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大学院生・公務員・起業家の“3足のわらじ”で新潟に根ざす横山さんが感じた、新潟だからこそできる起業の形

新潟県にゆかりのある経営者や起業家、行政を中心に構成する新潟ベンチャー協会(NVA)主催の佐渡合宿ピッチイベントで、オンラインでの活動の成果を可視化するプラットフォーム「Prossell Community」について発表した株式会社プロッセル(新潟県長岡市)代表取締役社長の横山和輝さんが優秀者となりました。


横山さんが起業を志したきっかけや、新潟に根ざして活動する強みなどについて伺いました(敬称略、インタビューはオンラインにて実施しました)。

<プロフィール>横山 和輝 (よこやま・かずき)1998年生。国立長岡工業高等専門学校専攻科修了。現在はオンラインビジコン事業や移住支援に取り組む株式会社プロッセルの経営を行いながら、新潟大学大学院現代社会文化研究科、長岡市商工部産業支援課地域おこし協力隊に所属する大学院生公務員起業家として活動。長岡高専在学中の留学先フィンランドでのビジコンで優勝。帰国後、学生団体プロッセルを立ち上げ2020年6月に法人化。


大学院生・公務員・起業家の“3足のわらじ”

NVA佐渡合宿最終ピッチで発表する横山さん(新潟県佐渡市で)

ーー横山さんはプロッセルの代表、新潟大学大学院生、長岡市地域おこし協力隊と3つの肩書きがあるのですね。

横山:はい、大学院生・公務員・起業家の3足のわらじは日本で僕だけなのかなと勝手に思っています(笑)。

ーー横山さんが起業をしよう思ったきっかけは何だったのですか?

横山:長岡高専の専攻科時代の2018年夏、ゲームプログラミングや電気自動車について学ぶために留学したフィンランドで、課外活動のような形で2019年4月に参加した人生で初めてのビジネスコンテストがきっかけです。

ーーなぜ、ビジネスコンテストに応募しようと思ったのですか?

横山:実は留学したフィンランドの大学の研究室はメンバーが博士やマスターばかりで、自分はどちらかというとその人たちから勉強をさせてもらう立場でした。もちろん勉強にはなったのですが、自分が思うように主体的に参画できない悩ましい状態が続いていたんです。

1年間の留学からちょうど折り返し地点くらいのところで、現地で唯一できた日本人の友人が通っていた別の大学の経営学の授業を、大学の許可を得て受けました。

そこで地元のビジネスコンテストの開催を知ったのです。

やっぱり留学したからには何か成果を作りたいと思い、日本で1回も出たことがなかったビジネスコンテストにフィンランドで出場することにしました。

フィンランドでその友人に出会わなければ起業の道を選択することもなかったでしょうから、すごい出会いだなと思います。

(オンコン公式サイトより)

ーーコンテストではどんな発表をしたのですか?

横山:まず、ビジネスコンテストに出ようと友人と2人で決めた際、解決すべき課題を見つけるため、自分たちがいま困ってることについて議論しました。

留学当時、2人ともその就活を考えていましたが、大学3年生の夏から4年生の春とか夏まで留学をした場合、「普通の就活はもうできないね」という話になりました。実際、2人とも留学が終わったあと就職留年するかどうか真剣に悩んでいました。

日本を飛び出して頑張っている姿を企業の採用担当者などが見つけて、そこから縁がつながったら、そもそも就活なんてしなくていいんじゃないかーー。議論を通じてそんな考えに至りました。

ーーなるほどですね。

横山:そこで、頑張っている学生の姿が可視化できて、行動が報われるような場所をオンラインに作ることができれば、学生にとっても企業にとっても価値があるのではないかと思い、オンラインでの活動の成果を可視化するサービス「Prossell Community」の原型となるビジネスプランを立てました。

コロナウイルスの影響が顕在化して学生が就職活動で困難をきたす前から、自分たちの課題意識を起点にスタートしたのがこのプロッセルなのです。

おかげさまで19年4月にフィンランドのビジコンで優勝することができ、その瞬間に起業を決意しました。

最初のオンコンは「失敗」

(オンコン公式サイトより)

横山:帰国後は2年間分の授業と研究を残り1年間の学生生活に詰め込み、20年3月に長岡高専の専攻科を卒業しました。

ーー帰国後すぐに会社を創立したのですか?

