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中小企業に寄り添い、地域社会を豊かにしたい 〜起業家インタビュー グローカルマーケティング株式会社 今井 進太郎さん〜
今回は、2024年10月に東京証券取引所 TOKYO PRO Market(東京プロマーケット)へ上場をされたグローカルマーケティング株式会社 代表取締役 今井 進太郎さんにお話を伺いました。
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〈プロフィール〉
今井 進太郎(いまい しんたろう)
1979年新潟県長岡市生まれ。長岡高校を卒業後、慶應義塾大学経済学部に進学。父が建材業を営んでいることをきっかけに中小企業について興味を持ち、在学中に中小企業診断士の資格取得に向けた勉強を始める。2年間、都内のマーケティングコンサル会社に勤務した後、新潟に戻り家業に携わる。2006年に家業の子会社としてグローカルマーケティング株式会社(旧・コマスマーケティング株式会社)を立ち上げる。2024年10月にはTOKYO PRO Marketに上場。
中小企業の課題を解決する唯一無二のパートナーに
ーーグローカルマーケティングはどのような会社なのでしょうか?
「地域創造カンパニーであり続ける」というビジョンを掲げ、全国の中小企業の業績向上を目指す伴走型のコンサルティング会社です。私自身が中小企業の後継者として育った経験から、地域の中小企業の役に立つ存在になりたいという想いで会社を立ち上げました。地元である新潟で事業を始め、現在では北海道から沖縄まで展開しています。新潟に本社を構え、社員が常駐している群馬をはじめとして各地に拠点があります。お客様は新潟県内が8割、県外が2割の割合となっています。メンバーは現在、役員を含め48名で、日々奮闘しています。
ーーどのような事業で中小企業を支援しているのですか?
「マーケティング」「人財採用・育成」「デジタル業務効率化」の3本柱に注力し、サービスを展開することで、中小企業の課題解決に貢献しています。
支援の流れとしては、まずお客様ごとに専任のプランナーが1名担当し、ヒアリングを実施します。その後、各分野の専門コンサルタントが加わり、売上向上に向けた課題解決策やビジネス推進に役立つご提案を行っています。
直近では、商品の販路を全国、さらには海外に拡大したいと考えるお客様に対し、戦略立案から実行までをサポートしています。海外の展示会への参加やネットショップの立ち上げなど、お客様のニーズに合わせてサポートを行いました。また、人財育成を希望される企業にはマナー研修を、社内のDX推進を検討されている企業には生成AI活用セミナーを提供するなど、多岐にわたる支援を展開しています。
中小企業には、税理士、社労士、弁護士などといった各分野の専門パートナーが存在します。それなら、マーケティングのパートナーもいても良いのではないか? という考えのもと、マーケティング事業をスタートさせました。その後、中小企業の課題に向き合う中で、その他事業も併せて順次展開していきました。
ーー支援を行う中小企業に特徴はありますか?
マーケティングに関しては、特に小売業やサービス業が多いです。最近は販路開拓を目指している製造業が増えています。また、人財に関しては、製造業や建設業が多いです。
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「マーケティング×子育て」で引き立て役から表舞台へ
ーー企業支援の一方で、県内の子育て世代にお馴染みの「トキっ子くらぶ」というメディアを運営されています。こちらはどのような経緯で始められたのですか?
私の子どもが生まれたことをきっかけに、「マーケティング×子育て」という新たな仕組みを作れないかと考えました。当時から子育て支援の重要性が叫ばれており、「私たちのマーケティングのノウハウを活かせば、この課題に民間企業としてアプローチできるのではないか」と考えました。
「トキっ子くらぶ」は、80,000世帯以上の子育て家庭を対象としたサービスです。 2007年4月、マーケティング事業を立ち上げて間もなく、この取り組みをスタートしました。飲食店での割引サービスの提供をはじめ、フリーペーパーでの情報発信、子育てイベントの開催、商品のモニター企画など、多様な支援を展開しています。
ーー県内のさまざまな業種のお店でトキっ子クラブのマークを目にします。
ありがたいことに、県内の多くの企業様にご協力いただいています。私たちは、企業の皆様に対し、子育て家庭への認知拡大・集客・イメージアップの一助として、この取り組みを活用していただきたいと考えています。
一方で、このメディアの運営は、私たち自身にも大きな学びとなっています。事業の柱である中小企業支援は、どちらかというと裏方のような立場ですが、メディアを運営し「表に立つ」事業に取り組むことで、お客様の視点や考え方への理解が深まります。また、そこで得たノウハウを蓄積し、支援の品質向上につなげることができます。
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後継者として新たな風を吹き込み、事業拡大を目指す
ーー起業されたきっかけを教えてください。
グローカルマーケティングは、父が経営する古桝グローバル株式会社の子会社として立ち上げた会社です。幼い頃から中小企業を営む父の背中を見て育ったため、「自分は後継者になるべくして生まれてきた」と感じていました。しかし、学びを深めるうちに「ただ継承するだけでは会社は生き残れない」と考えるようになりました。
世の中の企業を見ると、既存の事業を基盤としながら新たな展開を図る「二次創業」の形が多く、「自分も何か新しいことに挑戦しなければ」と常に考えていました。そんな中、大学在学中に中小企業診断士の資格取得を目指す過程でマーケティングに出会い、大きな興味を持ちました。その後、新社会人として東京のマーケティング会社で約2年間の経験を積み、父が経営する会社の子会社としてマーケティングを扱う新規事業を立ち上げました。
おそらく、父が経営者でなければ、私も経営の道を歩むことはなかったと思います。
ーー後継者とはいえ、新たに子会社を立ち上げるということで色々なご苦労があったのではないでしょうか?
