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NVS2023ディスカッションレポート_国内スタートアップのこれからと、可能性

新潟ベンチャーサミット2023(以下、NVS)のパネルディスカッションをダイジェストでお伝えします。NVS2023の概要については、こちらからご確認ください。

今回のスピーカーは株式会社ディー・エヌ・エー 代表取締役会長 南場智子氏、コーディネーターは株式会社START 代表取締役 中俣博之氏です。南場さんが現在取り組まれていることを中心に、国内のスタートアップの未来についてお話を伺いました。

メインスピーカー

コーディネーター


オンラインにてご参加いただいた南場氏

スタートアップこそが経済成長を促す要!

南場:「国内のスタートアップに関して、もっと問題意識を持たなければいけない」という想いから、ここ数年、政府等の会議で耳にタコができると言われるくらい"スタートアップ"という言葉を口にしてきました。30年前、世界の企業価値トップ50社において、日本企業が32社を占めていました。しかし、現在はたった1社しかありません。これはいかに日本の産業が競争力を失っているかをシンボリックに示すものだと思います。
また、現在の各国企業価値トップ10社を見てみると、日本の企業価値レベルがアメリカの1/10以下になっています。アメリカの企業価値トップ10社には入れ替わりがあり、VCがサポートする創業30年以内の企業が上位にランクインしているのですが、日本にはこのような動きや企業が全く見られません。

成長している経済というのは、「ある世代に集中して企業群が生まれ、また次の世代になるとそれを超えるような企業が生まれてくる」というサイクルを辿り、経済全体が成長を遂げます。もちろん、トップに君臨し続けている大企業もありますが、基本的には次の世代に生まれた企業を買収しています。Googleはその典型で、YouTubeとAndroidを買収しました。アップデートする大企業と、時流に乗って成長した新しい企業が混ざってトップを形成するというのが、成長している経済・企業の在り方です。対して、日本の企業価値トップ10社は、同じ顔ぶれの中で少し順位が入れ替わる程度です。成長のダイナニズム、経済の成長を引っ張っていくためにも、スタートアップの存在が重要だと考えています。

スタートアップの担う役割

南場:アメリカの上場市場において、過去50年以内に生まれた企業を分析した結果、VCによって成長の過程をサポートされた企業の平均企業価値が、サポートされなかった企業の3倍であったという報告がありました。この分析結果から、スタートアップが「経済のエンジン」を担っているということが分かりますし、投資の重要性も感じるのではないでしょうか。

また、スタートアップは生活に大きなインパクトを与えるものを実装する「イノベーションを起こす」という役割も担っています。皆さんに関係のあるイノベーションについて、「誰が担い手なのか、誰が発明したのか、誰が世の中に普及させたのか」を考えてみてください。
例えば、スマートフォンを世の中に広めたのは誰かというと、スティーブジョブスの顔が思い浮かぶと思います。「買い物」、「写真や動画等のコンテンツ」、「人の移動」などがドラマチックに変わりました。スタートアップは経済成長の担い手であるということを実感します。

さらに、スタートアップは「社会課題を解決する」という役目も担っています。ピラニアが餌に集まってくるように、社会課題にスタートアップが集まってくるのです。アメリカでは、社会課題はスタートアップによって解決されるものだという認識があります。医療問題については「スタートアップが何十年と取り組んでもなかなか解決できない」と表現されていますが、言い換えれば、「スタートアップが盛り上がっても解決できない大変深刻な問題」という意味です。それほどスタートアップの存在には力があると考えられています。
日本でも少子高齢化問題など、長い間未解決の社会課題は数多く存在しますが、その解決をスタートアップに期待するというコンセンサスはありません。

中俣氏

投資を加速し、規模拡大を目指す

南場:日本におけるスタートアップに対する投資は、2022年までに9,000億円近くの資金が投入されており、10年前と比べると10倍以上という順調な成長ですが、他国と比べると規模は大変小さいと言えます。
日本よりGDPの小さいフランスでも、日本の2倍近い額の投資が行われており、アメリカにいたっては、日本と比較にならないほど巨大な額の投資が行われていますので、他国と比べるとまだまだ頑張らなければいけません。
また、他国と比べて日本では、"起業は不人気"という現実があります。
「起業したいですか?」
「身近に起業家の知り合いがいますか?」
「将来起業のチャンスがあると思いますか?」
「起業に必要な知識や経験、自信はありますか?」
このような質問に対し、日本は他国と比べてポジティブな回答が少なく、最下位の結果となっています。スタートアップに関する認識やサポート体制も随分変わっているとはいえ、世界と比べると大変残念な結果になっています。

