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埋蔵文化財の発掘調査―文化財調査員のおしごとvol.3― 

知られざる「文化財調査員」の世界を3週に渡りたっぷりお伝えしていく本シリーズ。今回がシリーズの最終回になります!
シリーズ最終回では、土の中に眠っている埋蔵文化財の発掘調査の仕事について深堀りしていただきます!
今回文化財調査員のお仕事を紹介してくれるKさんは、現在は新潟県職員として、新潟県埋蔵文化財調査事業団に派遣され、発掘調査の仕事に従事されています。
それでは、Kさん、お仕事の紹介よろしくお願いします!

※シリーズのバックナンバーを読んでいない方はこちらからどうぞ!👇




■はじめに

こんにちは。今回は、私が在籍する新潟市秋葉区の「花と遺跡のふるさと公園」内にある公益財団法人新潟県埋蔵文化財調査事業団(以下、当財団)の仕事を紹介します。当財団は、主に国土交通省等が実施する国道建設工事等に伴う発掘調査を実施する組織です。
私は千葉県で生まれ、東京の大学で考古学を学び、研究員や市の非常勤職員をした後に、平成26年に入庁しました。今年度から2度目の当財団への派遣で調査課に所属しています。

これは遺跡から出土した縄文土器です!

1 発掘調査とは

そもそも発掘調査とは何でしょうか。
日本列島の地中や水中には人々の様々な痕跡が埋没しています。これらを文化財保護法により埋蔵文化財と定義しています。
行政が行う発掘調査は、貴重な埋蔵文化財が道路等の開発行為によって失われる前に記録し保存することを目的にしています。
前回のブログで紹介があった文化課が担当する試掘調査とは異なり、当財団が実施する本発掘調査では、具体的な人々の生活の痕跡を、年代や特徴を把握しつつ、記録を取り、報告書を作成することをしています。
なお、埋蔵文化財に深く関係する考古学の学問的な課題において実施する学術調査とは目的が異なります。

広い範囲の発掘調査をすることも当財団の特徴です。

2 当財団の発掘調査はどんなところがあるのか

令和6年度の当財団では村上市、柏崎市、上越市で発掘調査を実施しています。私は国道7号朝日温海道路の関わる上野(かみの)遺跡の発掘調査をしています。
上野遺跡は縄文時代後期前葉の集落跡で、建物の跡や土坑など様々な生活の痕跡が検出され、縄文土器や石器などの道具が出土しています。この遺跡は新聞にも報道される注目の遺跡です。大学時代には縄文時代の儀礼や墓を研究していましたので、この遺跡の発掘調査は貴重な経験です。

こちらが新潟県埋蔵文化財センター。
本センターは公益財団法人新潟県埋蔵文化財調査事業団が運営しています。


3 発掘調査の一日

上野遺跡の発掘調査は面積や遺構数ともに大規模な調査です。
そのため、当財団の職員2名のほかに、現場代理人1名、世話人2名、調査員9名、測量班2名、作業員60名程度の大きな体制で発掘調査をしています。この他にも、焼けた縄文人骨が出土していることから新潟医療福祉大学自然人類学教室の方々も関わっています。
一つの発掘現場に多くの方々が関わっているため、マネジメントも重要な役割となっています。
現場の一日はラジオ体操から始まり、仕事へのスイッチを入れます。晴天のなかのラジオ体操は清々しい気持ちになります。

朝のラジオ体操の後は朝礼が行われ、当日の作業を確認します

その後の朝礼はその日の仕事の割り振り、安全作業のための注意点、調査成果等をお伝えし、発掘調査を開始します。調査面積が広いと道具を取りに行くにも一苦労です。事前に何が必要かを確認することも大事です。
野外での作業のため雨や暑さで大変なこともありますが、大型掘立柱建物(ほったてばしらたてもの)跡や配石遺構(はいせきいこう)など、「これはなんだろうか」という新しい発見が日々あります。

検出された遺構をどのように評価して、どのような情報を記録するのかをこれまでの専門的な勉強を土台に、経験豊かな上司や先輩職員、現場の調査員と話し合って決めています。複雑な作業手順や特殊な機材を必要とする場合は土木工事の経験豊富な現場代理人や世話人の意見も聞くこともあります。
一日の最後にはミーティングをして、全体の調査方針や調査方法を検討し、調査の成果などを共有し、翌日の作業を確認して終了します。

月1回の会議の様子。調査状況を報告し、他の職員の意見を聞きます

4 地域の情報も大切に

発掘調査のもう一つの楽しみは作業員さんとの会話です。
当財団では新潟県内の様々な地域で発掘調査をしています。そこで働く作業員さんの多くは地域にお住まいの方々です。話の内容は、ご家庭や趣味などの個人的な話題から地域の文化や状況まで色々とあります。
地域の隠れた名所や美味しいお店などのお話が聞けることもあります。県外出身の私にとって作業員さんとの会話は新潟県を知る良い機会となっています。
私が必ず質問するのが美味しい日本酒の銘柄です。皆さん、地元の蔵の名前を言います。ある方が「飲みなれた水のお酒が美味しい」と言われたことに一番納得しています。
周囲の景観に季節を感じながら、お天道様のもとで何気ない会話をする楽しさもあります。

所属している学会での遺跡見学会の様子です

5 週末は自己研鑽

週末は趣味の剣道に長男とともに汗を流して気分転換と健康維持をしています。その他、県内の博物館等の文化施設や各地の文化財を巡り、専門的な研究会にも参加しています。現場の作業員さんから得た地域の情報を活かして、楽しく巡っています。
近年では文化財を文化遺産や観光資源として活用することが多くなっています。実際に現地を訪れて地域の面白さを体感することは地域の魅力を伝える力に繋がっていくと思います
また、当財団には研修制度があり、新たなことに取り組むこともできます。その成果は当財団が刊行する研究紀要で公表することができます。

調査や研究の成果を踏まえて県民の方々に向けて講演することもあります

6 終わりに

当財団の仕事は多くの方々が関係して、5月頃から11月頃までを中心に現場作業が続きます。冬場は記録類の整理や資料調査をして、その年の発掘調査の成果をまとめます。速報展示や講演会を実施する際にはそれらが材料となります。
文化財調査員は、県内各地で発掘調査を実施するとともに、市町村の担当者と連携しながら、その成果を地域の歴史の解明や地元への愛着と誇りを育むことに貢献できる仕事です。
日ごろの業務のなかで実践経験を積み、また報告書作成や講演会の準備等を通して研究を深めていくことが可能です。新潟県の文化財調査員として、是非、一緒に遺跡を発掘してみませんか。


Kさん、ありがとうございました!
文化財を発掘するだけでなく、報告書の作成や講演会、展示の実施など、「発掘調査の仕事」は多岐にわたるんですね。
発掘調査を通じて地元の歴史を解明したり、地域の方の地元愛を育める、非常にやりがいのある仕事ですね👊
Kさんの今後の活躍を応援しています!

3週に渡って紹介してきた「文化財調査員」のお仕事、いかがだったでしょうか?
「新潟県で文化財調査員の仕事に関わってみたいな」と思ってもらえたら非常にうれしいです!

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