見出し画像

10億円以上の資金調達した起業家のビジョン

今年もNVSが近づいてきました。今回もディスカッションが予定されていますが、待ちきれない方のために、昨年のNVSのディスカッションをダイジェストでお伝えします。
スピーカーは株式会社ナレッジワーク代表取締役CEO 麻野 耕司氏とノイン株式会社代表取締役 渡部 賢氏、コーディネーターは株式会社START代表取締役社長グループCEO 中俣 博之氏です。


メインスピーカー

コーディネーター

(左から)渡部氏、麻野氏、中俣氏

■起業のきっかけ

ーー中俣:10億円規模の資金調達に成功したお二人に色々と聞いていきたいと思いますが、自己紹介も含めてまずは起業のきっかけについて伺えますか?

麻野:新卒で入った組織人事のコンサルティング会社で17年間働いた後、40歳になる2020年に株式会社ナレッジワークを創業しました。
前職では社員の意欲・共感を向上させることをテーマにビジネスをやってきましたが、その先にある「能力の向上や成果の創出」まで踏み込んでビジネスをやりたいと思ったことが起業のきっかけでした。人生で成し遂げたいことは「労働は苦役なりを変える」こと。働くのは面白いという世の中をつくりたいと思っています。
ナレッジワークでは、「イネーブルメント*」を事業の軸に置いており、「今日うまくいかなかった仕事が、明日はうまくできるようになるかもしれない。」そんな希望をもって働けるような支援を行っています。現在は「生産性も仕事満足度も低い」と言われている営業職向けに、業務の成果や人材能力の向上を支援するソフトウェアの開発・提供をしています。

※イネーブルメント
成果を上げるため、組織を強化・改善するための取り組み。

ーー中俣:続いて渡部さんお願いします。

渡部:ノイン株式会社を創業した渡部賢です。実は、新潟市出身です。
以前はLINE、グリーで企画職の仕事をしており、僕は新しいサービスを提供する立場にいると思っていました。そのような中、「この瞬間、この時代に僕がいたからこそ存在する、新しい価値観を作りたい」「僕がコミットした世の中のあるカテゴリーのゲームチェンジャーになりたい」と考え始めたことが起業のきっかけでした。
「人を良くすること以外やらなくていい」という想いを実現するために、化粧品というカテゴリーを選択し、現在ノインでは化粧品のECサイト運営や、自社のコスメブランド「sopo」の展開等を行っています。

渡部氏

■起業時の資金調達

ーー中俣:まずは、起業する際にどのような資金調達を行ったかお聞きします。 お二人とも前職の活躍実績があっての起業ですが、有利な点はありましたか?

麻野:資金調達に関しては、最初からエクイティファイナンス(株式を発行しての資金調達)しか考えていませんでした。僕たちが掲げる「労働は苦役なりを変える」ということは、とても大きなチャレンジであるため、潤沢な資金が必要です。最速最短で事業を拡大させるにはエクイティファイナンスしかないと思っていました。
「世の中を変えるのはプロダクトだ」と考えており、2年間は売上が0であっても良いプロダクト作りに集中したかったため、その想いに共感してもらえるVCを探し、開発に必要な2年分のランウェイ(会社の資金がなくなるまでの猶予期間)として最初の資金調達を行いました。

ーー中俣:プロダクトもない状態では簡単に投資してもらえる額ではなかったですよね?

麻野:シードラウンドでは事業計画の信憑性が低く、プロダクトもないのが当たり前です。そんな中で投資の決め手となったのは「起業家のリーダーシップ」だったのではないでしょうか。僕の場合は、前職での頑張りと成し遂げたい想いに投資してもらえたと考えています。20代の起業家に比べて、僕には時間がない代わりに前職の実績はあるので、そこは投資家にアピールしました。

ーー中俣:投資家選びにおいて、意識していたことはありましたか?

麻野:「僕より年上で経験があり、NOを言えること」、「場合によっては会社のために僕の首を切ってくれること」という条件を設定し、しっかり意見が言える投資家を選びました。
前職では起業家をサポートする仕事をしてきましたが、経営者・起業家が環境に甘えてダメになる姿を幾度となく見てきました。経営者である僕をどういう環境に置くかが大事だと考え、ガバナンスが効いた会社を目指しました。

ーー中俣:創業当初から社外取締役を入れて、取締役会を運営することはなかなか少ないと思います。これもガバナンスを意識してのことですか?

