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Uターンした佐渡の山奥で開業したのはチョコレート工場。クラフトマンが語る夢。

今回はU・Iターン創業応援事業で採択され、佐渡でUターン起業をした莚CACAO CLUB(むしろカカオクラブ)代表の勝田 誠さんにお話を伺いました。進学を機に生まれ育った佐渡島を離れた勝田さんが各地を回り、Uターン後に始めたのは佐渡の山奥のチョコレート工場。なぜチョコレート工場?なぜこんな山奥に? 8月13日で1周年を迎えた莚CACAO CLUBと、Uターン者で起業者の勝田さんのお話を伺いました。

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莚CACAO CLUB代表 勝田 誠さん

勝田 誠(かつた  まこと)
1980年、佐渡島生まれ。高校を卒業して離島。映像作家を目指して進学し、挫折。ミュージシャンを目指して上京し、挫折。結婚を見据えて就職し、破局。全てを失い、半端な人生と決別すべく、一か八かのリセットボタンを押し、自転車で沖縄へ。 道中で訪れた広島県尾道市に惹かれ、身ひとつ家も仕事も決めずに家なし、仕事なしで、引っ越す。USHIO CHOCOLATLと出会い、チョコレートの道へ進み5年。自身の難病の発覚を機に2020年に佐渡島へ帰郷し、翌年起業。佐渡ヶ島のカカオカルチャー発信基地、莚CACAOCLUBを設立。



チョコレートとの出会い

ーーまずはチョコレートとの出会いまでの経緯をお聞きできますか?
僕は本当に色々なことをしていて、ずっとチョコレート作りをしていたわけじゃないんです。佐渡の高校を卒業後、映像系の技術を学ぶために長岡の大学に行きました。

大学卒業後は専門とは全く別のバンド活動をするために上京しました。結局それは上手くいかず、そのまま東京でサラリーマンへ転身し、5、6年程勤務しました。その生活も長くは続かずで、当時結婚を予定していた相手との関係がだめになったり、東日本大震災があったりして、東京にいる意味を徐々に失っていきました。

たいしたスキルも、資格も、キャリアもないし、ずるずると成り行きでここまで来ていた自分に嫌気がさし、大阪への転勤を言い渡されたことを機に当時の会社を退職し、そのまますぐに沖縄までの自転車旅を決行したんです。

ーー突然ですね!なにか理由があったのですか?
旅の中でなにかの発見があればと… これもおぼろげですが(笑)  やってみたことのないことに挑戦してみないとだめだ、と自分を追いつめていたかもしれませんね。

ーー自転車の旅では勝田さんにとって何か良い発見や出会いはありましたか?
旅先で会った人から「生き方の自由さ」という部分で刺激を受けて、気持ちがとても楽になりました。最も刺激を受けたのが広島県の尾道(おのみち)の向島という島でした。

前職の会社から次の仕事を色々と紹介していただいていた状況ではあったのですが、すべて断り尾道へ行くことに決めました。社員寮を引き払い、いよいよ家なし、職なしになるも、旅で出会った人から空き家を教えてもらい、自分でリノベーションをしつつ暮らしの環境を整えていきました。

ーーチョコレートとの出会いもそのあたりになるのでしょうか?
そうですね。引っ越しと同時くらいに、尾道でチョコレート工場を作ろうという話が挙がったんです。よくよく話を聞くと、元バンドマンや、元役者という自分と同じような経緯で尾道に辿り着いた同世代の男3人が、一度も作ったことのないチョコレート作りに挑戦するという話でした。

島の中のとても辺鄙なところで工場を作り始め、すごいなと思っているうちに、ぱっと大人気になりました。そんな中、忙しくなったから手伝ってほしいと僕にも声がかかったんです。最初は「お前らとは違うからな」と思って距離を置いていたはずなのに、気づけば意気投合していましたね(笑)

尾道も佐渡に負けず劣らずカオスな町で、変な人がいっぱいいました(笑)
コミュニティがあってみんな仲良しで、「あそこに行ってみたら?」「ここにこんな人がいるよ」と色々な人を繋げてくれるんです。元々ポートランドのような場所なのかもしれませんね。移住者もかなり多いです。

尾道のチョコレート工場『USHIO CHOCOLATL(ウシオチョコラトル)』での思い出の一枚


ーー「尾道」は勝田さんにとって人生のターニングポイントのひとつだった訳ですが、尾道に残ろうとは思わなかったんですか?
チョコレートづくりは単純に面白かったし、尾道はとても居心地の良いところでしたが、一生住みたい場所だとは思えなかったんです。”完成されすぎていた” のが大きな理由でしょうね。スキルを身につけつつ、次の場所に行きたいと漠然と考えてはいました。あと、尾道のようなコミュニティをいちから作ったらもっと楽しいんじゃないかなとも考えていました。

ーーそんな中で佐渡へUターンした理由はなんだったのでしょうか
そもそもUターンを考えるようになった契機は、尾道のチョコレート工場が設立2年目で法人化し、更にその3年後に自分も含めた立ち上げ初期メンバーが全員独立しようとなったことです。その時は自分が先頭に立ち、リスクを負って何かを始めるイメージをまだ持てていなかった上に、当時の生活に充分満足していたので、最初は独立の決断に「え?本当に独立するの?」という気持ちでした(笑)

