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第1回NVAピッチ優勝者のその後の展開

第1回NVAピッチ優勝者インタビューで取材したSIIG株式会社CEOの谷川さん。取材から約2年が経過し、その後の取り組みや谷川さんの想い、今後目指していることをお伺いしました。

前回の記事
新潟には "サードドア" が開いている 釣果共有×ゲーム体験「FishRanker」の谷川奨さんが感じる、起業家にとっての新潟の可能性

※NVAピッチ
次世代の高成長なベンチャーや第二創業者の輩出を目指し、 新潟県に縁のある若者経営者などにより設立されている新潟県ベンチャー協会 (略称:NVA) が主催し、起業家や企業からのビジネスプランを募るピッチイベント。2020年から毎年開催。


SIIG株式会社 CEO 谷川 奨さん

<プロフィール>
谷川 奨(たにかわ しょう)
1991年新潟県佐渡島生まれ。Webデザイナー・ディレクターとして国内外のクライアントワークを経験後、SIIG株式会社を創業。株式会社サイバーエージェントで新規サービスのUI/UXデザインも経験。
FishRankerの詳細はこちら:https://fishranker.jp/


水産資源管理への取り組み

ーー前回のインタビューから2年経ちますね。どんな変化がありましたか?
大きな変化としては、柏崎市から佐渡市に本社登記を変えました。自分の出身地ということに加えて、佐渡市は非常に企業誘致に熱心で、補助金やUターン制度も充実していることが理由です。私たちが第一回佐渡ビジネスコンテストで優勝できたこともきっかけとなり、補助金の採択に繋がったと思っています。

ーー改めてになるのですが、SIIG株式会社はどんな会社なのでしょうか?
釣り人向けアプリ「FishRanker」の開発・運営、釣り大会の企画運営を行なっています。加えて、水産庁の事業にも取り組んでおり、現在は、水産資源を管理するシステム開発を並行して行っています。
今年の8月にはクロマグロ遊漁の採捕報告アプリに、AI技術を導入する実証実験を開始しました。

ーー「水産資源を管理するシステム開発」をするに至ったのは、どのような背景があるのでしょうか?
2020年に新漁業法が施行され、水産庁が水産資源の管理に力を入れています。
その理由としては、日本の天然魚が大きく減少していることが挙げられます。この状況は、釣り文化にも影響を与え、存続の危機に繋がると感じているので、ここ数年は、「魚がいる」環境への貢献に注力しています。
私たちの特性を生かし、アプリやSNSでユーザーから様々なデータを集めることで、少しでも手助けになればと考えています。
特に、クロマグロのように国際的に管理され、資源としても重要な魚は採捕報告が必要になったので、我々のアプリで貢献できる領域も徐々に増えてきていると感じています。

AIを活用した採捕報告システム

法人化、チーム形成に至った動機と決意

ーーSIIG株式会社の立ち上げに至った経緯を教えてください。
最初は個人事業主として、ずっとWEBのデザイン制作をメインでやっていました。
大きい案件もいただいていたのですが、自分一人で行うには限界を感じたため、チームを作ってより大きなことにチャレンジをしたいと思うようになりました。
そのため、2016年にSIIG株式会社を立ち上げ、法人化して3年目のタイミングで今の釣り事業に完全にシフトしました。

ーー分岐点でチーム形成を選ばれた理由は何でしょうか?
私は一般的なキャリアパスから外れているので、「過去の自分と和解する」みたいなことを考えていました。実は私の父親も会社を経営していて、家庭的にも「起業」に対して理解があったため、リスクを取ってでもチャレンジしてみようという気持ちがありました。

新潟の起業家として、受賞の影響とチャレンジの意義

ーー NVAピッチグランプリ受賞後、どんな影響がありましたか?
水産資源の保全や生物多様性への貢献という方針を持ったことで、新しい属性の方が評価してくださる機会が増えたと感じています。また、NVAピッチに出場したことで、リアルにNVA理事の方々と繋がり、資金調達が実現しました。NVAピッチで優勝した後、NVA理事の紹介で別のアクセラレーションプログラムにもチャレンジすることができました。また、NVAピッチがきっかけでJ-StartupNIIGATAにも選定いただいて、資金調達する際にはプラスの評価になっていると感じています。

一方で、私はコンテストの登壇経験が多くなかったこともあり、NVAピッチ出場の際の準備はとても大変でした。NVAピッチ出場は、経営者層と直接繋がることのできる機会になりますし、自分が属しているコミュニティよりも外にアクセスできることが一番の大きな価値であり、メリットだと思います。ピッチで自分の話をいかに聞いてもらうかがとても大事だと思います。