横山:帰国してから約1年後の20年6月に長岡市で創業しました。19年4月にフィンランドで起業を決意したものの、それまでずっとエンジニアとしてずっと勉強してきてたので、起業の実際が分からないという課題もありました。

そこで、学業と並行して新潟の先輩起業家のところに勉強し行ったり、実際に東京の人材系のベンチャー企業にに3ヶ月ほどインターンをしに行ったりと起業に向けた勉強を半年ほど重ねました。

さらに実際に起業をするにあたって、Prossellが提供したい価値が世の中に必要なのかを確かめるため、テストマーケティングを目的とした単発のイベントとして、起業前に任意団体として第1回目のオンラインビジネスコンテスト(オンコン)を20年1月に開催しました。

ーー手応えはいかがでしたか?

横山:実は、今だからこそ言えるんですけど、自分の中では大失敗でした。

ーーなんと!そうだったんですか。どんな点が失敗だったのですか?

横山:オンコン20年1月から2ヶ月間に渡って開いたのですが、たくさんの学生の皆さんに参加していただき、運営自体は何事もなく終わらせることはできました。

しかし、何事もなく無く終わったということは、大きな盛り上がりもなく終わってしまったということの裏返しもありました。

また、2ヶ月の長期に渡ってオンラインでコンテストをやると、参加チームの団結力が見えづらかったり、モチベーションの維持が大変だったりといった難しさも痛感しました。

課題だらけでこのままやめようかなとも考えていた20年4月に一度目の緊急事態宣言が発令され、多くの学校で対面授業がなくなりました。

コロナの影響で学生は家にいないといけない、バイトもできない状態となりました。

あらゆるコミュニケーションがオンラインに置き換わっていく中、今だからこそ自分たちが果たせる役割があるはずだと、強く思うようになりました。

そこで「一度自分の中では失敗したけど、もう1回やってみるか」と、2回目のオンコンを開催することにしたんです。

(オンコン公式サイトより)

1週間という短い募集期間だったのにもかかわらず、20年4月に開いた第2回オンコンは、前回の倍以上の参加者が集まりました。学生もこんな場所をを求めてたことをすごく感じました。以降、20年は毎月開催し、オンラインコンテストの運営知見やプラットフォームの改善のPDCAを高速で回し続けました。21年は年4回ほどの開催を見込んでいます。

(Prossell Community公式サイトより)

現在、プロッセルはオンコンの運営に加え、オンコンの知見を生かしたビジネスコンテストやオンラインインターンシップに関するコンサルティングや「Prossell Community」を活用した新規事業ーーの3つの柱で事業を展開しています。

すべては新潟で会社を大きくするため

ーープロッセル創業後に大学院と地域おこし協力隊という2つのキャリアが加わったのはなぜですか?

(ビジネスコンテストで発表する横山さん)

横山:新潟で会社を大きくしたいという気持ちがあるからです。

現在活動している長岡市の地域おこし協力隊のミッションは、長岡地域の学生の就活をオンラインでサポートすることです。会社の知見で市に貢献しながら学生の就活の動向をキャッチアップできることが大きいですね。

大学院については、フィンランドへの留学中にマスターやドクターを持っていないがゆえに思うように研究ができなかった歯がゆさを感じた体験から、マスターをとりたいという気持ちがずっとあったんです。

そんな矢先、新潟でアントレプレナー研究に非常に熱心な新潟大の伊藤龍史准教授といろいろお話する機会があって、新潟の起業家を増やす研究に貢献しようと大学院に入学を決めた次第です。

起業家、投資家、経営者、行政が集ったNVA佐渡合宿(新潟県佐渡市で)

ーーいま、新潟に根ざして起業する魅力は何ですか?

