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NVS2023ディスカッションレポート_観光×スタートアップ。インバウンドを一過性にしない。

新潟ベンチャーサミット2023(以下、NVS)のパネルディスカッションをダイジェストでお伝えします。NVS2023の概要については、こちらからご確認ください。

今回のスピーカーは、WAmazing株式会社 代表取締役CEO 加藤史子氏、地域創生ソリューション株式会社 チーフベンチャーキャピタリスト 畑雅城氏の2名、コーディネーターはエスイノベーション株式会社 代表取締役CEO 星野善宣氏です。

メインスピーカー

コーディネーター


(右から)畑氏、加藤氏、星野氏

苦しいステージを乗り切るカギは、アプローチの異なる新事業

ーー星野:このセッションのテーマは「観光×スタートアップ。インバウンドを一過性にしない。」です。加藤さんにはスタートアップ側、そして、畑さんにはスタートアップを支援する側というお立場でご登壇いただきます。では、事業紹介からお願いします。
加藤: WAmazingは2016年7月に創業したスタートアップ企業です。多くの株主様にお支えいただき、現在は260人程のメンバーで事業に取り組んでいます。事業内容は訪日旅行者のためのプラットフォームサービスで、「※OTA事業」「事業地域観光DX事業」「訪日マーケティングパートナー事業」の3本柱となっています。

「OTA事業」では、外国人旅行者に無料SIMカードを提供してピンポイントで日本への旅行者を集客し、ホテル予約や観光体験サービスの予約、スキーのリフトチケットやテーマパークのチケットおよび交通チケットの販売、消費税免税のショッピングサービスなどの提供を行います。
いわゆる、「手の中の旅行会社」という形で、「スマホで日本旅行に必要なものを全て手配できる」として、コロナ禍前まではこの事業のみ展開していましたが、コロナの影響を受けて事業の売り上げが98%ダウンとなってしまったため、地域観光DX事業と訪日マーケティングパートナー事業を立ち上げました。

「地域観光DX事業」は、地域向けのコンサルティングサービスで、現在では累計18億円程の発注をお受けしました。また、「訪日マーケティングパートナー事業」は、外国人旅行者が入国できるようになってから立ち上げた大企業向けのインバウンド集客ソリューションです。この2つの事業は、コロナ禍前より実施していたOTA事業とインバウンド市場という点では共通しています。OTA事業はtoC(外国人旅行者向け)の事業でしたが、toG(governmentやlocal government)やtoB(企業向け)のサービスが増えたということになります。

※OTA
オンライントラベルエージェントの略で、インターネット上だけで取引を行う旅行会社のこと。

ーー星野:新潟にも関わりのある事業はありますか?
加藤:新潟は観光資源が非常に豊富なので、OTA事業において取引先はとても多いです。
温泉施設の予約、スキー場のリフト券やレッスン予約などのサービスを提供しています。 消費税免税ショッピングサービスでも新潟の米菓商品は人気がありますね。

ーー星野:新潟の企業とも関わりが深いのですね。続いて、スタートアップを支援する側の畑さん、お願いします。
畑:
私どもは「ALL-JAPAN観光立国ファンド」という観光ファンドを運営しております。 観光産業への投資を通じて地域創生につなげるというコンセプトのもと、2018年に新潟も含めた全国の銀行に出資いただき、最初のファンドを立ち上げました。

投資の対象は2つあり、不動産とベンチャーの2本立てで取り組んでいるというのが大きな特徴です。不動産は、宿泊施設の開発案件や再生案件に投資しています。また、観光ベンチャーという点では、観光地で使えるソリューションやプロダクトを持っているベンチャー企業に投資をさせていただいています。

2018年に最初のファンドを立ち上げた後、コロナ禍の影響はありましたが、それを乗り越えて新たに2号ファンドも立ち上げ、投資を続けています。また、個人としては20年くらい、ベンチャー投資に携わっています。
未上場のベンチャー企業に投資するベンチャーキャピタルはもちろん、上場株のファンドマネージャーとしての経験を活かし、観光ベンチャーに注力しています。

ーー星野:加藤さんの事業ではコロナの影響が大きかったと伺いましたが、その状況をどのように切り抜けてきたのでしょうか?
加藤:OTA事業はtoC(外国人旅行者向け)の事業なので、訪日外国人旅行者がコロナ禍で入国できなくなると売り上げがほぼ0になりました。 "高速道路を猛スピードで運転していたら50メートル先の道路がなくなった"みたいな感じです。このような時はキャッシュが非常に大事になってくるので、徹底したコスト削減を行いました。オフィスを閉鎖し、役員報酬も半年以上カット。リストラは一人もしないと宣言したので、雇用調整助成金を活用しながら他社への出向も取り入れました。

