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唯一無二の温泉を利用したスッポン養殖で可能性を広げる〜Jスタ新潟・経営者インタビュー⑩ 株式会社魚沼スッポン〜

今回は「J-Startup NIIGATA(以下、Jスタ新潟)」の選定企業である、株式会社魚沼スッポンの特集記事をお届けします。

Jスタ新潟
地域に根ざしたイノベーティブなスタートアップ企業を、新潟県と関東経済産業局等が選定。公的機関と民間企業が連携して集中的に支援することで、選定企業の飛躍的な成長と、新潟のスタートアップエコシステムの強化を目指す取り組み。
▼設立趣旨などについては、下記HPもご覧ください。


株式会社魚沼スッポン 代表取締役 井口 陸弥さん

〈プロフィール〉
井口 陸弥(いぐち りくや)

1994年新潟県・南魚沼市生まれ。六日町高校を卒業後、北海道大学水産学部に入学し、アワビの養殖に関する研究に励む。卒業後は人材紹介ベンチャー企業で営業職に就いたのち、2020年11月に地元・南魚沼にUターン。翌年12月、地域の資源を活かしたスッポン養殖事業をスタートさせる。飲食店へ食材としての提供だけでなく、より多くの人にスッポンを味わってもらいたいと自ら考案したレシピをもとに、加工品のネット販売にも着手。"当たり前にスッポンが消費される世の中"を目指し、養殖に励んでいる。



雪国からの挑戦!温泉を利用したスッポン養殖

ーー株式会社魚沼スッポンの事業について教えてください。
当社は、豪雪地帯の南魚沼市でスッポン養殖を手がけています。実は、スッポンは暖かい気候を好むため、養殖は比較的温暖な地域である九州地方に集中していて、東日本での養殖事業者はとても少ないのが現状ですが、そこを逆手にとって事業を立ち上げました。創業当時のスッポン生産数は200匹ほどでしたが、現在は大きな養殖池を完成させ、約700匹を生産出来る環境を整えました。成長したスッポンはミシュランで星を獲得している料亭をはじめ、最近では、ご家庭でも気軽にスッポンを味わっていただこうと加工品の販売もスタートさせています。

ーー暖かい気候を好むスッポンを、どうやって雪国で育てるのですか?
湧き出る天然温泉が、雪国でのスッポン養殖を可能にしてくれました。スッポンは、気温が下がってくると長い期間に渡り冬眠してしまい、冬眠期間は餌を食べないので成長に時間がかかってしまいます。そのため、新潟のような雪国では本来、スッポン養殖は不向きです。しかし、温泉を使ってスッポンを育てることで、冬眠を防ぎつつ、生育を早めることができます。また、一般的にはスッポンの稚亀が出荷出来る大きさになるには3〜4年かかると言われていますが、生育を早めることにより、1年で出荷することが可能です。この養殖方法は、スッポンの養殖が盛んな大分県で行われた、ボイラーや温泉を活用し、温かい環境でスッポンを育て、冬眠させずに短期間で成長させるという研究を参考にしています。

地元の恵みを受けて育つ、唯一無二のスッポン

ーー多くの学びを経て始まった養殖事業は、順調に進みましたか?
順調には進まず、飼育実験の段階で稚亀が死んでしまうという壁にぶつかりました。稚亀は、温泉をそのまま使うと死んでしまうのです。当初は温泉で育てるというコンセプト自体がそもそもダメなのではないか、温泉が使えないなら事業はやめようかなとも考えました。
しかし、諦めずに大学時代の知識を活かして何度も実験を繰り返しました。その結果、企業秘密なのですが、温泉に含まれているある成分に原因があるということを突き止め、壁を乗り越えることができました。原因がわかってからの飼育実験は順調に進み、無事に会社を設立することが出来ました。

ーー苦労を乗り越えての起業だったのですね。しかし、温泉を使ったスッポン養殖はすでに他県でも行われていますが、魚沼スッポンさんならではのアピールポイントはありますか?
弊社のスッポンは、"脂の色が白い"というのが特徴です。実は、脂が白いというのは、はじめはウィークポイントとして捉えていました。スッポン業界では、スッポンの脂は黄色いものが良いとされているからです。そのため、初めて水揚げをして捌いた時は、白い脂を見て落胆しましたが、試食していただくと「味があっさりしていてクセがないね」と評価していただき、自信に繋がりました。
当社のスッポンの脂が白いのは、こだわっている"餌"が大きく関係していると思います。実は当社のスッポンには、地元酒造の"酒粕"を混ぜた餌を与えています。特に水産物は、餌が味に大きく影響すると言われているので、酒粕が白い脂に繋がっているのではないかと思います。
地域の恵みという点ではもう一つ、"温泉の泉質"も特徴にしていけたら良いなと検討をしている段階です。まだきちんと調べられていないので不確定ではありますが、温泉の泉質が味に影響しているのではないかと思っています。調査をして確証が得られれば、より地域の恵みを活かしているというアピールポイントにしていきたいです。

養殖池にいるスッポン

"好きなもの"が引き寄せた故郷での起業

ーー大学卒業後はベンチャー企業に就職されていますが、将来的な起業を見据えての就職だったのでしょうか?
正直、起業は全く考えていませんでした。むしろ、自分には無縁だと思っていたほどです。私の祖父も父も事業を営んでいますが、経営がうまくいっていなかった時期もあり、当時の苦労を小さい頃から聞いていたからです。そんな大変な思いをするくらいなら、起業するより就職して働く方が自分には合っていると考え、卒業後は迷いなく就職しました。

