運命の一本との出逢いを日本から世界へ〜Jスタ新潟・経営者インタビュー⑧ 株式会社サケアイ〜
今回は「J-StartupNIIGATA(以下、Jスタ新潟)」の選定企業である、株式会社サケアイの特集記事をお届けします。
独自のAIシステムで、運命の一本との出逢いをサポート
ーー株式会社サケアイについて教えてください。
当社は「世界中の人に日本酒の魅力を届けよう」をテーマに、会社設立のきっかけとなった日本酒レコメンドサービスアプリ「Sakeai」の開発・運営に加え、パーソナライズ日本酒定期便サービス「SakeaiBox」の運営、自社開発のハイエンド日本酒ブランド「SAKENOVA」の開発・販売を手がけています。
ーー日本酒一筋、さまざまなサービスを日本酒愛好家に届けていらっしゃいますね。日本酒に関するサービスは他にもあると思いますが、そんな中でサケアイの強みはどんなところですか?
僕たちの強みは「独自のAIシステム」を活用していることです。Sakeaiアプリでは、業界最大規模の23,000銘柄の日本酒を取り扱っています。このアプリでは、日本酒のソムリエとして知られる唎酒師(ききさけし)の上級資格・酒匠(さかしょう)からのアドバイスをもとに作成した質問項目を用いて、AIがユーザーの日本酒の好みを分析し、フィードバックします。
さらに、実際にユーザーが登録したクチコミをもとに、AIが個々にあったお酒を提案してくれます。また、アプリの情報を活用した、日本酒定期便サービスでは、AIが選んだ3本の日本酒が毎月お手元に届きます。日本酒は味わいが幅広いため、好みが極端に分かれるものです。苦手な銘柄が届くと全く飲めないという方もいらっしゃいます。そこで鍵になるのがAIシステムです。日本酒の定期便・サブスクのサービスは沢山ありますが、「パーソナライズ」に特化したものは少ないですね。
「その人の好みをベースに、今まで出逢ったことのない日本酒を届ける」というのは、我々のシステムだからこそ実現できることだと思っています。
ーーまさに、運命の一本ですね。扱う銘柄が2万本を越えるということですが、どんなお酒が中心なのでしょうか?
有名な銘柄はもちろんですが、地方限定の小規模な酒蔵の銘柄もリストアップし、幅広く取り扱っています。さらに、各銘柄への理解を深めてもらえるように、米の種類・日本酒度・アミノ酸度・米の磨き具合などのデータを集め、より詳細な情報を得られるようにしました。
ーー地方にしかないお酒を見つけられるというのは魅力的ですね。とはいえ、それだけの情報を集めるのは大変だったのではないですか?
想像以上に大変でした。WEB上のデータを集めてくれるスクレイピングというプログラムを使って半自動で行いましたが、それでもリリース当時の16,000銘柄の作業を完了するのに4ヶ月ほどかかりました。ただ、サービスを提供する上でここは僕の譲れないポイントでもあったんです。実際に僕も日本酒に魅了され様々な日本酒アプリを試してみましたが、各銘柄の詳細が記載されているサービスを見つけることが出来ませんでした。ですので、開発の際には自分がユーザーとして「もっとこうだったら」という部分を反映して、より日本酒を楽しんでいただけるような工夫を凝らしました。常に「ユーザーファースト」でサービスを開発・提供しています。
ーー新山さんご自身の「ユーザー」としての視点が反映されているんですね。日本酒というと、取り扱うお店が限られている銘柄もありますが、そういった銘柄も扱っているんですか?
実は、特定の飲食店などで味わえる銘柄は、我々はあえて扱っていません。というのも、酒蔵とお店の長年にわたる関係性の中に、我々が無理に参入する必要がないと思ったからです。むしろ、我々は、一般には流通しているけれど、まだ多くの人に知られていない日本酒を見つけ、広めるという立場にあるべきだと考えています。日本酒を扱う様々な業種と良いバランスで共存し、それぞれの役割を果たしていくことが理想です。
誰かのためになるサービスを、自分のアイデアで作りたい
ーー新山さんは学生時代に起業されていますが、きっかけはどんなことですか?