クサフグから生まれた驚き:アナログとデジタルの融合

ーーアプリから起こった「現象」で印象的だったことを教えてください。
私たちのサービスは、釣った魚を記録することが面白くなる“ゲーミフィケーション”に注力しています。そのため、アプリ内のクエストで遊び方のご提案をするのですが、その中に「クサフグを釣りに行くミッション」を作りました。
実は、「クサフグ」は一般的な釣り人からすると、餌を取っていくし、毒があり釣っても基本的に食べられないため、厄介もの扱いされている魚なのです。しかしクエストでは、釣るとクサフグのイラストが入った自身のプロフィールカードをもらうことができます。このミッションを作ったことで、ユーザーが「クサフグを狙って釣ったのは初めて」、「狙うと意外と釣れないぞ」などとおっしゃっていて、厄介もの扱いされていた魚との遊びが生まれ、新しい遊び方のご提案が出来ていると実感することができました。

ーーそれは非常に面白いですね。デジタルからリアルにアクセスしている印象です。
私が子どもの頃は、「午前中は虫採りや魚採りをして、午後は友達の家でゲームをする」など、デジタルとアナログを行き来して遊んでいたので、この体験を繋げて考えやすい世代だと感じています。そのため、アプリ「FishRanker」では、あえて釣り場情報を公開しない面白さを大切にしています。自分で足を運んだり、友達と一緒に行って発見するような、当時のゲーム感覚で自分たちが体験したような冒険をしてこそ、釣りの面白さだと思っています。
「データを集めて、釣れる場所をAIで予測してはどうか」という意見もいただきますが、予測できないからこそ面白いので、「答え」を追求し過ぎないようにバランスを大切にしていきたいと考えています。

釣り愛とエンタメ魂:SIIGの多彩な顔ぶれ

ーー今後、SIIG株式会社が目指していることを教えてください。
会社のミッションが「健全な釣りの文化を次の世代に残していく」なので、まずは「魚」という限りある資源を守ることに貢献したいと考えています。

また、デジタルでインドアな遊びが増えていますが、自然の中で遊ぶ価値に改めて気付けるようなサービスをアプリを通して作りたいです。拠点とする佐渡での釣りを盛り上げたいと思っています。

ーーSIIGのメンバーにはどのような方がいらっしゃるのでしょうか?
社員は1名で、チームは業務委託メインで9名おり、全国各地に点在していてリモートで参画してくれています。次の資金調達後には、正社員登用なども考えており、体制づくりを強化していきたいと思っています。

また、メンバー全員が釣り好きというわけではありません。事業方針が偏ってしまうのは避けたいので、メンバー全員が釣り好きで構成されないようにしつつ、フレッシュな視点を大事にしています。エンタメ領域の経験者が多く、「FishRanker」に関しても、便利アプリというより、エンタメ性や面白さを追求したい方が多いと思っています。
ユーティリティとしての利便性だけでなく、エンタメ性や面白さを重視した視点を持ってくれています。

一方で、釣り好きメンバーについては、隙あらば釣りに行くような生粋の釣り好きが集まっています。年に1,2回、佐渡で釣り大会があり、メンバー全員が集まる数少ない機会なのですが、挨拶もそこそこに、すぐに皆で釣りに行ってしまうほどです。しかし、それぞれが釣りに対する倫理感や自然へのリスペクトをしっかり持っており、とても信頼できるメンバーです。

地方起業への提言:地域資源や文化を活かし、夢を追う

ーー事業方針選びのポイントはどこにあるのでしょうか?
私自身、ずっと迷っていたのですが、最近思うのは、ワクワクすることです。やや抽象的で難しいかもしれないですが、自分たちがやっていて楽しいと思ったり、気持ちが動くことを感じることです。また、「自分たちが誇りを持てる仕事かどうか」という部分もメンバーと共感しているので、とても大切にしています。

そのため改めて、組織で今の事業を行うことができていることはとても嬉しく思っています。一人のときには出来なかったことが、現在は方針を伝えて実務に落とし込み、メンバー全員で取り組むことができる環境になっています。当たり前のことかもしれないのですが、長年一人で事業をやってきた自分にとって、とても感動的なことです。チームが故に辛いこともありますが、大きなことを成し遂げられた時には、やっぱり一人の時よりも数倍嬉しいです。

ーー最後に、起業を考えている方にメッセージをお願いします。
私自身、佐渡で事業を行っていて、「地方それぞれの独特の文化などを活用して、ユニークなビジネスができる」という観点から、地方での起業は面白いと思っています。
地方創生やU・Iターンなどの動きが強く、地方自治体が起業を支援していますし、補助金などを最大限活用するのは非常に大事だと思います。
私は、今の事業を始めるまでは、長期的な計画をあまり立てずにやってきたタイプなので、目の前にあることを精一杯やっていたら何かを掴めてきた部分がありました。今後は、あまり長期的に方針を固め過ぎないほうが時代にも合っているのではないかと思いますので、「世の中の変化に順応する」というのを大切にしながら、思いきりチャレンジしてほしいと思います。


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