チャレンジに寄り添い、起業家のアイディアを社会へ 〜起業家インタビュー Socialups株式会社 髙瀬 章充さん〜
今回は、本社を新潟に置き、起業家支援を事業として展開するSocialups株式会社 代表取締役社長CEO 髙瀬章充さんにお話を伺いました。
行政とタッグを組んだ手厚い起業家支援
ーーSocialups株式会社はどのような企業なのでしょうか?
省庁や地方自治体から委託を受け、起業家支援のためのコンサルティングサービスを提供する会社です。本社がある新潟県だけではなく、鹿児島県、熊本県、など全国各地の行政とプロジェクトを進めています。
ーー行政と民間企業がタッグを組んだ起業家支援というのは多いのですか?
2018年ごろまでは監査法人などの大企業が取り組んでいるケースがほとんどでした。我々のように地方に根付いて、起業のコンサルティングサービスを行っている企業は、ここ数年で継続的に立ち上がっている印象です。政府がスタートアップ育成を重要視するようになったことで、行政が予算を設けて起業家支援に取り組む事例が増えてきているからです。そんな中、私たちは地方に拠点を構えることで常に顔を合わせながらやり取りを行うかたちで、地方の起業家を支えています。
強みは、メンバーの半分を占める元自治体職員
ーー事業内容について詳しく教えてください。
①官公庁・自治体への政策提言やイノベーションプログラムの設計・運用
②起業家伴走支援
③スタートアップエコシステム構築
この3つの柱で事業を進めています。
起業家支援を目的に、セミナーやワークショップなどのイベントを企画・開催し、地方自治体の補助金を活用する起業家に一定期間の伴走支援などを行なっています。この伴走支援では、我々は起業家の右腕として販路の開拓や資金調達、そのほか事業の数値計画に至るまで幅広くお手伝いしています。
これらの事業から派生し、鹿児島ではDX人材やIT人材を増やすための取り組みにも着手しています。構造的にはメイン事業と同じように自治体から委託を受けて行なっていますが、起業家支援ではなく、デザインツールやノーコードのアプリ開発などのスキルを学ぶことができる環境を提供しています。
ーー本社のある新潟ではどのようなプロジェクトが進んでいるのでしょうか?
新潟県庁との取り組みで、県内にある30市町村それぞれの課題を解決するため、市町村が誘致したい企業を首都圏から呼び寄せるためのマッチングを行う、いわゆる企業誘致のような取り組みを行っています。
現在のところ、委託は全て行政からであり、起業家支援を事業として展開している企業は他にも存在しますが、我々の取組みはその中でも独自性や特徴が際立っていると自信を持っております。
ーー他の企業が同じような事業展開を行わないのはどうしてでしょうか?
行政の事業の進め方や考え方が、一般企業とは異なるというのが理由だと思います。行政がクライアントの場合、民間のBtoBの取引とは異なったプロセスを踏む必要があるのです。
ーーでは、髙瀬さんたちはなぜその方針に対応できるのですか?
弊社のメンバーは、私を筆頭に半数が元自治体職員だからです。行政の方針を熟知しているメンバーは、プロジェクトを進めるうえでどのような段階を踏めば良いのか理解しているため、スムーズに進めることができます。これが我々の特徴であり強みでもありますので、まずはこの強みを活かして事業を成長させ、将来的にはBtoGだけではなくBtoBのプロジェクトにも取り組んでいきたいと考えています。
ーーなぜ"行政"に特化した戦略を取ったのでしょうか?
私も行政職員として起業家支援を行なっていたので身に染みて分かるのですが、行政職員の仕事量というのは想像以上に大変なのです。ステークホルダーが多く、1つのプロジェクトを遂行することにとても時間がかかります。また、市民の皆さんが「このプロジェクトをどのように受け取るだろうか。納得してもらえるだろうか」という重圧もあります。
私は、そのような環境にいたので「起業家支援の政策運営を行政の職員だけで行なうのは難しく、共に悩みながら民間の立場から政策を進める事業を行いたい」と考えるようになりました。
ーー行政とプロジェクトを進める中で意識している点はありますか?
