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潜在労働力を発掘し、働き手と企業がより輝ける未来を 〜新潟県進出企業インタビュー 株式会社タイミー 丸山 佑太さん〜
2017年に創業し、人材マッチングサービスを提供する株式会社タイミーは、現在では東京を中心に全国各地に拠点を広げ、延べ1,000万人(2024年12月時点)の働き手と企業をつなぐ架け橋となっています。同社は2023年に新潟県に進出し、新潟の産業に合わせた雇用創出を後押ししています。さらに、2024年には東京証券取引所グロース市場に上場するなど、そのサービスに対する高い注目度が伺えます。今回は、新潟におけるサービスの広がりや取り組み、今後の展望について、北信越支社のリーダーである丸山さんに取材しました。
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〈プロフィール〉
丸山 佑太(まるやま ゆうた)
1991年新潟県新潟市生まれ。新津高校を卒業後、高崎経済大学へ進学。大学卒業後は金融機関に就職。その後、株式会社マイナビに転職し、山梨支社の立ち上げに従事する。地元・新潟へのUターンを希望し、2023年に株式会社タイミーへ入社。現在は北信越支社リーダーを務める。
"時間マッチング"で人と企業をつなぐ架け橋に
ーー株式会社タイミーはどのような事業を行なっているのでしょうか?
2017年に創業した、潜在的な労働力の活用を目的とする人材マッチング会社です。創業7年目を迎え、社員数は約1,300人、サービスの利用者数は1,000万人を超えています。「この時間なら働ける人」と「この時間だけ働いてほしい企業」をつなぐことで、スキマ時間を有効活用し、眠っている労働力を発掘しています。私たちのサービスでは、最短1時間から仕事をしていただくことが可能で、この短時間労働という特徴がカギとなり、フルタイム労働が難しい方々にも働きやすい環境を提供しています。このような取り組みから、私たちは「時間をマッチングする会社である」と考えています。
ーー短時間でできる仕事というのはある程度限られてくると思いますが、あえて短時間にこだわるのはどうしてなのでしょうか?
「働く」ことのハードルを下げる工夫の1つです。短い時間から働くことで、まずは「体験する」感覚で気軽に仕事や職場の雰囲気を感じていただきたいと考えています。「大人版のキッザニア」をイメージしていただくと非常に分かりやすいと思います。
※キッザニア
子どもたちが職業体験を通じて楽しみながら学べるエデュテインメント施設(教育+エンターテインメント)。1999年にメキシコで誕生し、日本では東京(豊洲)と兵庫(甲子園)に施設がある。キッザニア東京・キッザニア甲子園では、 病院や新聞社、商店街、劇場など60以上のパビリオンと約90種類の社会・職業体験が可能となっている。
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タイミーでの経験が働き手の履歴書に
ーー仕事を「体験」と表現するのはあまり見受けられませんので、気軽に仕事をして良いのだろうか?と、正直考えてしまいます。
まずはその認識を変えていくことが我々の役目であると考えています。働き手の皆さんは経験がそれぞれ異なるため、仕事の対応力は大きく変わってきます。私たちは、個々のそれまでの経験が現場で活かせるのか、もしくは求められているのかを確認する作業を「体験」と認識しています。
ーーそれでは、「自分の経験が通用するのか分からないが、初めての職種にチャレンジする」というのも良いのでしょうか?
もちろん、初めての方でも問題ありません。仕事内容によっては企業側が経験者限定で募集を行う場合もありますが、その条件がなければ未経験の方もぜひチャレンジしていただきたいです。
人材マッチング業界の課題として「企業と働き手のミスマッチの多さ」が挙げられています。また、働き手の転職回数が多いとマイナスのイメージを持たれ、さまざまな場所で経験を積む機会が制限されるという現状があります。このような状況では、働き手が増えないのも無理はありません。
私たちは、仕事に対する考え方を柔軟にすることが、潜在的な労働力を発掘するために不可欠だと考えています。この柔軟さが企業と働き手を引き合わせ、将来的には継続した雇用へとつながっていきます。実際に、我々のサービスを利用した後、直接雇用に至ったケースも多く存在します。
現在、日本全体で働き手不足が課題となっていますが、企業と働き手の出会いが損なわれているだけで、まだ多くの労働力が各地に眠っています。例えば、東北のある県で行われたアンケートでは「地元には働きたいと思えるような職場がないため、関東に移住する」という結果が示されました。しかし、実際には地元に多くの企業が存在し、魅力的な職場があるにもかかわらず、それが認知されていないために労働力が関東に流出してしまっているのです。
ーー正社員をテーマとした人材マッチング企業は数多くありますが、タイミーの特徴としてはどのようなところでしょうか?
タイミーを通じてスキルアップした経験を活かし、雇用へとつなげる点が私たちのサービスの大きな特徴です。主軸であるスキマバイトサービスでは、企業と働き手双方が相手を評価する仕組みを取り入れています。
従来の人材マッチングでは、履歴書などの書類をもとに正社員採用へとつなげるケースが一般的ですが、我々のサービスでは、利用時の評価が履歴書のような役割を果たします。この評価により、さまざまな職種での習熟度や働きぶりを確認できるため、従来の履歴書では見えづらかったスキルや適性が明確に伝わります。
こうした仕組みにより、働き手が多様な経験を積みながら適切な評価を受けることが可能となり、企業側も実際の働きぶりを把握したうえで採用を検討できる点が、我々のサービスの強みです。
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口コミでサービス拡大!対面での信頼構築が突破口に
ーー丸山さんはタイミーへの入社を機に新潟に戻られていますが、何がきっかけだったのでしょうか。
大学卒業後は金融業界に就職しましたが、「地元・新潟に戻って地域を元気にしたい」という想いからマイナビへ転職しました。しかし、新潟ではなく山梨支社の立ち上げに携わることになりました。
支社立ち上げプロジェクトでは、人材マッチングのスキルだけでなく、組織をまとめるスキルや自治体・企業との連携スキルを身につける貴重な経験を得ることができました。この経験を活かしたいと考え、新潟に拠点を置いたばかりのタイミーに転職を決めました。
ーータイミーの新潟進出が丸山さんにとっても大きな出来事だったのですね。では、タイミーが2023年に北信越支社の設立をされたのはどうしてでしょうか?
