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社内起業とMBO

NVSのディスカッションをダイジェストでお伝えします。今回のスピーカーは、SHOWROOM株式会社 代表取締役社長 前田裕二氏で、コーディネーターは株式会社START 代表取締役グループCEO 中俣博之氏です。

メインスピーカー

コーディネーター


〈SHOWROOM  とは〉
『誰でも無料でライブ配信&視聴ができるライブ配信プラットフォームです。地上波テレビの出演やファッション誌でのモデルデビューなど、常時様々なイベントが開催されており、「夢を叶えたい人」と、「夢を応援したい人」が集まる新しいエンターテインメントの形を生み出していくサービスです。』

〈MBOとは〉
Management Buy-Outの略。経営陣あるいは従業員が自社株式や自社内の一部事業部門を買収して独立すること。


■社内起業に命をかける

ーー中俣:今日は社内起業やMBOなど、今までメディアではあまり話したことがないことについて深掘りしていきたいと思います。まずは自己紹介からお願いします!

前田:僕はDeNAで社内起業した事業のSHOWROOMを、カーブアウト*を経て現在はSHOWROOM株式会社として経営しています。サービスとしては9年間、会社としては7年間携わっている形です。もともと大学生の頃に起業を考えていて、事業プランも100個くらいノートに書き留め、実際に登記までしました。新卒で3年間勤務した前職を選んだのも、将来的にビジネスを起こすのであれば証券会社での仕事が勉強になると思ったからであり、ずっと起業を意識していたというバックグラウンドがあります。

※カーブアウト:親会社が戦略的に子会社や自社内の一部事業を切り出し(carve out)、新たな会社として独立させること。

ーー中俣:DeNAの会長である南場さんが「今まで3人逃した人材がいる。そのうちの1人が新卒の前田さんだった。」と常々言っていました。そんな前田さんがDeNAに転職し、社内起業に至るまでのお話を伺えますか?

前田:前職の勤務地であるアメリカで、兄のような存在だった親戚が突然亡くなったことを聞き、「明日死ぬかも」という感覚を強烈に持ったことがきっかけでした。前職の居心地はよかったですが、「起業しないと後悔する」と思い2012年末に起業を決めました。

大学生の頃にお会いして以降、あいさつ程度の連絡を時々もらっていた南場さんに、起業を決めた報告を兼ねていくつか起業プランを話したところ「絶対にうまくいかない」と打ちのめされました。その時のフィードバックが的確であり、DeNAを創る前にマッキンゼーで【実業家に対してアドバイスをする】という、僕と同じような仕事を経験した南場さんの言葉に納得しました。そして「修行のつもりで、ウチ(事業会社)で、実際に事業を起こす経験をしてから起業したらいいんじゃない?」という南場さんの提案を受け、DeNAに入社しました。

前田氏(左)、中俣氏(右)


ーー中俣:そこから、どうSHOWROOMを立ち上げられたのですか?

前田:2013年5月に入社し、新規事業を立ち上げる部署に配属されましたが、そこで立ち上げたサービスが1カ月で終了するということが起こりました。寝ずにつくり、自信をもって立ち上げたサービスでしたが、うまくいきませんでした。いくつもある起業プランのうち、1番のプランは自分自身が立ち上げた会社でやりたいと思っていたので、本当にやり遂げたい仕事ではないプランに取組んでいたため頑張りきれず、やるならば本当に全力を注げることをやらなければ、と思いました。
   
そこで、起業した時にやろうと思っていた1番のサービスプランに挑戦しようと、「今度は人生をかけてやります」ともう一度チャンスをもらいました。類似の先行サービスがあった中国にリサーチのため出張し、その帰り便の中で作成した資料を翌日の経営会議で発表し、現在のSHOWROOMを立ち上げました。


■軌道に乗るまでの、地道で泥臭い努力

ーー中俣:今でこそ坂道やAKB48Gというトップアイドルが配信するサービスになっていますが、軌道に乗るまでには地道な活動があったとお聞きします。どのように体制をつくっていったのですか?
 
前田:初めから明確に決めていたのは、サービス立ち上げ時までに300人の配信者を集めることでした。配信者とユーザーをマッチングするCtoCのプラットフォームなので、両者がいないと成立しません。どちらを先に集めるかを「鶏と卵」問題で例えると、「鶏=配信者が先だ」という確信を持っており、まずは配信者から集めることにしました。

ーー中俣:サービスを制作しながら配信者を集めるというのは、かなり大変だったと思いますが、何人くらいのチームでやっていたのですか?

前田:3、4人でした。開発費しか予算がなく、マーケティングや広告にコストをかけることができなかったため、集める配信者は既にファンがついている人を条件に探しました。1人の配信者に、10人、20人、あわよくば100人のファンがいればコストをかけず、ユーザーも同時に集めることができると考えました。

「ファンがついているとなるとアイドルか声優がいいよね」ということで、アイドルのアタックリストをつくり、イベント会場へ通い目標の300人を集めました。2013年11月25日の初配信日には、アイドリングというグループの研究生であるNEO fromアイドリング!!!が参加してくれました。


前田氏


■サービス躍進に繋がる二度の転機

ーー中俣:サービスを躍進させる潮目のような出来事はありましたか?