組織の成長に関しては、多くの苦労がありました。創業してしばらくの間は、なかなか社員に目を向けることができず、それが離職につながることもありました。忙しさを言い訳にはできませんが、社内の状況を十分に把握できず、組織として十分に機能していなかった時期が間違いなくありました。最も苦しい経験の1つでしたが、その苦い経験があったからこそ、今は組織として着実に前へ進めているという実感があります。
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会社は社員の幸せのために
ーー「組織として前に進めている」というお話がありましたが、苦しい時代を乗り越えられた理由はどんなところにありますか?
「社員の幸せを追求する」という考え方との出会いが、大きな転機となりました。私は、京セラ株式会社の創業者である稲盛和夫さんが主宰する私塾「盛和塾」に籍を置き、ビジネスについて多角的に学んでいました。その中で、稲盛さんが「会社は社員の幸せのためにある」と語られていたのが強く印象に残っています。
正直なところ、創業当初はそこまで深く考えることができていませんでした。しかし、組織が成長するにつれ、この考え方を追求することこそが企業の発展につながると実感するようになりました。
事業の立ち上げ当初は「トップが第一線で戦わなければならない」と必死になりすぎるあまり、社員へ十分に寄り添うことができていませんでした。その反省を踏まえ、今は一人ひとりのことを考えながら仕事をすることを心がけています。
ーー具体的にはどのように寄り添っていらっしゃるのですか?
大きな変化を実感するにはまだ至っていないですし、私の期待も込めた考えではありますが「今井は話を聞いてくれる」と思ってもらえているのではないでしょうか。
日々の業務に追われる中では、どうしてもコミュニケーションが希薄になりがちです。だからこそ、意識的に時間を確保し、社員一人ひとりの「幸せの定義」を理解することが、寄り添うための第一歩だと考えています。
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パブリックカンパニーとして成長に拍車をかけたい
ーー2024年10月にTOKYO PRO Marketに上場されましたが、どのようなきっかけがあったのでしょうか?
上場については、約5年前から考え始めていました。組織が成長するにつれ、「今井家の事業」というプライベートカンパニーの枠を超えたいという想いが芽生えたためです。
上場は英語で「GO PUBLIC」と表現されます。当社は「地域創造」をビジョンに掲げており、民間企業でありながらも、公的な役割を果たせる存在になりたいという想いが、上場を目指す大きな理由の一つとなりました。
また、組織のさらなる成長を考えたとき、上場することで成長スピードを加速できるのではないかとも考えました。
実際に上場は想像以上に大変で、特に内部統制や、社内のルールづくりなどに苦戦しました。「攻めながらも守る」という姿勢がとても難しかったです。
ーー攻めながら守るというのは?
まずは「攻めて点を取る」ことが重要です。実績を積み上げ、事業拡大が欠かせません。しかし、上場を目指す上ではそれだけでは不十分で、リスクマネジメントを徹底し、不祥事を防ぐなど「守りを固める」ことも求められます。成功を掴むためには、攻めるだけでなく、守りの体制を整えることが不可欠です。そのバランスに苦労しましたが、3年ほどかけて着実に土台を築いてきました。
ーー周りの反応はいかがですか?
上場してからは今まで以上に応援していただけるようになった実感があります。株主様をはじめ、行政からも激励の言葉をいただき、私たちの事業が求められているのだと嬉しくなりますし、自信にもつながっています。
ーー上場を足がかりに、この先に描くビジョンを教えてください。
現在、新潟を中心に展開している中小企業支援を、今後は全国へと広げていきたいと考えています。私たちの最大の強みはネットワークです。中小企業、商工会・商工会議所、金融機関などとの連携を活かし、各企業の課題解決へとつなげていきます。私は、中小企業が元気になれば、新たな雇用が生まれ、地域全体が活性化すると考えています。例えば、もしGoogleが長岡にあれば、人々が長岡に集まり、街が活気づくと思います。
その好循環を生み出すお手伝いをすることこそが、私たちの使命だと考えています。そして、その使命を果たすためにも、私たち自身が常に活気のある企業として走り続けなければならないと強く感じています。
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起業の根底には、社会の課題解決への熱意を持って
ーーこれから起業を考えている皆さんにメッセージをお願いします。
「起業ありき」ではなく、社会にどんな良いことを提供できるかを考えることが大切だと思っています。私の場合、中小企業支援を通じて、社会のさまざまな課題解決にアプローチしています。起業の根底にあるのは「社会の課題に対して、自分の力で何を提供できるのか」を考えることではないでしょうか。「社会」というと大きな存在に感じられますが、結局のところ、それは一人ひとりの集合体です。だからこそ「誰かの課題を解決する」「誰かの役に立つ」といった視点から始めるのも良いと思います。
例えば、障害者支援事業に携わる方の中には「障害のあるお子さんが社会に出たときに活躍できるようなサービスを模索した結果、事業につながった」というケースもあります。身近な課題を解決することが、社会をより良くする第一歩なのです。
ーー起業したいけど何をしたら良いかわからないという方は、まずは「課題解決」という点を意識すると良いかもしれませんね。
「課題」が原点だと思います。しかし、起業を考えなければ課題の発見にもつながらないと思いますので、起業ありきでも決して間違ってはいないと思います。「課題」と向き合い、「発見する」という行動を大切にして欲しいと思います。
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