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ビッグデータを活用して豊かな社会を実現する 〜起業家インタビュー INSIGHT LAB株式会社 遠山 功さん〜

今回は、2024年8月に東京証券取引所 TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場をされたINSIGHT LAB株式会社 代表取締役 社長 CEO 遠山功さんにお話を伺いました。

INSIGHT LAB株式会社 代表取締役 社長 CEO 遠山功さん

<プロフィール>
遠山 功(とおやま いさお)
1977年生まれ東京都出身。中学3年生でタイピングゲームに触れたことをきっかけにプログラミングに興味を抱き、高校・大学を通してプログラミングを学ぶ。大学卒業後、システムエンジニアやデータコンサルタントとして2社で経験を積み、27歳でINSIGHT LAB株式会社を設立。現在は国内だけでなく海外にも拠点を構えるほか、2024年にはTOKYO PRO Marketに上場。


"データ=資産"の認識が新たなビジネスを生み出す

ーーINSIGHT LABはどのような会社でしょうか?
データエンジニアリングやAIを基盤に、企業の新たな価値を創造し、新たなビジネスを構築するお手伝いをする会社です。企業は様々なデータを保有していますが、そのデータを最大限に活用できていなかったり、そもそもデータの価値を認識できていないことが多いです。バラバラに点在しているデータを繋ぎ合わせると、企業が持っているデータは"資産"になると考えています。我々は、その"資産"を生かすためにコンサルティングからシステム開発に至るまで一貫して取り組んでいます。
起業当時は自宅の一室で1人で始めた会社ですが、今では全国で120人ほどの仲間とともに事業に取り組んでいます。

ーー新潟には何をきっかけに拠点を構えられたのでしょうか?
村上市に縁があったことがきっかけです。村上市には私の親族が住んでいて、小さい頃からよく訪れていました。「親しみのある地域の力になれないか」そんな想いから、2021年に新潟県にも拠点を構えようと決めました。現在は新潟市をはじめ、上越オフィス・佐渡オフィスも構え、県内企業の皆さんのお役に立てる体制を常に整えています。

ビッグデータを活用し、企業の潜在的な価値を見出す

ーー事業内容を具体的に教えてください。
事業は3つの柱で成り立っています。
1.データソリューション事業
2.データエンジニアプロフェッショナルサービス事業
3.地方のDX推進事業
データソリューション事業では、「データテラス」というサービスを提供していて、企業が持っているデータをどう活用していくか定義を定め、データを効果的に活用するための基盤を作っていきます。具体的には、散在しているデータを集めて可視化し、データ分析とAIを絡めて利益や成長に繋げていきます。

ーーAIはどのような形で活用しているのでしょうか?
例えば、製造業においては分析したデータをAIに学習させることで、材料の在庫の傾向を掴み、在庫過多の状態を防ぐことができます。実際に、100トンの在庫を削減することに成功した実績もあります。AIというとチャットGPTやロボットなどを想像する方が多いと思いますが、我々は「データを学習して予測値を出すもの」として扱うことを得意にしています。企業によってデータの捉え方や考え方が違うので、コンサルティングを行ったうえで、データを「集める・分析する・使用する」まで全て自動で行えるようなオリジナルのシステムを作っていきます。

<事例>

ーーデータとAIを組み合わせたシステムは私たちの周りにもありますか?
ライブボード広告はその1つです。デジタルサイネージにカメラを取り付けて情報を収集しています。広告を見ている人たちの年代や性別などを自動的に集計・分析し、広告の種類や流す時期、時間帯を判断できるようになっています。

ーー2つ目の事業「データエンジニアプロフェッショナルサービス」について教えてください。
データはあるが、「どうしたら良いのか、どのように活用すれば良いのか知りたい」という企業にご提案しています。この事業は、データテラスのサービスに加えて、弊社の相談役が企業に常駐して伴走しながらシステムを構築していくというイメージです。

ーー企業規模によってどのサービスを選択するのか、傾向などはありますか?
企業の規模感よりも、問題に対して最も適切なものが選ばれるため、傾向のようなものはありません。大企業であっても、データを十分に活用できているとは限りません。

