事業構想は最高にシンプル!「幸せに"生ききる"こと」の実現へ 〜Jスタ新潟・起業家インタビュー① 株式会社アイセック〜
「J-Startup NIIGATA(以下、Jスタ新潟)」は、地域に根ざしたイノベーティブなスタートアップ企業を新潟県と関東経済産業局等が選定し、公的機関と民間企業が連携して集中的に支援することで、選定企業の飛躍的な成長と、新潟のスタートアップエコシステムの強化を目指す取り組みです。
▼設立趣旨などについては、こちらの記事もご覧ください。
Jスタ新潟を通じた官民連携や選定企業同士の交流から生まれる新しい取り組み、事業の成長を後押しする仕組みづくりに、県内外から注目が集まっています。
今回は、そんな注目のJスタ新潟認定企業の中から、株式会社アイセック(以下、アイセック)代表取締役、木村 大地さんのインタビューをお届けします!
(木村 大地 代表取締役/新潟市出身)
株式会社アイセックについて
アイセックは、2019年12月に新潟大学医学部で設立された、新潟大学公認ベンチャーの第1号認定企業です。
新潟大学医学部の保有する医学的エビデンスを社会課題解決につなぎ、
「平均寿命と健康寿命の間にある約10年の不健康な期間をなくすこと。そして、人生の終わりまでイキイキと過ごせる文化を創造すること。」
を目指すスタートアップです。
健康医療データ分析を通じたEBPM支援(Evidence-based policy making:根拠に基づく政策立案)、オンライン健康教育事業、健康経営支援が主な事業内容です。新潟県内の自治体や企業などと連携しながら、医療や健康に関するビッグデータをそのまま眠らせることなく、集計から分析・活用へとつなげ、人々の健康に役立てています。
連続起業家の事業構想力の源泉に迫る
ーー木村社長は、2011年に創業した株式会社リンケージの取締役を退任し、アイセックを設立されましたね。ヘルスケアの新しい領域を広げられるに至った事業構想力は、何が源泉となっているのですか?
事業構想というものは、最高にシンプルであるべきだと考えています。
私たちの事業構想の源泉は「幸せに生ききること」です。その構想をデータ活用を通じて生まれ故郷の新潟で実現するため、アイセックを設立しました。
現在、“データヘルス”や“ヘルステック”というワードが盛んに飛び交っていますが、私たちは単にデータ活用の事業をしたいわけではなく、あくまで健康に関する多くの社会課題を解決することが事業の目的です。
データは、現状把握や事業推進におけるツールのひとつとして捉えています。健康に起因する日々の行動をアセスメント(評価)するためのツールがデータなのです。
経験や勘で企画や施策立案をしても健康に導くことはできません。過去のデータを正しく理解して、背景や関連因子を把握し、実行する対策に対してデータを活用した効果検証を繰り返していくことが、将来の健康をつくると言い換えることもできます。
▼木村社長の創業に対する思いはこちら(木村社長のnote)
事業を実現するパートナーシップづくり
ーーこうした事業構想を実現するために、木村さんは大学や自治体との連携など様々な方を巻き込んでいます。パートナーシップづくりの秘訣を教えてください。
自分の成し遂げたいことや、社会貢献イメージについて、揺るがないパッションを強く持ち、ひとつひとつ本気でやり続けていれば、自然と協力してくれる方が現れると思っています。
そのほか、「謙虚さ」も重要なファクターです。へりくだったり媚びを売ったりするわけではなく「こういうことをしたいけど、この点が不足しているので、あなたの◯◯が必要です」ということを飾らずに素直に伝えることです。
当然win-winであることを前提に考えますが、明確にシンプルに伝え続けると、業界トップの方などにも紹介され、自然と必要な方とのパートナーシップを築くことができると思っています。
ーーアイセックは2021年9月、新潟県の「市町村データヘルス計画策定・実施支援のための医療情報分析等事業」を受託されました。こちらはアイセックを事業主体とした6社による共同事業体です。このパートナーシップはどのような想いで組まれたのでしょうか?
この事業は株式会社 BSN アイネット、有限責任監査法人トーマツ、株式会社 JMDC、株式会社ヒューマンライフ・マネジメント、INSIGHT LAB 株式会社に当社を加えた6社で取り組んでいます。
各社とも専門領域の事業については業界トップクラスの経験やサービスを保有していますが、最終的なアライアンスの判断理由は、窓口の担当者を信頼できるかどうかという点でした。
ーー今回の事業の中で生かせそうな御社の強みは何ですか??