横山:やはり、つながれた人の多さに尽きるかなと思います。

実は、20年3月に長岡高専を卒業したあと、起業するために一度上京し、すぐにUターンしました。

「やっぱベンチャーやるなら東京!」という気持ちでコロナの前から計画して、すでに部屋も借りていたんです。

でも、上京した4月は緊急事態宣言で結局外に出ることなくZoomでコミュニケーションを取るという形でした。「これは(起業する場所は)別に東京じゃなくてもいいな」という思いが確信に変わっていきました。

数ヶ月の上京の後、新潟にUターンして感じたのは、「新潟だからこそつながれた人の多さ」です。

行政、投資家、経営者、起業家、どの分野をとってもなかなか普通だったら会えない方々と意見交換ができたりアドバイスをいただいたりしています。

こんな20代前半の駆け出し起業家の話しを真剣に聞いて相談に丁寧に対応してくれる方が、新潟にはたしかにいるんです。新潟を良くしていこうという気持ちの人が本当に強いんだなと感じています。

NVA佐渡合宿でメンタリングを受ける横山さん(右、新潟県佐渡市で)

スタートアップが生まれるエコシステムの構築に経営者、投資家、起業家、行政が一体で取り組む機運が高まっている新潟県だからこそだと思います。

新潟県をはじめとする行政が親身なこともすごく大きいです。補助事業などで行政がここまで積極的に支援を展開しているとは正直思っていませんでしたし、担当の職員のみなさんが本当に熱量がありますね。

やっぱり東京じゃなくて新潟でよかったなと、戻ってきて感じています。

ーー事業を進めていく中で、新潟だからこそ実現できたことはありますか?

横山:これは当たり前ではありますが、僕らは創立から間もないベンチャー企業のため、当初は信用度が低い状態でした。

そんな時に自分の母校の長岡高専からコロナで開催ができなくなった必修科目のインターンシップをオンラインでできないかと相談があり、20年8月、長岡高専の4年生205人全員を対象としたオンラインインターンシップを実施しました。

高専の1つの学年全員のインターンシップをオンラインで受け入れるのは、おそらくかつてなかったことです。

母校のつながりというのもありますが、サービスの必要性を感じてくれて親身に応援してくれるのは新潟ならではだなと思います。

ーー今後どういった活動を展開していきたいですか?

横山:1年間で10回以上連続で開催してPDCAサイクルを高速で回す中で培った、オンコンの運営ノウハウと、オンコン向けに開発したコミュニケーションプラットフォーム「Prossell Community」の仕組みを活用して、移住支援の今オンラインサロンを作るお伝いがしたいです。

(プロッセルのサービス紹介資料より)

このサービスの発想は、自分が地域おこし協力隊という行政の立場でもあり、Uターン移住をした身でもあるというところに由来しています。

住みたい街の情報を集めるのが難しかたり、そもそも現地に赴くこと自体ができなかったりする中、オンラインで課題を解決するコミュニティーサロンを作るイメージです。

例えば、他県のある市では、Slackを活用した数百人規模のオンラインコミュニティーを運営していますが、有料プランを使う場合、月額数十万円の費用が発生する計算です。

さらに、移住を考えるユーザーが他の自治体のオンライコミュニティーやサロンに加入する際は、アカウント設定からまたやり直しとなります。10市町村のオンラインサロンに加入すると10回、アカウントを作らなきゃいけないわけです。

これらのユーザーの煩わしさやかさむ運用コスト、移住検討者と行政をつなぐという役割といった課題に対し、僕たちがオンコン向けに構築したプラットフォームを応用して貢献できると考えています。

行政との連携に加えて、仕事を紹介する人材会社や金融機関、不動産といった生活に欠かせない地域の企業の皆さんともタッグを組みながら、情報が集まってくるコミュニティーを作ることができれば、地域全体の活性化にもつながります。

プロッセルは会社のミッションとして「地球で働く未来を作る」を掲げています。地球のどこでも住みたい街に住めることがこれからの時代、ものすごく重要になってくると思います。そんな人と場所をつなぐあらたなお手伝いを新潟からしていきたいです。




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