ーーでは、サービスを利用する企業の特徴はありますか?
データに価値を感じている企業が多いです。「データは資産である」と述べましたが、本当に宝の山なのです。データを活用することで売上がどんどん伸びて、大きな利益がすぐに出ることもあります。ただ、DX化が進んでいない企業では、備品で億単位のお金を投入しても、「ソフトウェアに100万円かけるのは高い」と考えていることも多いのが現状です。そのため、我々がもっとデータの価値を広く周知し、その重要性をお伝えしていく必要があると考えております。

ーー3つ目の事業「地方のDX推進」について教えてください。
「データを活用する」というステージの前段階、これからDXを進めていくという地方の企業にアドバイスをする事業です。
具体的には、製造業の企業(直近で支援を実施)には、営業と製造工場のやり取りに関するDX化をご提案しました。「1つの案件においてメールで何度もやり取りが発生し、なかなか作業が進まない」という悩みに対しては、他社の既存システムの活用をおすすめし、無事に問題を解決へと導いています。

ーーこの事業では、オリジナルのシステム提供はしないのでしょうか?
もちろん提供することもありますが、専用のシステムを構築するとどうしても費用がかかってしまいます。そのため、はじめはなるべく費用を抑えた方法でご提案しています。このアプローチで結果が出て、DX化の利便性や利益を生み出す力を実感していただければ、さらなるDX化に繋がると考えています。

ーー確かに、初めての試みに大きな費用を投じるのは勇気が必要ですし、段階を踏んでDX化を進められるのは嬉しいですね。
この事業は、地方が元気になってもらうためのお手伝いだと考えています。DX化を進めることに抵抗を感じている企業の不安を、解消できるアプローチを心がけていきたいです。

地域が元気になるための"土台"作り

ーーこれまでの事業実績は何社ほどあるのでしょうか?
これまで600社ほどの企業や行政の皆さんと事業を行ってきました。新潟県内での企業はもちろん、新潟大学や村上市・三条市・妙高市・上越市などの行政・機関と関わらせていただいています。

ーー行政の皆さんはどのような支援を望んでいるのでしょうか?
行政の目的は"地域の経済活性化"です。そのために、我々が必要なリソースを提供しています。具体的には雇用創出やデジタル教育の場の提供です。
首都圏と地方を比較した「情報格差」という言葉はよく耳にしますが、さまざまな経験を逃してしまう「機会格差」も存在します。起業家が少ない地方では起業家同士の議論を行う場が少ないため、我々は「機会格差」を少しでも埋められるように、起業家が学べる場所を提供しています。
また、教育格差を解消するため、首都圏と同じように気軽にデジタル教育を学べる場も提供しています。先日は村上市の小学校でプログラミング教室を開催しました。
「これらが経済活性化に繋がるのか?」と疑問に思われる方もいらっしゃると思います。しかし、私はこういった活動の積み重ねが優秀な人材を育て、将来的に経済効果に繋がると考えています。

ーーまずは地域が元気になるための土台づくりを行っているのですね。
そうですね。実は私が数学の教員免許も持っているので、単に新しいビジネスを作るのではなく、経歴も生かして地域の皆さんと一緒に出来ることを積み重ねていきたいと考えています。

"いつもの"を誰もが実現できる心地よい世界を作りたい

ーー遠山さんは2社で経験を積んだ後に起業されていますが、いつから起業を考えていたのでしょうか?
起業は小学生の頃から抱いていた夢でした。当時、テレビ番組を観て「社長ってかっこいいな」と、子どもの頃から憧れていました。そのような気持ちもありつつ、社会人として経験を積む中で、「自分の力を試したい」という気持ちが芽生えたことが大きなきっかけです。大学生時代にデータに携わる仕事がしたいと考え、エンジニアとして社会人のスタートを切りました。そんな中で、学生時代に飲食店でアルバイトしていたときに感じた"いつもの"という心地良さを思い出し、「"データ"を使えば、"いつもの"の心地よさを世の中に提供できるのではないか」と考えるようになり、データコンサルとして経験を積むために転職しました。