やはり、日本酒との出会いです。大学時代は情報や経営に関する勉強をしながら、常に「自分のアイデアをもとにサービスを開発し、提供したい」という気持ちを強く持っていました。そのため、学生団体に参加して起業について学びながら情報交換をするなど、常に起業のテーマがないかアンテナを張っていました。そんな時に出会ったのが「日本酒」です。地元・青森でも日本酒を飲んだことはあったものの、正直に言うと、自分の好みとは少し異なるものでした。
しかし、新潟に来て初めて日本酒を飲んだ瞬間、思わず「うまっ!」と声が出てしまうほどの衝撃を受けたんです。こんなに美味しいお酒があるのかと思いました。同時に、日本酒が自分の心にビビッとくる瞬間でもありました。それをきっかけに大学の同級生に声をかけ、およそ2年かけてアプリの開発と会社設立の準備を進めていきました。
ーー大学生という立場もあったと思いますが、あえて新潟という土地で起業したのはどうしてなんでしょうか?地元・青森に帰るという選択肢もあったと思いますが。
新潟を選んだ理由には、在学中であることも関係しているのですが、特に「起業する環境が整っている」と感じたからです。新潟には同年代で起業している人たちが周りにいますし、地方としてもその数が多いと感じます。また、大学がある長岡市が学生の起業をサポートしていて、背中を押してくれる人たちが沢山いました。さらに、日本酒が会社の軸になるので、迷わず新潟で起業することを決めました。正直言うと、地元に戻るという選択肢は無かったですね。
ーー起業のきっかけが新潟に詰まっていたんですね。とはいえ、学生での起業で不安はなかったですか?
僕の場合、不安は全くありませんでした。むしろ、学生だからこそ挑戦しようという強い思いがありました。起業するんだったら学生のうちに全力でやって、もし難しければ就職しようと思っていました。逆に社会人になってからの起業はもっと勇気が必要だっただろうなと思います。
これから起業を考えている学生がいたら、ぜひチャレンジして欲しいです。「起業に興味があるけどどうしたらいいか悩んでいる」、「やりたいことが見つからない」などという場合には、ベンチャー企業のインターンに参加することをお勧めします。そこから何かヒントを得られることがあるかもしれません。
そして、もし開発が出来るのであれば、まずは一歩踏み出して自分自身でやってみて欲しいです。「会社を作る」ということ自体は、会社設立をサポートするシステムを利用すれば、決して難しいことではないんです。
ーーでは起業では何が壁になるんでしょう?新山さんが感じた壁はありますか?
まさに、マネタイズですね。起業において非常に重要な要素だと思います。僕はこの点を考えず起業してしまったので、アプリをリリースしてからマネタイズの方法を検証しました。その結果、ユーザーを増やすことにまず注力し、そこから資金調達という流れを作りました。
今考えると、補助金・融資など様々なものを活用しての資金調達も可能だったなと思います。これは起業しなければなかなか分かりづらいと思うのですが、県内にはスナップ新潟などの若手起業家を支援する機関もあるので、そういった機関を積極的に活用して欲しいです。
きっと解決策が見つかると思いますし、起業に関しては一人で抱え込まず、周りのサポートを受けることも重要だと思います。
Jスタ新潟選定を自信に、日本から世界へ
ーーサービスの構想から会社設立、マネタイズの検証、そして資金調達と一つひとつの問題を解決し事業を広げる中、Jスタ新潟に選定されました。選ばれたことによる変化はありましたか?
会社に対する周りの評価が変わったと感じます。会社設立からこれまでの取り組みが認められているということで我々の自信になりましたし、会社に対する信用度も高まりました。これにより、今まで以上に事業の可能性がさらに広がると感じています。
ーー具体的にはどのような構想があるのですか?
海外展開ですね。今までは日本国内の日本酒愛好家に向けての発信が主でしたが、これからは海外に向けて自社制作のハイエンド日本酒を発信していきたいと考えています。
ーーSakeaiアプリではなく、海外ではハイエンド日本酒が軸となるのですか?
そもそも、海外での日本酒の飲み方や消費スタイルは日本とは異なるんです。例えば、アメリカでは、テキーラのように日本酒をショットとして楽しむのが一般的だったりします。そのため、日本国内に発信している形とは違ったアプローチを模索する必要があると考えています。Jスタ新潟に選ばれたことは、将来的な海外展開において重要なステップになると期待しています。
(今後の展望について)
ユーザー目線のサービスで世界と酒蔵の掛け橋に
ーー着実に事業をステージアップされていますが、これからどんな展開を考えていますか?
ステージが変わっても、我々の根本にあるのは「世界中の人がお酒を愛し、お酒を最大限楽しめる世の中をつくる」という信念です。これを実現するため、お酒好きな人が望むサービスを模索し、提供し続けていきたいです。
現在、我々はアプリとサブスクで、「新たな日本酒と出会う→好みの日本酒データを募る→より好みにあった新たな日本酒に出会う」というサイクルを作ることが出来ています。
一方、自社制作のハイエンド日本酒は、使用する酒米や米を磨く割合など、こだわり抜いた唯一無二のものになりました。こちらはアプリやサブスクとは異なる世界観で、ブランドのストーリーを伝えながらさらなる価値を高めていくことを目指しています。実際、この日本酒は1本3万円近くするものですが、事前予約の200本は完売しました。それだけ日本酒愛好家の皆さんの期待度の大きさを実感しています。
我々は「ユーザー目線」を大切にこれら2つの軸をより強化し、世界へサービスを展開していくつもりです。最終的には、このサービスが広がることでユーザーと酒蔵の掛け橋となり、酒蔵への還元や日本酒市場の拡大に貢献したいと考えています。
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