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NVS2023ディスカッションレポート_NewsPicks社長をやめて、ローカルにコミットした理由

新潟ベンチャーサミット2023(以下、NVS)のパネルディスカッションをダイジェストでお伝えします。NVS2023の概要については、こちらからご確認ください。

今回のスピーカーは株式会社チイキズカン 代表取締役 坂本大典氏、コーディネーターは株式会社START 代表取締役 中俣博之氏です。

メインスピーカー

コーディネーター


世界に通用するポテンシャルを秘めた地方企業

(左から)坂本氏、中俣氏

ーー中俣:坂本さんは現在、愛媛でベンチャーの会合などを開催されているということで、私はどんな意図があるのかなと気になっておりました。まずは自己紹介をお願いします。
坂本:私はもともと、2008年に設立された株式会社ユーザーベース(※NewsPicksの親会社)の一号社員でして、まだ会社の売上がゼロの時に、学生さながらに住み込みで働いていました。その後、NewsPicksを立ち上げて社長を務め、2022年はユーザーベースグループの役員に就いていたのですが、2023年に独立して現在に至ります。

NewsPicksを退社後、地方の経営者とお話しする中で「今までになかった、こんな楽しい世界があるんだ!」と地方の魅力を感じると同時に、地方こそ未来だと確信しました。
私がNewsPicksでやりたかったことは "日本がもっと世界に出ていくための情報を届けること"だったのですが、地方の産業こそ世界に一番通用するポテンシャルがあり、その地方を支援するために「チイキズカン」という企業を立ち上げました。
チイキズカンでは、地方企業の複業年収1,000万の求人だけを集めることで、都心部の優秀な経営人材を地方にどんどん送り込むというサービスを展開しています。

※NewsPicks
日本のソーシャル経済ニュースプラットフォーム

ーー中俣:ローカルコミットからではなく、先に退職をされたのですか?
坂本:その通りです。実は、ローカルは視野に入っていませんでした。退職後、私の地元である愛媛県に家を購入しました。私が世界に出ていきやすいように、子育ての観点から愛媛に家を買っただけなのですが、愛媛にコミットしていると思われることが多かったです。私は日本から世界に出るために何をすべきかという観点で動いていましたが、せっかく愛媛に帰ったし、ちょっと面白いこともしたいということで「ブラスト瀬戸内」という経営者が集まるカンファレンスを去年立ち上げました。その取り組みの中で、地方にはとても面白い経営者がたくさんいて、スタートアップよりもグローバルでビジネスに取り組んでいる既存の企業が多いなと感じました。「地方こそ一番ポテンシャルがあるじゃないか!」と衝撃を受け、そこからローカルにコミットし始め、今の事業に辿り着きました。

地方企業に必要なのは、スタートアップ"人材"

ーー中俣:愛媛のベンチャーやスタートアップ界隈はすでにコミュニティが出来上がっているのですか?
坂本:
愛媛は新潟ほどスタートアップはありません。
逆に、どうして新潟にはこんなにスタートアップがあるのか、聞きたいくらいです。愛媛の自治体の方から「スタートアップを育成したいのですが、どうしたらいいですか。」という相談を受ける一方で、その方に「この自治体で最近業務委託等で仕事をしたスタートアップの数はどれくらいですか?」と聞くと、全く無いというのが現状です。
県がスタートアップのための予算を組んだり、発注をしない状況でスタートアップを生み出すというのは厳しいため、私が地方にお勧めしているのは、まずは地元にある自治体や有力企業がスタートアップ人材を採用するという取り組みです。この取り組みが、地方でスタートアップが生まれる近道なのではないかと考えています。
地方にスタートアップ人材が流れていくと、自然とスタートアップのサービスを使うようになります。サービスが使われるようになると、さらに県外からスタートアップの人材が流れてきて、「この領域は面白いから起業しよう」っていう人が出てきます。
このようなサイクルが1番大事だと思っており、新潟で言うと、フラー株式会社の渋谷さんが東京から来られたという話を伺いましたが、やはりそういった人材を連れてくるところから始まるのだと思います。

