新潟にベンチャーが育つ”エコシステム”を作る 新潟ベンチャー協会設立のきっかけを作った中俣さんが考える、新潟で起業する意味
新潟県に所縁のある若手経営者らが集まり、経営者間の人的交流や連携、ベンチャー・スタートアップの支援などの活動を通じて、次世代の高成長なベンチャーや第二創業者を輩出することを目的に発足した新潟ベンチャー協会(NVA)。
10月にはスタートアップの創業者らが自らのビジネスプランをNVAの会員らを前にプレゼンテーションする”ピッチイベント”を開催。11月には佐渡でピッチイベントで優秀な成績を収めた起業家との合宿にも臨みました。
起業家や経営者、そして行政が一体となり県内企業の盛り上げに向け取り組みを加速させているNVAはどのようにして生まれ、どんなことを成し遂げようとしているのでしょうか。
新潟県出身の起業家で、NVA設立のきっかけを作ったキーパーソンである中俣博之さんに話を伺いました。
ベンチャーを”生み出し育てる”のではなくて”育つエコシステム”を作る
ーーNVAはどんなきっかけで生まれたのですか?
ちょうど1年ほど前、新潟ベンチャーキャピタルの星野さんを通じて、新潟県庁から「スタートアップに関する県の支援策の検討にあたって、新潟県出身の起業家の意見を聞きたい」と依頼をいただいたのがNVA設立のきっかけでした。
ミーティング会場である新潟ベンチャーキャピタルの東京オフィスで、スーツでビシッと決めた県庁の方々を前に、Tシャツ1枚で長髪の若者が「わ〜みんなスーツですごいな」と思いながらお話しさせていただきました(笑)。
県側からは、新潟から戦略的に起業家を生み出すための施策として、コワーキングスペース作りやメンター制度の創設といった取組や予算をご紹介いただきました。
誤解を恐れずに言うと「新潟からIPO企業を生み出すような起業家を戦略的に発生させるという発想そのものが違う」と思い、好き放題言わせてもらいました。
優秀な経営者は、基本的に社会のリソース(資源)が集まる場所に移動します。リソースの定義は例えば、「営業先がたくさんあるか?」「人材採用マーケットが十分にあるか?」「情報へのアクセスが容易か?」などです。事業の成長を最優先する場合、拠点に求めるものは、営業先がいっぱいあって、多様な人が皆通勤範囲かつ雇用の流動性が高くないと、そもそも拠点の意味を為しません。そうなった時に、日本で起業するのであれば、設備投資がマストでなければおおよそ東京一択かと思います。新潟で起業して大きくするという必然性はあまりありません。
一方で、県内の企業が成長して「企業からの税収が上がる」ことを県による取り組みの分かりやすい到達点だとすると、戦略が描きづらい「新潟の起業家を生み出すこと」に投資するよりも、すでに新潟にある伝統企業が、新しい事業が生み出したり、人材を育てたり、今流行のSaaSのような新しいサービスやオペレーションシステムを組み込んでコスト減や効率化で売り上げを増やしていくことの方が、県全体として「税収が上がる」のではないかと。
県はベンチャーを“生み出し育てる”ことではなくて、新興企業を含む既存の県内企業のDXを推進し、事業のシーズとなるものを自社で作ったり、買収したりする、“ベンチャーが育つエコシステム”自体に支援をした方が、結果として起業家が生まれたり、その起業家が大きくなったりするといったオプションが付いてくるのではないですかと、そのミーティングでお話しました。
すると県庁の方々に「いいですね」とご賛同いただき、そのエコシステムの具体的な形としてNVAが設立し、私もNVAの理事としてここにいるわけです(笑)。
私自身が積極的にNVAに関わることになったのは、やはり「言い出しっぺ」だからということにつきます。私は大学生の時に初めて事業を起こし、当事者として今に至っています。評論家や批評家というのが性に合わない、もともとそういう気質です。「このままいくと自分も批評家っぽくてダサいな」と思い、言い出したからには自らも当事者になることにしました。
あとは、なんといっても新潟への「愛」。やはり自分が生まれ育った場所であるということにつきます。自然もあるし、適度に都市的な環境もあるし最高です。本当は移住したいくらいですが、私が経営する3社がすべて東京にあるので、ベースは東京で、月に1度新潟にくるといった状況です。
新潟での起業に「課題はない」
ーー今、新潟で起業をするにあたって、どんな課題があるとお考えですか?