ーー"いつもの"とは具体的にどのようなものなのでしょうか?
アルバイト時代に実際に経験したことなのですが、いつも同じものを注文する常連さんと仲良くなり、
常連客:「餃子とビールお願い」
遠山さん:「かしこまりました!」
というやり取りが、
遠山さん:「いつものですね?」
常連客:「おっ!わかってるね!」
と変わっていきました。私はこのやり取りをとても心地良く感じました。しかし、このやりとりは他のスタッフになると成り立ちません。後日、常連さんから「昨日いなかったね」と言われた時に、「特定の人でなくても"いつもの"が体現できるような世界を作れないか」という考えが浮かびました。その当時はデータを使うという発想がなく、1社目の会社で働いている時に「あの心地の良い世界はデータで実現できるぞ」と思いつき、転職を決意しました。データを活用することで、状況に合わせた情報を抽出し、相手の求めているものを的確に届けられると確信しています。

地方を盛り上げるための"上場"という選択

ーー2024年6月にTOKYO PRO Marketに上場されましたが、どのような経緯があったのでしょうか?
上場を選択した理由のひとつは、新潟で事業をより展開していくためでした。新たにDX化を進めていくことに拒否反応を示したり、県外企業へ不安を持つ企業が多いため、まずは上場することで"信頼"を高めようと考えました。
これまでは自分たちのために「新しい技術を学ぼう」「面白い企業を作ろう」と奮闘してきましたが、新潟に進出したことをきっかけに「我々が新潟で出来ることはなんだろう」と考えるようになりました。この考え方の変化が地域を盛り上げていくことに繋がると考えています。
また、地方のデジタル化を進めていく環境を整えるためには資金が必要であったため、資金調達のためにも上場が必要でした。新しいツールの獲得やコンサルティング、教育環境の整備などは莫大な費用がかかります。特に、教育というのは投資をしてから年月を経て結果が出るものですが、まだDXが進んでいない地域が未来に向けて莫大な投資をするのはハードルが高いです。そこで、我々が先に投資をして道標を示していきたいと考えました。

ーー遠山さんは、新潟の教育に「投資をしたい!」と感じているのですね?
新潟を含め、地方というのは様々なコンテンツが揃っている恵まれた環境です。例えば、東京では"学ぶ"ということだけに限られてしまいますが、新潟であれば、その学びを地元の鮭や雪などを使い、掛け算で学ぶことができます。さらに、学んだことを地元にあるコンテンツを使ってより深い学びや理解、発見に繋げることができます。その結果、「こうやって何かを解決していくんだ!」と子ども達は気づき、どんどん成長していきます。この経験をして育った子どもたちは、大人になったときにその力を社会に還元してくれるはずです。「地方だからこそ可能な教育環境で、社会を支える人材を育成する」そのための投資をしたいと思っています。

起業のためには4つのポイントを考慮して

ーーこれから起業を考えている方にメッセージをお願いします。
起業のポイントは4つあると考えています。
1.マーケット
2.自分の市場価値
3.タイミング
4.野望・情熱
私が起業した際には、この4つが揃っていたので起業しようと覚悟を決めることができました。データに関するビジネスは当時は270億ほどのマーケットで、これはまだまだ伸びると予測していました。実際に、現在は5,300億ほどのマーケットになっています。自分が挑戦する分野の今後の成長を見据えることが大切です。
また、マーケットが拡大すると分かっていても、自分がそこでどんな立ち回りができるのかをよく考えてください。当時はエンジニア職が少なかったので、私はそこに勝機を見出すことができました。
そして、私が起業したタイミングは27歳の時で「いま起業して、もし失敗してもまだやり直せるな」と、先を見据えてアクションを起こしました。起業をすることに年齢は関係ないと思いますが、起業がうまくいかなくても、もう一度起き上がれるようなタイミングも大事だと思います。
最後の野望と情熱ですが、これは起業家に必要不可欠だと考えています。この想いが、苦しい状況になった時に自分を奮い立たせてくれる力となります。
私は、起業家をアスリートに例えることがあります。アスリートは、コーチや食事の管理をするスタッフなど、周りに支えられながら結果を出していきます。起業家も同様に、社員や仲間の支えがあってこそ、結果を出せるものだと思います。また、起業することは魅力的なものの1つだと思いますが、起業することが全てではありません。自分がどんなポジションで何を成し遂げたいのか、しっかりと考えたうえで、自分の決めた道を目指して欲しいです。

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