当然のことながら、日本は他国と比べて※ユニコーン企業の数が非常に少なくなっています。日本の企業はスタートアップが増えてきたとしても、アメリカやドイツなどと比較すると、小さい規模(時価総額)で上場してしまっているということです。これらを含めて、設立数を10倍にするよりも、規模感を10倍にすることを目指すことが重要です。

※ユニコーン企業
設立年数が短く、企業価値の高い未上場ベンチャー企業

他国に負けない、日本の魅力とは

南場:ここまでのお話では、日本は他国に比べて遅れている点をお伝えしましたが、勝ち目がないというわけではありません。日本の強みは大きく4つあると考えています。

1つ目は、「人材が非常に優秀であること」です。個人差が大きいため、国籍で議論するのはナンセンスですが、相対的に、日本は優秀でクリエイティブな人材が豊富です。

2つ目は、社会課題の超先進国だということです。
少子高齢化、エネルギー、環境、自然災害など、日本にはさまざまな課題がありますが、先ほどもお伝えしたように、このような課題はスタートアップにとってまさに"ピラニアにとっての餌"です。日本は餌が豊富なのです。
他国にも参考にされるような課題があり、日本での課題を解決できれば世界に応用することもできます。特に「少子高齢化」は他国でも参考になると思いますので、日本がこの問題をどのように解決していくのか、他国は注目していると思います。

3つ目は、サイエンスとエンタメの圧倒的な強さです。いろいろな分野で存在している「研究」において、日本のレベルの高さは世界でも非常にリスペクトされています。研究のクラスターという意味では、東京だけではなく地方都市にもチャンスがあります。
また、「エンタメ」は日本の文化ともいえるアニメやキャラクターなどです。世界中で人気のあるコンテンツが日本からどんどん出てきています。「日本のクリエイティビティはどうなっているんだ!」と言われるほどで、文化の強さは本当に強みだと思います。

そして4つ目は、スタートアップに対する環境です。
実は世界のスタートアップ市場では上場の扉が既に閉まっていて、特にアメリカは冷え切っています。しかし日本は、経済成長の重要な位置にスタートアップを置き、政府がコミットしています。また、この状況を見た世界中の起業家が、資金調達しやすいのではないかということで日本に来ていたり、世界中のVCが「円が安い」ということで日本に注目するという状態になっています。最後に付け加えるのであれば、日本という場所としての魅力です。安全性、文化、自然などという点は、他国から高く評価されていると感じています。

サイエンスをスタートアップに結びつけるために

南場:今後の大きな課題は、「サイエンスをスタートアップに結び付けること」だと思います。魅力として紹介したように、日本には非常に高いレベルの研究はありますが、研究をスタートアップに結びつけるメカニズムがアメリカ西海岸と比べると貧弱です。日本における特許の数と商標の数を比較すると、特許が多く出ているのに対し、商売に関わる商標の数が非常に少なく、他国と比べて大変アンバランスと言えます。

また、東京はサイエンスやテクノロジーのクラスターとして世界一の位置にありますが、VCのクラスターとしては世界21位です。これまでお話しした通り、課題を解決するサイエンスがあるところにはVCが集まるはずなので、このギャップは異常事態と言えます。このような状況を考えると、スタートアップエコシステムが確立されていないということがよく分かります。実際に、他国のVCのトップは「日本は大好きだが、日本には投資する気はない。日本の大学研究は最高レベルだが、事業およびスタートアップに結びつけるパスが不存在だ」と言っています。ここでいうパスとは、研究などを資材として事業化するという流れのことですが、パスを自分たちで作るのは非効率だと言っています。

研究者は、研究の成果としてパテント(特許)の申請をしますが、アメリカではその前段階でVCと弁理士がサポートに入り、事業化を見据えた知的戦略を組み立てます。開示の範囲や保護期間と事業化のタイミングなどについて、研究者が犯しやすいミスを防いでくれるというわけです。

パテントの書き方も事業化を見据えているため、市場や競合を意識して申請することができます。
しかし、日本の場合はこの流れが確立されていません。また、大学の研究員の兼業が認められていない、有能な経営人材とのマッチングが難しい、共同研究パートナーの企業から知財のライセンスについて反対に遭うなど、多くの壁があり事業化が難しくなっていますし、専門的な領域を評価する能力を有するVCがまだ少ない状況です。
このような壁を乗り越え、サイエンスをスタートアップに結びつけるサイクルを生み出していくことがこれからの日本には必要かつ重要なことと言えるでしょう。


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