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NVSディスカッションレポートVol.2「NVA歴代優勝企業のその後」
新潟ベンチャーサミット2024(以下、NVS)のパネルディスカッションをレポートいたします。NVS2024の概要については、こちらからご確認ください。
今回のスピーカーは、NVAピッチ歴代優勝者であるSIIG株式会社 代表取締役 谷川奨氏、株式会社Riparia 代表取締役CEO 室田雅貴氏、株式会社デントエックス 代表取締役 大塩優多氏、株式会社コルシー 代表取締役 堀口航平氏、コーディネーターは株式会社START 代表取締役社長 グループCEO、NVA理事 中俣博之氏です。
※NVAピッチ
次世代の高成長なベンチャーや第二創業者の輩出を目指し、 新潟県に縁のある若者経営者などにより設立されている新潟県ベンチャー協会 (略称:NVA) が主催し、起業家や企業からのビジネスプランを募るピッチイベント。2020年から毎年開催。
スピーカー
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コーディネーター
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ーー中俣:2020年のNVA初開催から4年が経ちました。各地からたくさんの起業家の皆さんが集まってくださり、年々盛り上がっているなと感じています。今回は、その盛り上がりを先導している皆さんに、ピッチ優勝後からどのように活動されているのか伺います。まずは自己紹介をお願いします。
谷川:弊社は、釣り人向けアプリの事業を行っており、今年で10期目を迎えました。現在は釣り人向けアプリを主軸としつつ、水産庁や国のシステム開発にも携わらせていただいております。2020年に開催されたNVAピッチでの優勝を機に、シード期の資金調達がスムーズに進みました。その後、調達した資金に加え、融資や補助金も活用し、これまでに総額約6,500万円を調達しました。
室田:弊社は、プロモーション支援やデジタルマーケティング領域を中心に、企業や行政とタッグを組んで事業を展開しております。最近では、新潟発のeスポーツチームを結成し、そのプロモーションやマネジメントにも携わっています。2021年にNVAピッチで優勝し、現在は創業6期目を迎えていますが、立ち上げ当初の事業内容とは大きく異なる分野に取り組んでいます。資金調達については、エクイティファイナンスを行わず、銀行からの借入を活用することで、株式の100%を保持したまま事業を推進しています。新潟の発展を目指し、地域に貢献できる挑戦を続けています。
大塩:私たちは「口腔ケアで世界を幸せに」というビジョンを掲げ、新潟大学と連携して介護施設専用の口腔ケアクリーナーの研究開発を進めています。2022年にNVAピッチで優勝後、現在はシード期にあり、プロトタイプが完成した段階です。2025年度の商品化を目指し、新潟から世界へと飛躍していきたいと考えています。
堀口:弊社は群馬に本社を置き、医師不足という課題をITの力で解決する事業に取り組んでいます。私自身が新潟大学卒業であることや新潟のベンチャー業界の活気に刺激を受け、2年前に新潟に進出しました。創業から6年目を迎えた現在、2023年のNVAピッチ優勝を契機に資本政策を見直し、エンジェルラウンドに取り組んでいる状況です。
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NVAピッチ優勝がもたらしたもの
ーー中俣:NVAピッチ優勝をきっかけにどのような変化があったのか教えてください。
谷川:優勝後、トントン拍子で話が進み、資金調達を実現することができました。調達した資金の半分はVC(ベンチャーキャピタル)から、残りの半分はNVA理事の皆さまや、創業の地である柏崎で応援していただいている経営者の先輩方からご支援いただきました。
さらに、優勝後のメンタリングでお世話になったフラーの渋谷さんから「こんなアクセラレーターがあるよ」という情報をいただき、そのプログラムに応募しました。結果として、120名の中の6名に選ばれ、このアクセラレーターから1,000万円の出資を受けることができ、資金面でも大きな助けとなりました。
振り返ってみると、私はすでに整備されたルールの中で、やるべきことを愚直に実行していった結果、資金調達が実現したように思います。そのため、私は"起業家のゆとり世代"なのではないかと感じることもあります。
中俣:もし優勝してなかったらどうなっていたでしょうか?