課題は無いんじゃないでしょうか?
ーーというと?
起業に課題なんてそもそもないんです。
例えば、東京から若干距離があるとか、情報が流通していないとか、いろいろな人が分析してしゃべるんですけれども、それらは新潟で起業をするにあたっての課題として因果関係がはっきりしているとは思っていません。全部些細な話だなと思っています。
先ほどリソースの話をしましたが、これは「効率」の論点です。効率を求めたら、新潟や東京で起業するより、中国やシリコンバレー、インドの方が市場は大きいし雇用も流動的、集まる投資家のお金も桁が1つ2つ違います。ユニコーン企業を作りたいなら、どう考えてもそっちで起業した方がいい。大きな事業をやりたいなら、そもそも日本で起業した時点で効率悪いんですよ。でも、東京の方が全体のバランスがいいから東京で起業する人が多い。新潟がバランスがよければ新潟でやってしまえばいい。
要はやればいいんです。「効率」の話であって、「課題」じゃないんです。
まずはやってみればいい。そう思います。
外部の課題が論点ではなく、自分がやるかやらないか、その内面的な話だと思います。
起業家・経営者と県が「絶妙な波を形成」
ーーNVAのメンバーは既存の老舗企業も新進企業も若い経営者が多いですね。この巡り合わせについてどう思いますか?
本当にラッキーとしか言いようがないですね。NVAのメンバーには新潟の新進気鋭の起業家であるフラーの渋谷くんがいたり、トップカルチャーの2代目でこれから会社を背負っていくであろう清水くんがいたり、ハードオフという老舗企業を受け継いだ若手社長の山本太郎さんがいたりと、とってもバランスがいいです。
そして、なにより私がラッキーだなと思っているのは、県庁の方々が本当に熱心なことです。もしこれが仮にNVAのメンバーである経営者や起業家が集まって何かやろうとなっても、絶対に続かない。
新潟県の税収を上げるというのが目標だとして、手前のゴールとしていい会社や法人をたくさん生み出してコミュニティを作って継続しようというNVAの取り組みは、それぞれの起業家や経営者にとってものすごく負担になるし、維持コストもかかります。さらに、起業家は熱量が入っても次のアジェンダが見つかったらそちらに行ってしまって熱量が下がる生き物です。要は熱量にどうしても波があるんですね。事実私もそうです。
そういうところを県庁のみなさんがめちゃめちゃ頑張って支えてくれているんですよ。これは、NVAのアジェンダと新潟県のアジェンダがすり合っているからだと思うんですね。
起業家・経営者の熱量にどうしても波が生じる部分に、県庁の皆さんがテコ入れをしてくれて継続性を持って仕事を進めていこうとする姿勢のピースが噛み合い、継続可能な状態でNVAが進んでいます。
県庁の方々がいなかったら、私も続いていないです。
僕らの方が自分の事業をやっていたり他のアジェンダが生まれて熱量が下がることが多いのですが(笑)、そこを県庁の皆さんが本当に熱量を持って支えてくださっています。本当にありがたいと思います。
「地方だから…」の先入観を払拭したい
ーー今後どのような活動を予定していますか?
NVAはちょっと不思議な団体でして、実は協会としてこれをやる!という活動のコンセンサスを取っていない団体なんです。常にその場その場で「これをやる」を決める。逆に決めていないことがいいですし、決めようとしないスタンスがベストだと思っています。NVAとして取り組んでいるピッチイベントもうまくいったら継続しますし、ダメだったらまた別のことをやればいいかなと思います。
従来の団体や協会は、短期の目標やその達成度合いで、その団体を評価してしまう所が悪しき文化だと思っています。会社経営と同じで、常に改善を繰り返しながら、次々と現れる大きなアジェンダやビジョンを達成していく方が実は正解で、短期的なゴール設定に縛られて外部の評価に敏感になってしまうチームになると、創造性が出ません。小さな成功体験を積み上げていくことが何よりも重要です。
私個人としては言い出しっぺ感が強いので、自分が持っている会社の一つを新潟に移転しようと思っています。私自身で新潟で事業を作って大きくすることも試みたいと思います。
また、ピッチイベントやNVAの活動を通じて新潟の若い起業家に出資して、絶対に勝たせます。これは私のコミットメントです。
社会を動かすのは、100の論理より、1の実績です。
NVAは、1の実績を着実に積み上げていきますよ。