東京からみた新潟のスタートアップ環境
今年もNVSが近づいてきました。今回もディスカッションが予定されていますが、待ちきれない方のために、昨年のNVSのディスカッションをダイジェストでお伝えします。
スピーカーは、ユナイテッド株式会社代表取締役社長 早川与規氏、KDDI株式会社 経営戦略本部副本部長兼地域共創推進部長 江幡智広氏のお二人で、コーディネーターはNVA代表理事/フラー株式会社 代表取締役会長 渋谷修太氏です。
メインスピーカー
コーディネーター
■10年間の「スタートアップエコシステム」の変化
ーー渋谷: 新潟のスタートアップ環境の話の前に、ここ10年間の東京の「エコシステム」の変化について、お二人はどのように捉えていますか?
早川 :VCだけではなく、ネットビジネスも含めた話になりますが、私が起業した18年前は、インターネット業界にはまだまだ、ビジネスチャンスがたくさんあったので、今と違い「何をやるか」よりも「誰がやるか」に投資する時代でした。
それに対して今は、社会課題とそのソリューションを明確に持っている優秀な起業家が増えていて、競争のレベルが上がっています。また、お金の出し手も増え、人への投資ではなく、「お金も出すけど口も出す」というハンズオンで支援するキャピタリストが増加していると感じています。
江幡:2010年代後半の安倍政権時代に、オープンイノベーションというワードが話題になり、その頃から上場企業等がBS投資やファンドを創設して投資するなど、リスクマネーを作る動きが生まれてきました。 ただ、日本は欧米に比べてリスクマネーが圧倒的に少なく、近隣国の韓国・中国と比較しても少ないのが現状です。
また、起業については、身近に起業経験者がいることで周辺にコミュニティが生まれたり、そこからまた起業家が生まれる流れがここ数年で増えていると感じています。
■地方×スタートアップの印象と関わり
ーー渋谷:僕が創業した2011年よりも投資家や起業家やコミュニティの数も増え、たしかにスタートアップがより身近になったと感じています。今まであまり注目されていなかった地方、特に新潟のスタートアップについてどのように見ていますか?
江幡:地域でも起業家同士のコミュニティがどんどん生まれ、交流する場ができることがすごく大事です。渋谷さんのように「その地にいる人がその仲間を増やしていく」ことが必要だと思います。例えば企業であれば、困ったこと、分からないことは専門部署に聞けば良いわけですが、スタートアップだと社内に聞ける環境はないです。
では誰に頼るかというと、経験がある先輩起業家になるわけです。このように知らないことは聞く、教えてもらうという流れがどんどんコミュニティを大きくしていったのではないかと思うので、この流れが根付くような取組みに関わっていけたらいいなと考えています。
ーー渋谷:KDDIが地方課題に取組むことになった背景や、その取組について教えてください。
江幡:会社としては、日本がより良くなる過程に企業として関わるという方針を定めており、通信会社の私たちができることは、デジタル・ディバイド(情報格差)を解消することです。それは単にスマホやPCなどの電子機器が使えるようになるということだけではなく、金融リテラシーやアントレプレナーシップの視点を持つなど、教育面における地域格差を解消することも目指しています。
例えば、学生が社会に出るうえで「地元の企業に就職する、地元を離れて大手企業に就職する、起業する、旅する」など、いろいろな選択肢があることを知ってもらうために、人材育成やキャリア支援も含めて活動しています。
ーー渋谷:KDDIがアクセラレーションプログラムに関わることになったきっかけは何だったのでしょうか。
江幡:2000年代初め、携帯電話にインターネット機能が載るというサービスが始まりましたが、その時点で日本の通信レベルは既に高いものでしたので、通信業界の事業は行き詰まりを感じていました。そこで、インターネットの回線を提供する土管になるのではなく、そこに関わるサービスの提供を事業とすることを考え始めました。
ーー渋谷:長期的な経営戦略の中にスタートアップエコシステムや起業家育成を考えたのですね。
江幡:当時、デジタル上のコンテンツサービスが主流となった頃で、既存の産業がインターネット上へ置き換わっていくところに関わってきましたが、既存産業に関するノウハウがなかった私たちは、外部の企業をパートナーに迎えてスピーディーに進めていくことにしました。これが今の「∞ラボ」の原型となっています。
江幡:「∞ラボ」のスタート時は、KDDIとスタートアップの1対1でしたが、支援しきれない部分が出てきたので、物流、金融、建設など、既存産業の企業にも加わってもらい、共同でスタートアップを支援する現在の座組みに変えていきました。結果として、様々な産業の企業と起業家が出会う良い機会を創出できたのではないかと思っています。