(坂本氏)

複業マーケットを利用し、地方企業と優秀な人材をマッチング

ーー中俣:チイキズカンのクライアントは愛媛の企業が多いですか?
坂本:実は愛媛のクライアントはほとんどいません。日本全国、北海道から沖縄までクライアントがいます。私はほぼ毎日違う県に出向き、このNVSのような機会をきっかけにしていろいろな地方の企業に「一緒に取り組んでみませんか?」とお話をしています。

ーー中俣:しかし、採用については地域ならではの難しさがあるように思います。東京であれば採用できるピカピカな人材を、ローカルでどのように採用するかという話ですね。
坂本:私たちは、複業マーケットに注目しています。今、転職マーケットは労働人口が減っていて売り手市場となっていますが、複業マーケットは全く逆で、完全なる買い手市場となっています。それは、世の中の50%近くの企業が複業を解禁しているにもかかわらず、複業の採用をするという企業が少ないからです。複業が許可されていても、実際にしている人は10%台ほどしかいないので、人がとても余っている状況です。

また、「地方に転職し、必ず引っ越してください。しかも給料は下がります」と言うとハードルが高いですが、「複業で月2回、新潟に来てください」という提案は嬉しい条件だと思います。地方ならではの地理の部分も、複業であれば武器になるところがあるため、複業の領域は圧倒的に買い手市場かつ競争力があり、大きな可能性を秘めています。
実際、私たちのサービスは、リリースして2ヶ月で、すでに10件もの内定が出ています。兵庫県の鉄工所がメガベンチャーの幹部人材を採用するなど、この結果はとても自信に繋がっています。

ーー中俣:メガベンチャーの幹部人材が鉄工所の既存業務に取り組むのは、少しイメージしづらいのですが、どのような背景で採用に至ったのでしょうか?
坂本:既存業務にいきなり入るというのは、なかなかありません。社長直轄で新規事業のプロジェクトに入るという形が多いです。
今回の鉄工所の例ですと、鉄工所の社長はいわゆる鉄工場ビジネスがちょっと古いと考え始め、
「もっと最先端にしたい」
「日本中の鉄工場をデータベース化して見える化を行い、それを見て発注ができるようなサービスを作りたい」
「お金ややる気はあるけど、どうしたらいいか全くわからない」
と考えているタイミングで今回のマッチングに繋がりました。
今回の事例は少し特殊で、前職の経験で製造業向けの※SaaS事業に関わっていたようで、勘所があったと思います。
また、私がおすすめしているのは、複業で関わる人材の下に社員をつけるということです。社員を下につけてチームを作ると上手く回ることが多いため、この形を取るようにアドバイスをしています。

※SaaS
Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略であり、インターネットを経由して活用できるソフトウェアサービスのこと。

ーー中俣:月の稼働時間や金額面の条件などいろいろと制約はあると思いますが、募集時はどのような条件で出しているのでしょうか?
坂本:基本は月1、週1と提示しますが、私たちが今取り組んでいる案件の多くはミッションベースであり、時間というよりも「このミッションを達成するのにこれぐらい払います」という条件のものが多いです。
とはいえ、このような求人を出したことがない、求人にお金を使ったことがないという企業がほとんどです。そのため、私自身が間に入って「この地方に優秀な人材が回ってこないのは、地元の名士である企業の方たちが頑張って採用しないからです。だから一緒に採用しよう!」という話をして、採用に力を入れてもらっています。
もちろん、私も求人票や登録者を全部チェックしています。企業と人材をどのような組み合わせでマッチングさせるのかというのを考えている日々です。