2023年に新潟に拠点を設けたのは、新たに日本海側へのアクセスなどを総合的に判断したためです。新潟は明治時代には全国で最も人口の多い地域であり、産業面でも多くの魅力を持っているものの、現在では人口減少が進んでいるという現状があります。
これは、新潟の魅力が働き手に十分伝わっていないのではないかと考え、「新潟の力になろう」と動き始めました。
ーー新潟に進出して1年ほど経ちますが、新潟にはどのような魅力を感じていますか?(2024年11月取材)
新潟では、人と人とのつながりや、温かみのある会話や対応が感じられる部分に大きな魅力を感じます。地域の特徴として、新しいものを受け入れることに慎重な傾向がありますが、だからこそ、実際に我々のサービスを利用してくださった方々からの口コミが非常に大きな影響を持ちました。その結果、紹介を通じて案件が一気に増加していきました。
現在では、多くの事業所の方々とお付き合いさせていただいており、地域に根ざした活動を広げています。
ーーそれだけ多くの企業さんが人手不足で助けを求めているということですね。特に、人手不足の職種はありますか?
全国的に同じ傾向ではありますが、飲食業、物流業、小売業などが多いです。その中で、新潟は製造業の人手不足が目立っています。
ーー新潟というと農業も盛んですが、農業の募集もあるのでしょうか?
最近では、ご依頼が大幅に増えてきました。新潟事業所の立ち上げ当初は数件のご依頼からスタートしましたが、先ほどお話したように、サービスをご利用いただいた農家さんからの口コミが大きな力となりました。
特に農業分野では、繁忙期がピンポイントで発生するため、我々のサービスとの相性が非常に良いと感じています。例えば、カキノモトの収穫やコメの田植え・稲刈りなど、2日から1週間単位で募集を出す農家さんが多く、2024年には数十ほどの農家さんにご利用いただきました。
現場では深刻な人手不足が課題となっていますが、一方で農作業は働き手のニーズも高い分野です。新潟に住んでいるものの、農業に触れたことがない方が「農業を経験してみたい」と応募されるケースが増えているのです。
これこそ、潜在的な労働力を発掘し、新たな雇用の形を生み出せていると実感する事例です。
新潟は農業をはじめとする一次産業において、日本屈指の存在だと思います。その一次産業を基盤とした二次産業も非常に盛んで、働き手を求めている企業が多い印象です。また、個人的に日本酒が好きなこともあり、最近では酒造りに携わる企業にも我々のサービスを導入していただけたことをとても嬉しく思っています。
新潟の地域資源を活かした多様な産業と、それを支える働き手をつなぐことで、さらに地域に貢献していきたいと考えています。
ーーしかし一方で、「新潟だからこそちょっと困る」ということはありますか?
上越から下越まで距離があるため、アポイントの組み方が難しいです。1日2件しか打ち合わせができない時は歯がゆさを感じることもあります。
オンラインを活用しないわけではありませんが、お客様には初めての取り組みをご提案させていただくことが多いため、まずは直接お会いして話をしたいという気持ちがあります。信頼を一つずつ積み重ねていくことが大切だと感じています。
首都圏ではメディアやSNSなどを活用したプロモーションによってサービスが広がりつつありますが、新潟では人と人とのつながりが中心となっています。「まずは聞いてみよう」というスタンスで受け入れてくださるお客様が多いので、対面でのコミュニケーションが我々の熱意をより伝えられると考えています。
企業の垣根を乗り越え、強みを活かしたプロジェクトで新潟を元気にしていきたい
ーータイミーはイノベーション施設「NINNO」に拠点を構えられていますが、県内の他企業とつながりはできていますか?
残念ながら、現時点では他の企業とのつながりを十分に築けていないのが現状です。しかし、新潟オフィスのスタッフ全員が新潟出身であり、地域を元気にしたいという強い想いを持っています。この想いを実現するために、他の企業との連携をさらに深めていきたいです。
その際には、私たちのサービスを単に利用していただくのではなく、私たちの強みである人材マッチングと他の企業の強みを融合させて、地域に貢献できる新たなプロジェクトを共に実現していきたいと考えています。
地元の皆さんとのつながりを増やし、支社へと規模を拡大させることを目標にしています。そして将来的には、自治体とタイアップし、人手不足解決のための取り組みを加速させていきたいです。新潟ならではの農業にフォーカスしたプロジェクトにも可能性を感じています。
ーー今後、新潟進出を考えている企業へメッセージをお願いします。
新潟出身の私は、地元に貢献したいという想いでUターンしました。個人的な考えですが、企業もこのような想いを軸に、新潟進出を検討していただければと思います。また、一度も会ったことのない企業との出会いを望む気持ちも、強い原動力になると感じています。実際に飛び込んでみると、自治体をはじめ、多くの方々がその想いに賛同し、支援してくださいます。悩んでいるのであれば、まずは行動してみてください。
新潟の特徴として、海と山があり、自然豊かな環境が広がっています。一次産業が盛んなのはもちろんですが、空港や新幹線もあり、交通アクセスも非常に便利です。また、新潟出身者として、四季折々の自然環境も魅力だと感じています。ぜひ一緒に新潟を盛り上げていきましょう。
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