各地域の特徴を踏まえた提案を心がけています。それは、行政の皆さんが地域をより良くしたいという意思を持ってプロジェクトに向き合っているからです。私たちはそんな気持ちに寄り添い、共に進みたいと考えています。
そのため、他の行政がうまく進めているプロジェクトの形をそのまま当てはめるのではなく、その行政の状況に合わせてカスタマイズしたプロジェクトを提案しています。
これは起業をしてから気づいたことなのですが、行政は外部企業のアドバイスにしっかりと耳を傾けてくれる傾向があります。我々だからこそできる立ち回りも、プロジェクトを順調に進めていくカギだと考えています。
起業は人生のテーマ
ーー髙瀬さんが"起業"に携わることになったきっかけを教えてください。
編入した筑波大学で、フラー株式会社創業者の渋谷さんとの出会いです。同じクラスだった渋谷さんとはすぐに仲良くなり、一緒にビジネスコンテストやアプリ開発コンテストに参加していました。そんな中で、"起業"というキーワードは自然と将来の選択肢に上がっていました。
2011年当時はiphone4sの発売を控えていたり、androidがいよいよ日本で普及していくタイミングで、今後はスマートフォンアプリの需要が増えていくと考えられていました。それに伴い、私たちは「テレビの視聴率と同じようにアプリの視聴率データが求められる時代になるだろう」と予測していました。そんな世の中の流れもあり、私は大学院に在学中でしたが、渋谷さんと「起業しよう」と決意しました。フラーには3年ほど在籍し、その後は2社の起業に携わりましたが、途中で体調を崩してしまいました。1年の療養を経て再スタートの場所として選んだのは、食べログのサービスを提供していた株式会社カカクコムでした。
ーーどうしてカカクコムに転職されたのでしょうか?
世の中はさまざまな規模の会社で動いているので、規模が大きい企業の経営や事業を学びたいと思ったからです。転職するまではスタートアップの経験がほとんどだったので大変勉強になりました。
ーーそこからつくば市役所に転職されたのはどうしてなのですか?
つくば市で起業家支援事業が立ち上がるという話を聞きつけ、再び起業に携わる仕事がしたいと思ったためです。ただ、やはり行政内部からの起業家支援だけでなく、外部の人間として複数の自治体の支援に関わっていこうと考え、いまの会社の起業を決めました。
ーーここで"起業する"というポジションに舞い戻ってきたのですね。
自分の性格的に、起業が向いているのだと思います。人生のテーマと言っても過言ではないです。 全部自分で決めて事業を進めていくことが楽しいです。自分で決めた事業にポリシーを持って取り組めるというのは、何事にも変えられない経験だと思いますし、サラリーマンと起業家の両方を経験した今だからこそ、この楽しさを実感できています。
一方で、起業へのプレッシャーで体を壊してしまった経験があるにもかかわらず、起業支援に取り組んでいるというのは、矛盾しているという課題意識も持っています。だからこそ、単純に「起業しましょう!」と提案するのではなく、リスク回避などの手厚い支援ができるよう心がけながら日々仕事に取り組んでいます。
"緻密な計算"がスムーズな起業を後押し
ーーこれから起業を考えている方々へアドバイスをお願いします。
起業に対しての解像度を少しでも上げる努力をしてみてほしいです。その事業について調査をしてみたり、費用・売上・利益などを数字に落としてみたりすると良いと思います。最初はわからないことばかりだと思いますが、「人件費や開発費ってこんなにかかるのか」など、起業に関する知識を少しずつ積み上げることができます。すると、1年後に起業した会社の数字がどうなっているのか見えてくるようになります。
会社が倒産するというのは、赤字が原因というよりも、キャッシュフローの影響で、支払いができなくなるという場合が多いです。しかし、起業する際にしっかりとシミュレーションをしておけば、リスクを下げていくことができます。
例えば「社員を10名雇用する予定だが、そこまで人件費を割けなかった」など、シミュレーションをすればすぐに分かる場合などがあります。どうしても10人必要なのであれば、資金調達を行うという手段を考えます。調達方法も、株で資金調達するのか、銀行から融資を受けるのか、さらには補助金も組み合わせるのかなど、選択肢はさまざまです。
起業に対する気持ちも大切ですが、厳しい現実はすべからく起こることなので、事業に対するシミュレーションをきちんと理解することが大切であると伝えたいです。
ーー起業するにはシミュレーションをして厳しい現実にも向き合う必要がありますね。
シミュレーションをすることで「最初は100万円の利益だけど、これが100倍になり、1億円のビジネスになる」というような、未来に対して新たな夢も描けるという利点もあります。
さらに、起業するための"武器"を手に入れることも可能です。資金を調達する際にはシミュレーションした数字が武器となり、周りから納得や信頼を得ることができると思います。
多くの方が勢いで起業しているのが現実ですが、少しでも起業スキルを学んでから起業することで、立ち回りが変わることをぜひ覚えておいてほしいです。