ーーしかし、就職先の企業は、大学の専攻とは全く違う業界ですね。
大学の学部は、水の中の生物に関わりたいと考え、水産学部を選びました。小学校の頃に早朝に川釣りに行って、釣った魚を食べてから登校するなど、水の中の生物に親しみを持っていたんだと思います。
就職する際は、"憧れのランボルギーニを手に入れる"という目標を掲げていたので、会社や自分の成長が見込めるという点を重視して、ベンチャー企業を選びました。プライベートでは車の写真を撮ってSNSに掲載するほど、車がとても好きです。夢を叶えるべく仕事に励んだのですが、しばらくして地元に戻ってくることになりました。仕事をしないと憧れの高級車からは遠のいてしまうので、「起業して目標を達成しよう!」と思い立ち、起業することに決めました。

ーー大学から就職まで、好きなものが進む道を示してくれていたのですね。そこからどのようにしてスッポン養殖を考えたのでしょうか?
大学の研究で、アワビの養殖を行い、それを街の特産品にするプロジェクトを経験したことがあったので、そのノウハウを起業に活かすことにしました。研究がとても面白かったので、いつか養殖に関わってみたいなという思いもありました。しかし、アワビを扱うとなると、海がない南魚沼で海水を利用するにはコストがかかり過ぎることや、日本で消費されているアワビは価格競争に勝つのが難しいなどの課題がありました。また、せっかく自分の故郷である南魚沼で事業を立ち上げるなら、地の利を活かしたものを扱いたいと考えました。それが、私の祖父が掘り当てた温泉だったのです。温泉を使って養殖が出来る水産物としてフグなども検討しましたが、初期投資も比較的安価で出荷の際の価格も高く、さらには温泉を利用すると短期間で出荷出来ることなどの理由から、スッポンの養殖をすることに決めました。

ーー南魚沼に戻ってから起業までの歩みを教えてください。
まず取り組んだのは、南魚沼市チャレンジ支援事業補助金への申請です。それまでスッポンに触れたことがなく、稚亀の入手方法や飼育方法を学ぶ必要があったため、その資金として補助金を活用したいと考えました。

ーー補助金の情報はどこで知ったのでしょうか?
実は、家のポストに届いていたチラシで見つけました。こんな魅力的な補助金があるならぜひ活用しなければと早速取り組みましたが、それまで事業計画書を書いた経験がなかったので苦労しました。当時は人脈もなく、起業について相談できる方がいなかったため、大学時代の友人に何度も添削してもらい、無事に補助金を採択いただくことが出来ました。この補助金を利用して、手作りの飼育池を作ったりすることが出来ました。

Jスタ新潟の信頼が事業拡大の可能性を広げる

ーー2023年にJスタ新潟に選定されましたが、どのような変化がありましたか?
Jスタ新潟に選定されてから、周りの方からの信頼度が格段にアップしています。ありがたいことに、雪国でのスッポン養殖という珍しさから、様々なメディアに取り上げていただいていますが、資金を調達するという面で注目度というのは評価対象にはなりません。どれだけ商品が売れたのか、予約があるのかなど、数字でシビアに判断されます。しかし、Jスタ新潟に選定されたことで大きな信頼を得られ、事業の背中を押してくれました。また、日本政策金融公庫からの借り入れ金利が低くなるという制度もあるので、今後の事業拡大にとても心強いです。
さらに、Jスタに関する各地のイベントに参加出来るようになるので、他の起業家の皆さんと繋がって情報交換をしたり、切磋琢磨したり出来る環境はモチベーションにも繋がっていきます。
また、選定されてからは、Jスタ認定企業のロゴを名刺に入れているのですが、名刺交換した際に「すごいね!頑張ってね!」とお声がけいただくこともあり、励みになっています。

当たり前にスッポンが消費される世の中を目指して

ーーこれから本格的な水揚げ作業に入っていくと思いますが、今後の展望を教えてください。
これまで飲食店への出荷は行っていましたが、2023年11月からは、より多くの方々にスッポンを楽しんでいただくため、すっぽん鍋セットの販売を始めました。有名飲食店様と連携してスープのレシピを考え、スッポンの処理もしました。南魚沼市のふるさと納税の品物としても取り扱ってもらっているので、南魚沼の味として知名度を広げていきたいです。
そのためにはもっと生産数を上げなければならず、将来的には廃校のプールを使った養殖も検討しています。
廃校のプールに注目したのは、全国には2,000近い廃校プールが再利用されておらず、年々その数が増えているからです。新潟県も例外ではありません。実は学校のプールというのは建設費に約1億円かかるのです。そのプールが使われずに放置されているというのは非常にもったいないと考え、スッポンの養殖池として再利用し、生産数を増やせないかと考えています。また、将来的には食育にスッポンを利用できないかとも考えています。
例えば、給食にスッポン料理を出して、子供達に食べてもらいたいと思っています。スッポンはタンパク質が豊富で必須アミノ酸のほとんどが含まれており、栄養価の高い食材です。育ち盛りの子供達にはぴったりだと思います。幼い頃からスッポンを口にすることで、コシヒカリのように当たり前に口にする食材になったら嬉しいです。様々な角度からスッポンを口にしてもらう機会を新潟から発信し、"当たり前にスッポンが消費される世の中"を目指していきます。


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