前田:ふたつありますが、ひとつは『有名人による配信というトップコンテンツ戦略だけでは勝てない』と、気づいたことが転機でした。ファンはいないけど熱量はあるというような、日の目をみない人にスポットライトを当てるのが僕らの役目であり、最初に目指していた世界だと思い出しました。

そこでサービス開始から4カ月後、アマチュアに近い層の人へスポットが当たるよう、芸能事務所に所属していない人たちの配信数を増やす仕組みにピボットしたところ、配信者のエンゲージメントを向上させることができ、サービスが飛躍的に伸びました。

ふたつめは、AKB48グループの参入です。これを機にユーザーが爆発的に増えると同時に配信者の数も増えました。

ーー中俣:秋元康さんとの出会いについてですが、アメリカにいるかもしれないという情報だけで、アメリカに行ったのですよね?この行動力がすごいと伝説になっていますよ。

前田:出張中は前向きでオープンマインドになるという強い仮説が個人的にあったのですが、そんな中、秋元さんがロサンゼルスに行かれるという話を聞いたんです。先回りしてロサンゼルスに行って、行きの飛行機、そして現地で待ちながらご著書も全て拝読して考え方をインストールしました。秋元さんと一緒に仕事したいと熱烈にお伝えさせていただき、のちにそれが、AKB48グループが参入することにつながりました。 
  

ーー中俣:秋元さんのエピソードもそうですが、前田さんが経営者ではなく、一社員の立場でここまで行動できる力はどこから湧いてくるのでしょうか?メンタルの保ち方、スタンスは昔からだったのでしょうか?

前田:「自分が思いついたアイディアは、絶対にその相手にとって大きなメリットをもたらすから早く話してワクワクさせたい。早くわかってもらいたい。」と思っています。この提案で相手が変わり、世界が変わると本気で信じていて、早くこれを接続させてスパークさせたいと思っていることが一番の原動力かもしれないですね。


中俣氏


■社内起業からMBOに至るまで

ーー中俣:今日のテーマであるMBOの部分を掘り下げたいと思うのですが、エクイティの配分や先々の事業の在り方等について、具体的に考え始めたのはどのタイミングだったのでしょうか?

前田:一度目の転機であるサービスの軸をアマチュア層に寄せ、売上が伸び始めてすぐに限界を感じたことがきっかけでした。そこで、配信者のエンゲージメントを上げるために出口(配信者をキラキラした世界に導く構造)を作ろうと、既存のエンタメ業界と手を結ぶことを考え、「レーベルやテレビ局を株主として迎え入れたい」と会社に話しました。

10%でも20%でも事業的に巻き込みたい会社に、株を持ってもらって実際に事業へ巻き込むことで、SHOWROOMの企業価値を早く引き上げていきたいと思っていました。ロジックは、「①プラットフォーム型よりもアライアンス型で成長したい ②そのためには資本政策が欠かせない ③社内事業では成長できない」というものでした。

ーー中俣:こういう場合、会社とアジェンダをすり合わせるのが難しいですよね?

前田:本当に難しかったです。社内起業するか否かの判断基準で重要なのは、「代表権を持つ人と円滑なコミュニケーションができるか」という点です。会話を密に、また円滑にできるのであれば、良い資本政策が中長期的に描けますし、できなければかなりタフな社内起業になると思います。コミュニケーション環境という面で僕は本当に恵まれており、南場さんにもしっかりと話を聞いていただいたことは社内起業成功のとても重要なポイントだったと思います。

ーー中俣:SHOWROOMの事業モデル的にも株主は複数いた方が良さそうですよね。

前田:アライアンス型で成長したいと訴えたことは、ロジックとしても筋が通っていたんじゃないかと思います。また、エモーショナルな部分で言えば、「10億円のバリュエーションのうち、3億円を自分がどうにか工面してでもやりたい」という想いは伝えていました。

ーー中俣:経営者の立場からすると、エモーションの部分はすごく重要だと思うのです。MBO後に「辞めたい」と言われるリスクを会社側は考える必要があるのでその事業を本気でやり続けられるかどうかが最後の決め手ですよね。

前田:個人で数億のリスクを背負ってでもやりたいという人は、DeNA創業以来、従業員の中で誰もいなかったのではないかという話もありましたし、そこで本気の覚悟を見せられたことが大きかったと思います。

ーー中俣:社内起業において、会社のアセット、リソースや知名度以外に、メリットは何かありましたか?

前田:アセットがあることの延長かもしれませんが、恵まれた環境でサービス作りに集中できたことでしょうか。いわゆる一般的な起業の場合では雑居ビルのテナントに入り、トイレ掃除や小物の発注まで全て自分たちで行うのに対し、社内起業ではそういった環境は完全に整備された中で、サービス作りに集中できます。顧客価値だけを考え、走り抜けば良かったというのは大きなメリットだと思います。

ーー中俣:最後に一言お願いします!

前田:では、社内起業と新潟での起業という2点についてお伝えしたいと思います。

社内起業についてですが、まずは取り組まれていることをやりきってもらいたいです。
社内起業からカーブアウトして、上場するようなケースが一例でも出てくれば、社内で密かに起業を志す人たちの勇気となり、それが日本全体の起業カルチャー活性化に繋がっていくと信じています。

社内起業は、全力でユーザーの価値だけに向き合え、事業の成功確率が高い一方、資本政策にはとても苦労すると思います。この点で悩むことがあればぜひ相談してください。社内から事業が生まれ、それが外に羽ばたくという文化を発展させ、大企業にも起業家人材が集まるような日本に変えていきたいと考えています。一緒に日本を変えていきましょう。

次に、新潟での起業についてですが、僕は「メモの魔力」という本を出しており、なぜ売れたのかと聞かれると「席が空いていたから」と答えています。基本的に「混み合っていない市場で存在感を出す方が、少ない労力で高い成果を出しやすい」ので、東京に比べて代表的な起業家・企業の数が多くはない新潟にこそチャンスがあると思っています。「新潟の起業家」という席はまだ空いていて注目を集めやすく、成功確率が高いはずなので、新潟での起業を目指すみなさんを応援していきたいと思います。


前田氏(左)、中俣氏(右)

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