麻野:ガバナンスを効かせたかったということと、僕自身の成長に繋がると思ったからです。リーダーがいかに成長できるかが会社の成長を決めるので、ガバナンス体制をきちんと作り、成長できる環境を整えました。

麻野氏

ーー中俣:続いては、渡部さんに初回の資金調達までの話をお聞きします。

渡部:僕は2015年1月に独立し、まずは個人事業主として1年半ほど数社の新規事業プロデュース業務を行って売上を作りました。これを元手に、2016年11月にノイン株式会社を創業し、「Instagramで化粧品情報を発信する」という事業を本格的に始めました。Instagramのフォロワー数とリーチ数というトラクション(実績)で、2017年3月に資金調達を行いました。

調達の目的は、プロダクト開発と最初のトラクション検証費用でした。Instagramでユーザーを集め、その後自社アプリにお客様を送客していくという戦略でした。いざプロダクトをローンチするとアプリ獲得のための広告出稿のパフォーマンスが良く、数ヶ月で調達額を使い切ってしまい、初回の資金調達から数ヶ月後にはシリーズAへ進むことになりました。

ーー中俣:投資家はどのように選びましたか?

渡部:まず以前から知り合いだった3名ほどの投資家へ事業について相談し、僕の事業に興味を持って頂けそうな投資家を数名紹介していただきました。紹介いただいた投資家には、ほぼ全員投資を決めていただき、シード期の調達は順調に進みました。相談に行ったその場で、すぐ決めていただけるパターンが多かった印象です。

■その後の事業と資金調達

ーー中俣:ここからは、その後の事業推進と資金調達について聞かせてください。麻野さんは2年もの間、完全にプロダクトづくりに集中したそうですね?

麻野:模倣されたくなかったため、2年間はビジネスを非公開にしてプロダクトを作っていました。ただユーザーによる検証は必要だったため、顧客獲得の営業は行っていました。
創業から半年でβ版をリリースし、その1年後にはβ版を有償化しました。無料トライアルの約15社全企業が有償契約へ更新していただき、「これはいけるな」と確信し、創業から2年後の2022年4月にプロダクトをリリースしました。資金調達は、無料のβ版をリリースした後にプレシリーズA、プロダクトリリースの後にシリーズAに進み、調達額は累計16.2億円になりました。

【シリーズについて】
スタートアップが資金調達する際の投資ラウンドにおける階層を表したもの。エンジェルシード、プレシリーズA、シリーズA、シリーズB、シリーズC以降へと続く。

ーー中俣:率直にお聞きします。トラクションに対してバリュエーションは妥当なのか、それとも麻野プレミアムがついているのか…どうお考えでしょうか?

麻野:僕たちは売上0の時で、普通に考えたらありえない時価総額をつけてもらいました。しかし、スタートアップのシード期やアーリーステージの投資はそういうものです。既存のビジネスのものさしで言えば並外れて高いですが、売上が立ち始めると創業時のバリュエーションでは「安いな」となるのがスタートアップです。

渡部氏(左)、麻野氏(中央)、中俣氏(右)

ーー中俣:実際にプロダクトができた後、トラクションはどう推移しましたか?また投資家の反応は如何でしたか?

麻野:すべての指標が想定以上でした。初回も含めて累計3回の調達を行っていますが、3回とも同じ投資家にフォローオンで投資していただきました。

【フォローオン投資】
一度投資を行った投資先に対して、次の資金調達ラウンドでも追加投資を行うこと。

ーー中俣:通常はラウンドが進むと株式の発行額が大きくなるため、投資するVCの規模(資金力)も大きくなるのが一般的ですよね。それが全てフォローオンですか。驚きです。それだけプロダクトが良いということですね。合計3回資金調達ができたのは、どのような理由からだと考えていますか?

麻野:ナレッジワークという会社に対しての信頼ではないかと思います。創業時から、役員会では「ネガティブなこともオープンに共有する」、「役員からの意見・問題提起には一つ一つアクションし、目標にコミットする」ということを2年間見せてきました。この振る舞いが「この人はちゃんとやるな。」という信頼に価格がついているのだと思います。投資家側も、関わっていけることへの楽しさがあると思うのです。これが更なる投資に繋がっているのだと考えています。

中俣氏

ーー中俣:ここからは渡部さんに伺います。
2022年11月現在、投資ラウンドはシリーズCとのことですが、初回の調達後から現在に至るまでを教えてください。

渡部:初回の資金調達後、すぐにシリーズAへ進みました。この頃は、初回の調達で制作したアプリが順調で、ダウンロード数と流通額(GMV)をトラクションとして示しました。調達目的は、開発費の他、ランウェイやプロモーション費で、1年半ほどで使い切るような調達額でした。このタイミングで社員も増やしました。