谷川:優勝していなかったら、エンジェルは500万ほどは集まったかと思いますが、それ以上は難しいという印象です。当時はまだ実績がない状態でしたが、私を信じてくださる方が多く、大変ありがたかったです。
室田:私は優勝を目指したからこその成長を実感しています。谷川さんが優勝された2020年にも出場し敗れていたので、リベンジするためにも事業を磨くことができました。もちろん、優勝してからの変化も実感しています。2019年に学生で会社を創業したことから、どうしても「学生起業家」として名前が広がることが多かったのですが、優勝をきっかけにその枠を越えることができたと実感しています。さらに、優勝後には様々な場にお招きいただけるようになり、首都圏を中心に全国の経営者の方々とお会いする機会が増えました。このようなプラスの変化が大きく、非常にありがたく感じています。
大塩:私にとって優勝は大きな分岐点でした。もし優勝できなかったらこの事業は諦めようと考えていたからです。無事に優勝を果たし、その日の懇親会で出資が決まったり、ハードオフコーポレーションの山本さんには「デントエックス」という社名をつけていただいたりと、皆様から応援していただき感謝しています。
堀口:私は優勝をきっかけにメディアへの露出が増え、古い友人から「すごいじゃないか!頑張ってるね!」と連絡が来るようになりました。その声が心の支えにもなっています。また、県外に行くと「新潟のベンチャーの方ですか?」「NVAピッチで優勝された方ですか?」などとお声がけいただくことが増え、改めて新潟ベンチャー界の盛り上がりを感じています。
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新潟で事業を進めるなかで感じること
ーー中俣:新潟で事業を進めるなかでメリット・デメリットはありますか?堀口:私は群馬から新潟へ進出してきたことで、新潟の素晴らしい環境をより一層感じています。まず新潟に来て驚いたのは、大手上場企業の経営者や起業家の先輩方と若手が、フラットに交流できる環境が整っている点です。さらに、大手企業の経営者だけでなく、中堅層の経営者の方々もおり、若手をサポートし、引き上げていける仕組みが整っていて、大変恵まれた地域だと実感しています。
また、新潟は「ミニ日本」とも言える点が大変魅力的です。海・山・離島だけでなく、大きな都市もあり、まさに日本の縮図と言えます。そんな新潟には、日本全体が抱える課題が凝縮されているのではないでしょうか。新潟の課題を解決することは、そのまま日本全体の課題解決につながる可能性を秘めています。新潟での取り組みが、大きな事業展開につながると考えています。
大塩:「満員電車に乗らなくて良い」などの生活のしやすさをメリットだと感じる一方で、飛び抜けた若手起業家が首都圏と比較すると少なく、自分の視座が高くならないというデメリットもあると思っています。
ーー中俣:少ないのではなく、隠れているもしくは埋もれているのでは?
大塩:潜在している可能性はあると思いますが、見つけられていないのかもしれません。SNSの発信も首都圏のスタートアップに劣りがちですので、埋もれてしまっているのかなとも思います。「資金調達60億しました!」というような存在はまだ見つけられていません。
ーー中俣:ここにいる4人にはぜひそのような存在になっていただきたいです。そうでないと私含め、サポートする側の存在意義もなくなってきますからね。室田さんはいかがですか?
室田:私はtoB向けの事業がメインですが、新潟はさまざまな繋がりが作りやすく、「信頼関係でお仕事をいただける」という印象です。首都圏のように、価格や質の見極めというところでは少しゆとりがあると思います。また、大塩さんがおっしゃっていたように私も新潟県内に留まっていると視座がなかなか上がらないと思うので、県外だけでなく世界を実際に見て、社内やコミュニティにどんどん還元していかなければならないと感じています。
谷川:視野が限定的になってしまうことは確かにあります。しかし、toC向けのアプリを開発している立場からすると、「いち早く完成させないといけない」という焦燥感やプレッシャーから解放されて、プロダクトに集中できる環境は魅力的です。私は「早期にスケールしなければ」と焦って事業を進めることは、失敗の典型なパターンだと考えています。「バケツに穴が空いた状態でも、ひたすら水を注げばいい」という考え方になると、プロダクトの価値を磨きあげる前に潰れてしまうということもあると思います。まだ何も成し遂げてない自分が言うことではないかもしれませんが、地方だからこその戦略はあるのではないかと感じています。
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新潟にいても首都圏に負けない熱量を維持しよう
ーー中俣:皆さんから、「視座が上がらない」「視野が広がらない」などの言葉が出てきましたが、具体的にどのような点でそのように感じるのでしょうか。
堀口:私は結婚して子どももいますが、群馬だけで事業を展開していた頃は、ある程度の年収を得た段階で「これで十分かな」と満足してしまう自分がいました。しかし、新潟で活躍されている方々との出会いを通じて、「現状で良いわけではない」と奮い立たせることができました。他の3人(谷川、大塩、室田)も、事業をより広げていく上での熱量の話をしているのではないでしょうか。この熱量こそが、新潟という地での挑戦をさらに加速させていると感じています。
ーー中俣:皆さんは首都圏に進出しようと思えば十分可能だと思いますが、それでも総合的に判断して新潟に留まっているのはどうしてでしょうか?