もうひとつの理由は持病の存在が4年前に発覚したことです。すぐに命にかかわるものではないけれど、一生かけてゆっくり進行していく病気と診断されました。自分の父も同じ病気を抱えているのですが、その父と長男である自分のことを考えた時に、そろそろ親元に帰った方が良いのかなと思いました。

そういった状況で、佐渡でチョコレートの事業をしてみたらどうだろうという気持ちが湧いたのが、僕が佐渡にUターンした理由です。


チョコレート工場を佐渡の山奥に建てた理由

ーーお店のあるここ莚場(むしろば)は港からは約1時間と佐渡の中でもかなり山奥にありますが、元々場所は決めていたのですか?
別にどこというのは決めていなかったんです。そもそも佐渡ではなく、新潟市も候補に挙がっていたくらいです。新潟は若い人も多いし、いいなとは思っていました。しかし候補地の下見で僕が新潟市を回った時になんとなく違和感を覚えたんです。

自分の中ですでに創りたい空間や、使い方、どういう場所にしたいかというイメージが先にあったので、その場所に行った時に、それが合わなかったらだめだろうなと思っていました。その点において佐渡は訪れた時に色々とイメージが浮かんできたので、それが佐渡を選んだ大きな理由ですね。

佐渡の祭りと、カカオ原産国である各国の祭りを組み合わせたイラストをあしらったこだわりのパッケージでチョコレートを丁寧に包む


ーー佐渡唯一のチョコレート工場ですが、グランドオープンから約1年が経ち、いかがでしょうか?

チョコレート需要が非常に高い2月はバレンタイン需要で売れて、夏は佐渡の観光需要で売れています。つまり観光客が減る冬の時期は卸がカバーして、チョコレートが苦手な夏の季節は観光地という要素がカバーしている状態ですね。

尾道での経験もあったので、小規模であったらチョコレート事業はできるだろうなと思ってましたが、正直色々と苦戦しています。ただ、集客はこれから伸びていくと思うし、卸先は一度増えたらその後も増えていくはずなので、ここが踏ん張りどころかなと。

莚CACAO CLUBは、観光者の方にとって「佐渡良かったな」「また行きたいな」と思わせるようなお店のひとつでありたいと思っています。今すぐに望んだほどの結果は出ないけれど、先の見通しは明るいと思っていますね。


こだわりの内装はすべてリノベーションで

ーーリノベーションで特にこだわったところはありますか?
壁ですね!
莚CACAO CLUBのテーマは「お祭り」なのですが、佐渡らしさを感じて欲しかったので佐渡の鬼太鼓の衣装などをイメージして三角の木を2000枚切って作りました。

お祭りってわくわくするじゃないですか。そして「チョコレート工場」という言葉にもわくわく感があると思ってます。店の真ん中に吊るしてある提灯もお祭りをイメージしています。

店内に展示されている、当時の祭りの様子を伝えるモノクロ写真


飾られている鬼太鼓の写真は、昔の莚場の集落のものでリノベーション前のこの施設に飾ってあったらしく、地域の人がここをオープンする時にわざわざ持ってきてくれたんです。

実は偶然の一致で店内の壁の模様が、地域の行事である鬼太鼓で用いる衣装のうろこ模様と同じだったんです。しかもこの模様の由来は蛇のうろこから来ており、「魔除け」や「再生する」という意味があります。廃墟を再生するという意味でもばっちりお店のイメージにも合うんです。結果的に莚場とお店の間で色々とリンクするものがありましたね

ーーリノベーションに際して利用した制度などはありますか?
佐渡の有人国境離島の補助金と、U・Iターン創業応援事業の助成を活用しました。U・Iターン創業応援事業の助成金については新潟に住む友人や人伝に聞き、佐渡市の国境離島補助金に関しては佐渡で実際に補助金を使って起業した方のお話を聞いて知りました。

リノベーションをお願いした地元の工務店さんとの一枚。まだ建物はまっさらな状態です。



カカオ豆の購入から考える未来

ーー勝田さんがこれから挑戦したいことはありますか?
チョコレート作りに関して言えば、今シングルオリジンというカカオと砂糖のみを使ったチョコレートを作っていますが、さらに佐渡の材料を使って何か作ってみたいと思ってます。

あとはチョコレートを作る際に出る、カカオの豆の殻を使ったプロジェクトをやりたいです。カカオの殻は野菜の肥料や、燃料にもなります。和紙にしてパッケージを作ったり、殻を燃やした灰を釉薬にして器を作ったり、クラフトビールも良いですね。

カカオ豆を作っている国って貧しいことが多いんです。児童労働が問題になっていることも多い。だから、その殻を使って新しく商品を作ることが出来れば「殻まで使うから、もうちょっとカカオ豆高く買い取ります。なので児童労働を減らしませんか?」という提案ができるんじゃないかって。

ーー最後に、これから起業を考える人へのメッセージをお願いします
やりたいことがあるならトライしたほうが良いと思います。やりたいことがあって、そのために自分でリスクを背負ってやることができる人はその事業に取り組めばいいし、その時に補助金があるととてもありがたい。補助金は起業を後押ししてくれる良い制度なので、心強い味方として活用してほしいです。



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