければならない場合や、介護で急遽お休みが必要になるなど、そういった緊急事態でも日頃から情報共有していればスムーズに業務を引き継ぐことができます。情報共有をしっかりしてチームで仕事をするというのは、自分の経験がベースになっているのだと感じます。

お客様の目線で寄り添う"やさしい"会社

ーー創業当時から今までを振り返って、大変だったことはありますか?
営業活動と資金繰りが大変でした。移住してきたばかりで繋がりも少なく、どのように新規のお客様を見つけるか頭を悩ませました。創業当時はコロナ禍により緊急事態宣言が発令されている状況で、今まで行われていたビジネスマッチングのイベントも軒並み中止となっていました。その中で売上を上げることは本当に苦しかったです。

ーーどのように乗り越えましたか?
独立した会社からお仕事を請けたり、一緒に仕事をしていた営業やコンサルタントの方々がお客様を紹介してくださったりと、周りの方々に支えられ乗り越えることができました。また、起業前から利用していた個人のSNSアカウントから新規のお問い合わせもいただけるようになるなど、少しずつですが売上を伸ばしていきました。
「女性起業家」「UIターン」といったキーワードで新聞などのメディア取材を受けたり、注目してもらいやすかった点ではタイミングが良かったと思います。

ーー苦しい時期を乗り越え、会社にはこれまでどんな成長がありましたか?
会社のメンバーやお仕事が増えたのはもちろんですが、会社の広報活動の仕組みが出来上がってきていると感じています。最初の2年は周りの方から「どんな会社なんだろう?」と様子を伺われていると感じていましたが、きちんと情報を発信することで新規のお問い合わせも増えています。また、開発メンバーも増えたため、自分1人の時より対応できる案件が増え、提供システムの品質も向上しています。

また、ありがたいことに、お客様からは"やさしいIT会社"と言っていただくことが多いです。"やさしいIT会社"というのは、お客様のお話をしっかり聞くということだと思っています。システムの相談をしても、なかなかやりたいことの意図が伝わらないという悩みをお客様から聞くことが多々あります。

エンジニア用語や知識は一般の方には難しいことが多いと思いますが、私自身は元々エンジニアではなかったので、お客様の目線で話を聞けるということが強みだと思います。私たちが大切にしなければならないのは、「何を作るかではなく、どう使っていくか、どのようにしたら仕事が楽になるのか」という視点を持ってお客様にサービスを提供することだと思います。そういった点を評価していただいているのではないかと思います。

ーーちなみに、システムの導入費用はどれくらいかかるのですか?
案件にもよりますが、何十万〜何百万という費用が必要となります。正直、DXを進めたいと思っていても費用対効果が見込めず、諦めてしまう方もいらっしゃるのが現実です。そんな背景もあり、少しでも今の仕事環境を改善することが可能な"事務代行サービス"も始めました。事務・秘書・人事・経理などのバックオフィス業務を請け負い、コア業務に集中していただくことを可能にしたサービスです。このサービスによって業務改善の重要性やメリットを感じていただき、今後、システムを導入することの便利さとその効果を考えるきっかけ作りをしています。

自分の持っている能力を大切に実績を積み重ねていく

ーーこれから起業をされる方にメッセージをお願いします。
新しいことを無理に頑張る必要はないと思います。自分の持っている能力や実績を大切にしてください。「絶対に成功する」と言い切ることはできませんが、大きい失敗はしないはずです。夢や希望も大事だと思いますが、仕事を任せてくださるお客様のことを考えた際には、実績の積み重ねが一番大事だと思います。今自分に何が出来るか、起業に向けてしっかりと考えてみてください。

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