元々取り組んでいたOTA事業は、先行して赤字を掘る、スタートアップらしい ※Jカーブ型と言われる事業ですが、新規事業である地域観光DX事業もJカーブ型にしてしまうと再度投資が必要になるため、最初から売上・利益が出る事業として立ち上げました。

非常時は「コストを下げること」「新規事業を垂直立ち上げして売り上げを立てること」で、確実に稼いでいくことが大切になると思います。
100人以上の従業員がいるため、売り上げだけでは補えず、※エクイティ調達を死に物狂いで行いました。その結果、2020年11月頃には約8億円を調達し、最終的にはコロナ禍中の資金調達額は12億円にのぼりました。

※Jカーブ型
開始当初は収益の計上が行われず、コスト負担の影響で収益・キャッシュフローがマイナスになってしまい、その後の時間経過に伴い収益が上がること。

※エクイティ調達
企業が新株を発行して、事業のために資金を調達することを意味する。

ーー星野:いろいろな工夫で乗り切って来られたんですね。一方、出資する側も、出資する先を探す苦労があったのではないでしょうか?
畑:
何が起きるかわからない中での投資はなかなか進まなかったですね。 そこでタイムロスしてしまった部分もありました。また、投資先の中では動きが止まってしまった企業もあれば、1週間に1回、新規事業を打ち出すような企業もあるなど、両極端な事例もありました。
しかし不思議なもので、コロナの影響が落ち着いた今となっては、どちらの企業も順調に事業を進めています。結果として、"何が正解なのかわからない"という点が、私自身も勉強になりました。

ただ、我々は観光ファンドではありますが、観光のど真ん中にこだわっているわけではなく、観光でも使えるようなソリューションやプロダクトを持った企業に投資をしているので、投資先には観光が本業ではない企業も多く、その意味ではコロナ禍の影響は全体的には大きくなかったかもしれません。

畑氏

コロナ禍を経て変化する訪日外国人観光客の消費額

ーー星野:コロナ禍を経て、観光ベンチャー業界では、どのようなスタートアップ企業が出現していますか?また、畑さんはどのような投資先企業を探していますか?
畑:コロナ禍前後を比べると、大きな変化が見られるのは "外国人観光客のお金の使い方"です。コロナ禍後では、富裕層の観光客が非常に増えているというデータが出ています。コロナ禍前はより多くの観光客をいかに呼び込むかがポイントでしたが、今は富裕層に対し、旅先などのサービスでどのようにラグジュアリーな体験を提供できるかという点がポイントになっています。今後はそのポイントも重要視しつつ、投資をしようと考えています。

ーー星野:新潟でも海外の観光客の方が増えてきた印象がありますが、コロナ禍前と比較して、現状はどうなっているのでしょうか?

加藤:インバウンド需要の状況を人数ベースで説明しますと、2022年10月11日に個人旅行者が日本に入国出来るようになり、1年後の2023年10月には、コロナ禍前同月比で100.8%という明るいニュースも飛び込んできました。外国人旅行者は確実に増えてきています。一方で、2019年に外国人旅行者の3割を占めていた中国人は、2023年10月では、2019年時の4割弱ほどしか戻ってきていません。

また、インバウンドの消費総額は、2019年では4.8兆円であったのに対し、2023年は約5.3兆円と予想されています。中国人旅行者の人数が減少しているにもかかわらず、消費額で見ると約110%アップしています。これは、2023年の一人当たり消費額が21万円前後となっており(2019年一人当たり消費額は15.8万円)、単価がグっと上がっているのが理由であると考えられます。

ーー星野:コロナ前後で来日していた観光客の消費額が変わっているのか、そもそも来日する層が変わっているのか、どちらなのでしょうか?
加藤:両方あると考えています。全体傾向では、コロナ禍前はアジア(東南アジア含む)が8割ほど占めており、現在もアジアが大多数であるという傾向は変わらないです。ただし、先ほどお伝えした通り、中国の観光客の戻りはまだ4割前後です。増えているのは、ヨーロッパやアメリカで、加えて韓国も以前と比較して非常に増えています。

消費額が増えている理由としては、旅行客が富裕層だからです。2023年1月〜3月の消費額で言うと、中国人の方が1人当たり74万円使っているというデータが出ています。人数が減っても消費額が増えているのはこのような背景があります。