ーー中俣:なかなか難しい取り組みだと思うのですが、成功させるためのプロセスはありますか?
坂本:私が今1番注力していることは「最初の100社の成功」です。現在はまだ数十社程度ですが、100社全ての内定を決めた時に、きっと会社が軌道に乗ると思うので、まずはそこまでやりきります。
実は、前職でNewsPicksの他に※SPEEDAという事業に取り組んでいましたが、その当時は市場規模について何も考えていませんでした。どれだけサービスを使ってもらえるか分からないが、 "自分が1番欲しいものを作る"ということに注力していました。
私がNewsPicksの社長時代に、愛媛の企業と複業で関われる機会があったら、自分もやりたいと思えるようなもの、サービスを作ることに集中していたと思います。

※SPEEDA
様々な市場データや業界レポートを格納することで情報収集を効率化し、企業の進化を加速するクラウドサービス

ーー中俣:坂本さんは、企業と一緒にスタートアップ人材にとって魅力的な求人を作ることにも取り組まれているのでしょうか?
坂本:求人作成はとても大事にしています。実際に、企業が作成した求人を見ると、不可能に近い条件を出していることが多いです。「ブランディングができて、事業開発ができて、さらにマネジメントもできる」など。こういった求人が多々見受けられますが、不可能に等しいため、求人情報の整理から取り組んでいます。

ーー中俣:魅力的な案件を打ち出すうえでの壁はありますか?
坂本:私たちの取り組みを話すと、経営者は賛同して下さる一方で、人事担当者は「うちに年収1,000万の人はいないから無理です」と意見をいただきます。しかし、その状態では、優秀な人材を得ることはできません。優秀な人材を得るためのアクションがあまりできていない企業が地方には多いと感じており、実際にアクションを起こし、突破力がある企業しか取り組めていないのが現状です。しかし、私たちは今はそれでいいと考えています。その現状を今後当たり前にしていかないと地方の給料は上がっていかないですし、複業で1,000万稼ぐというのは言葉のマジックです。年収換算で1,000万というのは、要は時給5,000円と言っているだけで、思っている以上にハードルは低いです。時給5,000円を出せないのであれば、優秀な人材を地方に呼ぶことはできないと感じています。

ーー中俣:例えば、メガベンチャーの優秀な人材が、時給5,000円で3ヶ月間だけ知識労働をしてくれると考えたら魅力的ではないですか? その後、内製化するのか、採用するのかも含めて判断できるというのはお得ですよね?
坂本:私もそのように考えています。 また、様々な企業から、「じゃあ、これを真似したら失敗しないですか?」とよく聞かれますが、答えは、失敗します。 なぜかというと、スタートアップはこの失敗を何年もかけてやってきているからです。実際、私たちも複業案件を獲得していますが、最初の頃は失敗もたくさんありました。しかし今の時点で、複業に関することで地方の会社が失敗しておけば、おそらく2、3年後、圧倒的に優秀な人材を集められる企業になるはずです。
失敗したとしても、私たちが日本中の顧客を集めたイベントを定期的に開催し、情報交換や、そこで生まれた横の繋がりから挑戦していくという流れを作るなどのサポートをしたいと思っています。

(中俣氏)

スタートアップを受け止める存在が地域を盛り上げるカギ

ーー中俣:坂本さんが見てきたなかで、コミュニティの発展や、盛り上がりを感じる地域はありますか?また、その理由もお聞かせください。
坂本:北海道は特に盛り上がっています。地域に根付いた企業がスタートアップコミュニティにもしっかり入っており、地場の経営者の方々もしっかりカバーしています。そのような人材がいるおかげで、地域のコミュニティではスタートアップの人もいれば、地元の財界の方もいるという、素晴らしい環境が整っていると思います。
スタートアップしかいない、 財界の人はみんな固まっているという地域が多いので、こういった地域は珍しいです。そして、新潟も北海道と同じような状況になっており、正直びっくりしました。