弊社の圧倒的な強みは、私自身が前職の経験や人脈を通じて、全国の自治体や企業の健康づくり施策に関する保健事業の成功事例や失敗事例を数多く見てきたことと収集できることです。
新潟県の分析事業においては、全市町村の課題を直接ヒアリングして、課題を抽出し、県とともに解決策を考え、対策を講じ、自治体の保健事業運用におけるアンマッチをなくしていきます。
新潟県の平均寿命と健康寿命の差分
(アイセック公式サイトより)
ーー事業を進めるにあたって最も重要なことは何でしょうか??
こうした地域ごとのデータ活用によって、そこに住む人の「おらがまち」の健康寿命をいかに延ばせるかということです。
データ分析事業にしても、健康教育事業にしても、後ろにいる何千、何万という自治体の市民の健康について、どれだけ自分ごとで考えられるかということ抜きには語れません。
そのひとりひとりの健康に対して、「行動や結果が改善したら涙が出る」くらい本気でコミットしないと事業なんかできるわけがないと思っています。
地域ごとの死因について全国と比較したデータ
(出典:新潟市健康寿命延伸計画ー令和3年3月度版)
県民の健康づくりを県内企業が支えていく仕組みづくり
ーーアイセックは企業向けに健康サポートの事業も手がけていますね。どのような取組みをしているのですか?
ひとつは「健康経営に対するコンサルティングなどの取組み」です。
現在、県内を代表する上場企業2社の健康経営推進のコンサルティングを担っています。 企業は「従業員に生き生きと健康に働いてもらうことで労働生産性を上げる」というミッションがある反面、従業員を不健康にさせないという義務もあります。
健康に対する法令遵守もせずに良いサービスを提供すると言っている企業は、私は違うと思っています。健康診断は100%受ける、再検査の通知を受け取ったら病院に行ってもらう。こうした取組みを全ての企業にやってもらいたいのです。
新潟市の健康未受診率(平成29年度)
(アイセック公式サイトより)
また、新潟県内の大手企業が健康づくりをする上で委託している事業は、実はほとんどが県外の企業なんですね。県民の健康を支えるサービスは県外からではなく、地域の事情を理解している産官学が連携し、県内でつくっていくことが望ましいと考えています。
弊社は健康寿命延伸を掲げていますが、どこよりもまず、アイセックの社員が県内で一番健康であるべきと考えているので、「まいにちノー残業デー」など多くの健康施策を講じています。
従業員の健康に対して取り組んでいる企業づくりは、働き方改革と同時にブランディングになる時代だとも思っています。
事業のつくり方と今後の展望
ーーこうしたビジョンに共感した方の協力のもと、事業も一気に広がっていきそうですが、事業の今後の展望を教えてください。
ベンチャー、スタートアップ界隈では資金調達できることが企業の価値とされる風潮もありますが、当社はしっかり地道にサービスの対価をいただき、着実に事業に自己投資して、その地域に貢献していくスタイルで経営しています。
私たちは「会社は社会の公器」と捉えています。社会の課題を解決して、その対価としてお金をいただき、その社会に納税するという積み重ねでしかないと考えます。
拡大するタイミングはいずれ来るとは思いますが、着実に、地に足をつけながら成長していくというのが当社の成長戦略の基本的な考え方です。
木村社長のバイタリティの源泉
ーー最後に、非常に精力的に活動をされている木村社長のバイタリティの源泉を教えていただけますか?
恩師の死と、親や家族への恩返しです。
私が15歳の時に、がんで剣道の恩師が亡くなりました。身近な人間を亡くして辛い思いをする方はたくさんいると思いますが、不健康になる行動や環境を知らなかったことで、後悔しながら亡くなっていくという方を少しでも減らしたいのです。これが私のバイタリティの源泉です。
健康診断や再検査を受け、適切な保健指導などを受けて健康に直結する行動を選択することで、死に対する後悔を予防することはできます。
親に対する恩返しの気持ちや、妻や子どもに褒めてもらいたいという精神的な部分もモチベーションになっています。
人生、大切なことはそんなに多くないと思います。事業を通じ、家族や身近な人たちも含めた幸せをつくっていきたいと考えています。
最後に
健康を軸に「幸せに生ききる」を実現する木村社長の思想と、アイセックの事業構想。企業経営の手法から事業の細部まで、全てがひとつにつながっています。
謙虚に、でも誰よりも熱い情熱を持って、知識に対して貪欲に。
そんな木村社長の言行一致した姿に多くの人が魅了され、県内外にパートナーシップの輪が広がっています。
今後もJスタ新潟選定企業である「アイセック」の躍進が非常に楽しみです!