ーー渋谷:早川さんが感じる新潟や地方スタートアップの変化、新潟との関わりについて教えてください。最近、よく新潟にお越しになっているそうですね。
早川:最近は東京以外のスタートアップに投資するケースもでてきました。地域の課題(=ビジネスチャンス)を、地域の金融機関と連携して解決しようとするスタートアップが増えてきていると思います。新潟のスタートアップへの投資はまだ実現していませんが、新潟は十分に優位性があると思っています。
優位性があると感じることとして、最近新潟に来ている理由でもありますが、実は地元の加茂市で農業法人「加茂ユナイテッド」を作りました。新潟の農業は、競争力があり、ブランド力もある。そこにテクノロジーをプラスし、販路を開拓する。ここには伸びしろがたくさんあると感じています。「起業家として加茂で農業をすると稼げる」という前例を作りたいですね。
■地方(新潟)スタートアップの課題について
ーー渋谷:現在、新潟ベンチャー協会としても、スタートアップエコシステムの形成に向けて自治体と協力して取組んでいるところですが、世界や東京と比較すると人材面やファイナンス面など課題がたくさんあると感じています。そこでここからは、2つの課題についてお聞きしたいと思います。
まず「投資環境」について。
地方はベンチャー投資をしている企業やエンジェルが、東京に比べると圧倒的に少ないです。資金面の課題を解決するには、どうしたらいいと思いますか。
早川:東京が進んでいるといってもここ20年の話であって、インターネットが出てきた頃にはベンチャーキャピタルも数える程度しかありませんでした。そこから成功した人達がエンジェル投資家をやったり、ファンドから独立して新たにファンドを創設するなどして増えてきたので、地方でもこれからやりようはあると思っています。
東京だと、仕事に繋がる偶然の出会いが結構あります。地方では、まずは土壌作りとして今回のようなイベントを続けていくことが大事だと思います。「身の回りに起業家って結構いるよね」と思える環境・ベースを作って、盛り上げていくことが重要だと思います。
ーー渋谷:ベンチャー投資をなぜやろうと思ったのですか?また、メリットについて教えてください。
早川:あるコミュニティにいると「出資してください」という話が自然にでてきます。そういう意味では土壌ができているということですね。
メリットとしては、まず事業のトレンドを知ることができます。また、長く経営していると自分の価値や成功体験でしか動けず、新しいことができなくなる会社や経営者が多いので、今まさに起業している人と関わることはすごくプラスだと思います。
ーー渋谷:ベンチャーと関わることで時代についていけるということですね。起業家は学ぶ立場だと思っていたところが、教える立場でもあったとはおもしろいですね。
ーー渋谷:課題の二つ目は、「地域企業とスタートアップとの関わりについて」。
データによると、新潟は100年以上の長寿企業が全国で五番目に多く、すばらしい企業がたくさんあります。長寿企業など、地域の企業とスタートアップがコラボすることにより、オープンイノベーションが進み、新潟がより活性化すると思いますが、まだまだ関わりが生まれづらいと感じます。
江幡さんは「∞ラボ」でパートナー企業を探す際にも苦労したのではないでしょうか。
江幡:最初は、会社の若手社員で個人的にベンチャーのコミュニティに参加している人をツテにしていました。
それが2014年頃、国の政策においてオープンイノベーションの推進を掲げたことで、大きな会社の社長たちが「オープンイノベーションをやらなくてはいけないのでは?」という雰囲気になり、話を持っていくと比較的簡単に受け入れてもらえるという流れが出来てきました。
ーー渋谷:早川さんは、どうしたら新潟の企業がスタートアップに関わっていく流れができると思いますか。
早川:やはりKDDIさんのような影響力の強い企業が橋渡しすることは、伝統的な企業側からしても安心なのではないでしょうか。大手企業や長寿企業が「IT、スタートアップはちょっとこわい」というような抵抗感を持つのは十分理解できるので。また、起業して経験を積んできた渋谷さんのような方がその役目になっていくことも大事だと思います。
ーー渋谷:ありがとうございます。最後に一言ずつメッセージをお願いします!
早川:ユナイテッドとしても新潟県のスタートアップに投資したいと考えています。また、事業について相談したいということがあれば壁打ち相手になりたいと思っているので、ぜひ声をかけてください!
江幡:新潟県は全国的に見ても長寿企業が多く、上場企業も比較的多いです。そういう企業の方たちと新しい世代との「交流のきっかけ、出会いの場」を創出し、事業共創のモデルを生み出す仕掛けを作りたいと思い、このたび新潟県と協定を結びました。
新潟にもスタートアップは生まれてきているので、もう一つ上のレイヤーに加速させるような動きをしていきたいです。スタートアップや地域の企業のみなさまと共に、地域の課題を解決していきたいと思います!