ーー中俣:新潟の経営者はみんなベンチャー好きで、新しいことを一緒に頑張ろうという雰囲気があります!
坂本:スタートアップだけではない、そのスタートアップを受け止められる存在がいるということはとても大事です。また、県外の企業と交わることもポイントになっていると思います。北海道の企業のオフィスには、共同研究する東京の企業が入っています。それが起点となり、東京から来る人たちの窓口になったり、スタートアップコミュニティや※EOコミュニティが形成されていたりします。

※EO
Entrepreneurs'Organization(起業家機構)の略で、1987年に設立された、年商$1MILLIONを越える会社の若手起業家の世界的ネットワーク。

人材採用やM&Aで地方企業が生まれ変わる

ーー中俣:良い人材を開拓するためのこれからのビジョンはありますか?
坂本:
「採用に対するコミットを上げること」は大切だと思います。 スタートアップは"人がすべて"ですから、採用に対してリソースを割いていくべきだと思います。

地方の経営者が "新しい事業をするための人材が欲しい"と思うなら、その事業で一番輝いている人を口説くと良いと私は思います。しかし、地方にはそのようなマインドが足りていないというのが現状です。地方の人流を変えるためにも、採用に対する意欲をあげることが大切だと思います。
加えて、M&Aも大切です。単純にM&Aをするのではなく、それによって企業を回転させてほしいと思います。地方にはキャッシュを持つ企業が多く、そういった企業がスタートアップを買収し、会社のカルチャーをどんどん変えていく。その流れを通して、地方の企業が生まれ変わっていけるのではないでしょうか。

また、地方の企業が生まれ変わるには成功事例が必要だと思いますし、お手本となる企業はたくさんあります。しかし、地元のコミュニティの人は、県内のお手本となる企業は知っていても、県外の企業は知らないということが多いのです。チイキズカンでは、県内外含め、地方企業が生まれ変わるための情報を集め、発信も行っていきたいと考えています。

多様性が地方企業に変化をもたらす

ーー中俣:大企業の方々からたくさんの刺激を受けてきた坂本さんは、地方のどのような部分に心を動かされたのですか?
坂本:地方の経営者は、長期の視点で夢を語れる人が多いと感じたことです。オーナー企業が多く、「将来は社長になるんだ」「地元を引っ張るんだ」という意識を幼い頃から育まれている後継者がいます。意思決定がオーナーに依存していることで、意思決定がシンプルになります。

さらに、 地元の企業から信頼され、安定した事業キャッシュがあります。これらの条件は全て、スタートアップと真逆です。スタートアップが無いものをこれだけ持っているのに何が課題になっているのかというと、 "経営陣の多様性の弱さ"ではないかと考えています。優秀かどうかではなく、多様性が足りていないということが課題です。同じような経験を積んできた人だけで固まるとどうしても変化に適用できないですが、 多様な人材を入れるということだけで、その企業は変わり、無限の可能性を秘めているのではないかと思っています。

私は地方こそ未来があり、こんなに面白くて可能性があるということを都心の優秀な人材に届けたいと強く思っています。それができれば、地方にもっと良い人材が流れてくるはずです。「優秀な人材は地方には来ない」と諦めている方が多いように感じますが、本当はとても魅力的な場所であるということに自信を持って欲しいです。

ーー中俣:最後に熱いメッセージを聞かせてください。
坂本:新潟はとても面白い地域だと思っています。東京で事業をしながら新潟に通っている人もいれば、東京で事業をしているのに新潟に住んでいる人もいるし、新潟が本拠点の人もいます。いろいろな形で事業に携わる人が混ざり合っているということは奇跡ですし、素晴らしい事例です。
今後は "これができたら新潟が変わったな"と感じられるような分かりやすいゴールを定めて、突っ走って欲しいです。 数年後、「やっぱり新潟は凄かったな」と言われるような進化を願っていますし、私たちも事業でご一緒できればと思っています。


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