加藤氏

"富裕層"×"体験型"が今後の観光ベンチャーのカギに

ーー星野:加藤さんにお話しいただいた外国人旅行者の変化も踏まえ、出資もしくは出資検討をしていく中でどのような所を強化していくべきでしょうか?
畑:富裕層向けのアクティビティをもっと増やすべきだと考えています。欧米人の旅行におけるアクティビティ・娯楽消費は、旅行消費額の中の10%以上である一方、日本人の場合は5%未満と言われています。日本では旅行先でのアクティビティを楽しむという概念がまだまだ定着していないと感じます。

欧米人を呼び込むには、アクティビティコンテンツの開発・増加が重要です。欧米人かつ富裕層の方がお金を消費する機会を増やすことが重要になるのではないでしょうか。
必ずしもそれだけではありませんが、旅先での+αの娯楽を重視することが、注力ポイントには入ると思います。

ーー星野:加藤さんは、富裕層を呼び込める新潟の魅力はどんなところだと思いますか?
加藤:自然の恵みだと思います。 観光庁が毎年発表している「訪日外国人消費動向調査」では、訪日目的の不動の1位は "食とお酒"です。「日本の食とお酒は最高だね!もう世界一だね!」と評価されているのです。
日本は四季があり、季節ごとの食材を美味しく食べるための知恵もある。さらに新潟は、冬は雪で遊び、春になればミネラルたっぷりの雪水が水田に流れ込むことでおいしいお米・お酒を生み出す素晴らしい地域です。
また、自分の住んでいる場所では雪が降らないアジア圏の方からすると、北海道・ニセコなどはパウダースノーが魅力的である一方、マイナス20度の世界は寒すぎるという意見も一定数あります。そのため、同じ雪国でも比較的暖かい新潟は、そのような旅行者には人気であり、強みになると思います。

星野氏

出資から生まれる連携が地域の活性化へ繋がる

ーー星野:加藤さんはスタートアップ側として、支援側へ聞きたいことなどはありますか?
加藤:投資を受けることで、スタートアップ企業にとってはどんな可能性が広がるのか教えていただけますか。

畑:私たちのファンドは、1号、2号ファンドを合わせると、全国で30を超える金融機関に関わっていただいています。そのため、全国どこでも観光関連のビジネスをやりたいという方々がいらっしゃれば、お力になれるのではないかと思います。

あと、2号ファンドからは、ある旅行会社に加わっていただいています。その企業の知見はとても広く、私としては「1号ファンドで5年間、観光ファンドに携わってきました」と言うのが恥ずかしくなるくらい素晴らしいです。地域に旅行客を送り込むだけではなく、その地域の魅力を引き出すため、新たな観光コンテンツを開発する事にも注力されています。このような旅行会社・地方銀行・スタートアップ企業が連携し、まちづくりに関わっていただけると嬉しいです。

観光ベンチャーが目指す未来とは

ーー星野:最後に、これからの地域観光への期待や展望を教えてください。
加藤:「インバウンド」に関しては政府目標があり、2030年には訪日旅行者6,000万人、消費額15兆円と設定されています。人数としては現在の2倍弱、消費額は現在の3倍強です。そのため、1人当たりの消費単価を上げていかないと目標は達成できません。畑さんから、「富裕層がターゲット」というお話もありましたが、まさにより高単価を目指して行く必要があると思います。

当社の地域観光DX事業では、これからインバウンド市場で稼ごうと思っている事業者と伴走し、マーケティングや体験型も含めた商品造成、ご当地グルメのパッケージやメニュー開発など様々な取り組みを行っています。
また、インバウンド市場は既に圧倒的な成長市場かつ国策でもあり、日本にとっての外貨獲得産業です。インバウンド需要回復や為替などの追い風の状況でコンサルティングサービスを立ち上げているため、本事業に興味があって意欲的な方々とぜひご一緒させていただきたいと思っています。

畑:これからの地域観光にとって大切なことは、持続可能な観光地のまちづくりだと考えています。一時期、「古民家再生」が話題となりましたが、今となっては全国どこにでもあるコンテンツになっており、わざわざその地域に行く理由がなくなってしまっています。


持続可能な観光地のまちづくりには、地域の文化や産業と組み合わせるなど、地域の魅力を前面に打ち出した唯一無二の観光コンテンツを確立していくことが必要になってきます。その地域の文化・歴史体験は、富裕層のインバウンドが楽しむ体験の1つでもあります。

新潟の燕三条は世界的にも有名で、ものづくり体験などはとても魅力的だと思います。産業はその地域の歴史そのものです。それらの観光コンテンツの開発が、まちづくりそのものにも派生し、伝統的な産業を守ることにも繋がるのではないでしょうか。今後は、伝統産業に注目していこうと考えています。


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