大塩:茨城の大学に通っていた私は、「歯科医療工学を変えたい」という強い想いから、虫歯が一番少ない新潟を選び、事業を始めました。しかし、創業期は事業を軌道に乗せることに必死で、ビジョンやミッションを見失い、目の前の売上に満足してしまう傾向があったと思います。実際、私がシステム開発を手がけた1社目もまさにその状況でした。
売上が立つことで「これでいいな」と思う一方で、周囲に「こういう世界を作りたい」と熱意を持っている人からの刺激が少ないという環境が、自分の視野を狭めていたように思います。
室田:私も同じ悩みを持っていました。起業したての頃は「こういう世界を作るぞ」という熱量を自分自身ではキープしているつもりでした。しかし、目先の数字やこなさなければいけないことに追われているうちに、トップラインを上げ続けていくことに注力できていないと感じていました。これがまさに、視座が高くなっていかないと感じる点です。
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ーー中俣:室田さんのBtoB事業は、マーケットの大きい方が、提案を採用される可能性があって有利だと考えると、首都圏の方が向いていると思います。それにもかかわらず、戦略上、新潟に留まっているのはどうしてでしょうか?
室田:「地方でチャレンジしていきたい」という気持ちが非常に大きいのが一番の理由です。そのため、首都圏に行くという選択肢はありません。一方で、やはり外貨を稼がないとならないとは考えているので、今後は首都圏の拠点、もしくは世界のどこかと繋がるような取り組みを進めていかなければならないと思っています。また、メンバーには新潟出身者が多いため、「首都圏に行かなくても新潟で同じような仕事ができる」ということが社員にとって価値になっていると思います。今の事業を新潟で展開するからこそ、雇用を生み出し、新潟で活躍する人を増やせると考えています。
谷川:私はtoC事業のため、ユーザー数が100万人くらいまでは、チーム人数は10人以下で進められると考えています。コアメンバーさえ集まれば、地方で事業を展開していけると思います。
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新潟における採用・人材市場の現状
ーー中俣:室田さんから採用や人材について話がしたいと事前に伺っています。室田さんは採用についてどのような課題があると考えていますか?
室田:ここ数年、新潟で起業する方は増えてきていると思います。しかし、首都圏と比較すると、学生時代からベンチャー企業でインターンし、その後起業するという人は少なく、「新潟ではまだ起業家を生み出す土壌が整っていないのでは?」と考えることがありました。上場して組織を大きくしていく際に、人材確保が課題になると思っています。ただ、前のセッションでSHONAIの山中さんのお話を聞き、自分たちが事業を発展させ続けることで、この問題は解決するのだということが分かりました。
ーー中俣:現在感じている課題としては、正社員採用の募集に人が集まらないということでしょうか?
室田:募集地域を新潟に限定すると、ベンチャー人材そのものが少ないと感じています。弊社の規模だと、ダイレクトリクルーティングなどのサービスを利用するより、私がハンティングしてくるのが一番早いと考えているため、県外で出会った人を新潟に引っ張ってくるという気持ちで人材確保を進めていかなければと考えています。
ーー中俣:新潟での採用、大塩さんはどうですか?
大塩:弊社の場合は、想像していた以上に人が集まりました。もちろん業態によって異なると思いますが、弊社は有料広告を利用しています。そもそも利用している県内の企業が少ないので、首都圏と比べると募集を出せば集まるのではないかと感じています。利用しているサービスはマス型の求人掲載で、このサービスで正社員もパートも採用しました。
堀口:私も採用はしやすい方であると思っています。新潟のベンチャー企業の認知度が首都圏と比較して相対的に高いと感じているためです。以前、行きつけのスノーボードショップに寄った際にお客さんに声をかけられました。「自分はスノーボードでそんなに有名だったかな?」と思ったら、弊社に就職を考えているという方でした。このようなことは首都圏ではなかなかないと思いますが、地方ではこれが起きるのが面白いと感じました。同時に、新潟に住んでいる方もベンチャー企業で働きたいと考えている人は多いと思っているので、ある種、人材のブルーオーシャンだと思います。
ーー中俣:谷川さんはいかがでしょうか?
谷川:弊社の事業はニッチな領域のため、X(旧Twitter)で求人情報を発信することで興味を持っていただけることが多く、あまり苦戦はしませんでした。しかし以前、事務職の求人を佐渡で出しましたが、何年も募集して1人も応募がなかったという事実もあります。
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新潟のベンチャー界を盛り上げていく意気込み
ーー中俣:では最後に一言ずつ、意気込みをお願いいたします。
谷川:現在、弊社アプリのユーザー数がものすごい勢いで伸びております。マネタイズモデルを確立して成長軌道に乗れるよう、引き続き尽力していきます。よろしくお願いいたします。
室田:新潟のベンチャー業界の未来というのは、私たちが突き抜けていくことが必要だと思っています。引き続き頑張っていきますので、応援よろしくお願いいたします。
大塩:新潟から世界に向けて口腔DX、「デンタルトランスフォーメーション=デントエックス」を起こせるような企業になっていきたいと思います。ぜひ出資のご検討をよろしくお願いいたします。
堀口:「天地人」という言葉の由来である「天の時・地の利・人の和」、これが揃っているのが新潟の光景だと思っています。この「天地人」を活かして飛び立っていきたいと思いますので、応援のほどよろしくお願いいたします。
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