ーー中俣:初回から次の調達時までは比較的スムーズに進んだのですね。その後はどうでしたか?何か苦労したことがあればお聞きしたいです。

渡部:プロダクトのDL数がAppStoreの上位に入るなど、最初はお客様の需要にフィットして非常に伸びたのですが、シリーズAの後にとても高い壁にぶち当たりました。
当時のサービスは、ある化粧品に対して複数のリンクを貼り、最安値を案内する「価格.comの化粧品版」のような内容でした。この方法で流通額を伸ばしていましたが、自分たちが気づかぬうちに、「一部、並行輸入品を紹介するサイト」になっていました。化粧品メーカーの皆様からすると「正規に販売している商品ではないもの」を紹介しているサービスだったのです。
これでは当然、メーカーの皆様から直接契約して商品の仕入れをさせてもらえるはずもなく、業界の歴史も含めた「商慣習の理解度」が不足していたと痛感しました。
我々は「化粧品業界に向き合わない」という選択肢はなく、真正面から向き合い「化粧品業界が目指すべき未来を実現するゲームチェンジャーの一端を担いたい」と思っておりましたので、並行輸入品のリンクは全てカット、正規の商品を仕入れ始めました。アプリを利用いただいていたお客様からすると有益な情報が減り、商品数が急に少なくなったため、ベネフィットが大きく落ち込んだ瞬間でした。ここで、サービス自体のピボットとまではいかないですが、ベネフィットを大きく変える必要がありました。

ーー中俣:かなり売上が落ちたと思いますが、投資家の反応はどうでしたか?

渡部:投資家の方々には説明を尽くしました。自分たちは将来どうなっていきたいのか、どこに勝ち筋があるのか、そのための方法や細かいKPIを示しました。その甲斐もあってシリーズBでも、投資家の顔ぶれはほぼ変わらず資金調達しました。
日頃からコミュニケーションをとり、「この人たちだったらやれるだろう」という姿を見せていたことが次に繋がったのだと思っています。

ーー中俣:シリーズCの頃はどうでしたか?

渡部:この頃に立ち上げた自社ブランドの事業がうまくいき、初年度で100万本が売れるヒットとなりました。苦戦していたECの戦い方にも光が差し、事業を成長させるランウェイ確保のため、シリーズCの資金調達を行いました。

渡部氏(左)、麻野氏(右)

■IPOに向けて

ーー中俣:大きな額の調達をされているお二人は、IPOを目指していると思います。そのタイミングや今後の方針についてお聞かせください。

渡部:僕たちは本気で日本を代表する大手化粧品メーカーに肩を並べる未来を描いています。そのためにはアジアで戦っていく戦略を取る必要があるし、自社のブランドを複数抱えられる体制の構築が必要だと考えています。IPOはそれをやりきるための資金調達であり、社会的なネットワーキングを広げるための手段だと捉えています。
売上や流通額において、僕たちが展開する3事業のKPIが、IPOに向けて立てた目標ラインを越えた時がそのタイミングだと考えています。

中俣氏

麻野:IPOに向けた条件は2つあります。1つ目は時価総額500億円です。
この額は、機関投資家から投資先として見てもらえるようになる目安の額です。前職での経験から、500億円以下の規模では個人投資家が多く、どうしても目先の利益で判断されます。そのため、「500億円を超えてから」というのを1つの基準にしています。
2つ目は事業内容です。今は営業職向けのシステムを作っていますが、次の事業として他職種向けのITシステムを作りたいと思っています。上場する時に、「営業向けのシステム会社」と思われるか、「仕事を変革するシステムを提供する会社」と思われるかで印象は変わりますし、なにより僕は「世の中の仕事を変えたい」と思っているので、次の事業の芽が2つ、3つと出ていることをIPOへのもう1つの条件としています。

ーー中俣:最後に一言ずつメッセージをお願いします。

渡部:みなさんに言えることは一つ。ごくごく一般的な人間の、また新潟出身の僕が、紆余曲折しながらも登壇する側としてステージに立っています。僕はみなさんの勇気になりたいと思っていますし、力になりたいと思っています。今日はありがとうございました。

麻野:僕が変わったきっかけは、10年前のあるカンファレンスに行ったことでした。登壇者として「サイバーエージェントの藤田さん」や「GMOの熊谷さん」がすぐそばにいて、自分と変わらない「人」であることを強烈に感じました。その帰り道、「このままではいけない、変わらなければ」と思い、新規事業の立ち上げを決意しました。みなさんが何かを持ち帰れるような場をつくれていたら嬉しく思います。ありがとうございました。

渡部氏(左)、麻野氏(中央)、中俣氏(右)


新潟県の起業・創業に関する情報をリアルタイムにお届けします。