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NVS2023ディスカッションレポート_地域におけるスタートアップ育成の、これから。

新潟ベンチャーサミット2023(以下、NVS)のパネルディスカッションをダイジェストでお伝えします。NVS2023の概要については、こちらからご確認ください。

今回のスピーカーは、KDDI株式会社 経営戦略本部 副本部長 江幡智広氏、そしてB DASH Ventures株式会社 代表取締役 渡辺洋行氏、コーディネーターはフラー株式会社 代表取締役会長 渋谷修太氏です。

メインスピーカー

コーディネーター



(右から)渡辺氏、江幡氏、渋谷氏

スタートアップを支える独立系VCとCVC、それぞれが目指す未来

ーー渋谷:新潟のスタートアップエコシステムを作ろうと取り組んでいますが、地方のスタートアップ育成をどのように進めていったら良いのか、スピーカーのお二人と考えていきたいと思います。まずは、自己紹介をお願いします。
江幡:KDDIは※CVCを介して、地域の皆様とともに地域の発展、向上するような事業を進めております。このような活動は、一般的には「地方創生」という言葉が使われますが、我々はあえて、「地方共創」という言葉に置き換えて日々活動に取り組んでいます。

※CVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)
事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場のスタートアップ企業に出資や支援を行う活動組織のこと。自社の事業内容と関連性のある企業に投資し、本業との相乗効果を得ることを目的として運営される。

ーー渋谷:続いて渡辺さん、よろしくお願いします。
渡辺:2011年にB DASH Venturesを設立しました。独立系のファンドを運営し、主にスタートアップ企業に投資をしております。投資先はインターネット業界の企業が多いのですが、最近だと※ディープテック系などの分野にも力を入れています。

※ディープテック
IT技術をベースに、既存の技術の活用によるビジネスモデルの刷新だけではなく、世の中の生活を大きく変え、社会の大きな課題を解決する技術のこと。主な分野はAI(人工知能)やバイオテクノロジー、二次電池、電子コンピューティング、ロボット工学など多岐にわたる。

ーー渋谷:まずは、一般的なVCとCVCの違いなどについて聞いていきたいと思います。渡辺さんであればVC、江幡さんであればCVCについて教えてください。
渡辺:簡単に言うと、私たちVCはスタートアップ企業に投資をします。具体的な投資の仕方は、VCのファンドが、そのスタートアップ企業の株式を購入します。同時に、家族のような立場で企業の成長に伴走して、成長を一緒に見守ります。企業が成長した先に何があるのか、ここが一般的な出資とファンドの異なるところです。 ファンドから出資を受けていただいたからには、その企業に大成功をしていただきたい。そしてファンド側も、投資をしているのでもちろん大成功してほしい。その大成功は何かというと、IPOやM&Aをして※イグジットすることを考えています。この大成功というものを、共通テーマとして事業を広げていくことがとても重要です。

上場することで、ファンドは株式を資本市場で売却することが出来るため、これを1つの区切りと考えます。一方、企業としては、株式マーケットにおいて今までよりも簡単に大きな金額を調達できます。調達した資金を使って、設備投資や従業員を雇用し、さらに企業を大きくすることが可能となります。当然ながら、知名度も上がっていきます。例えば、「新潟の会社だけどすごい勢いがあるし、魅力的だね」と、多くの人に認知してもらい、自ずと全国から優秀な人が集まってくるというわけです。このような一貫した流れを一緒にやっていこうというのがVCというものです。

※イグジット
売り手側である経営者・創業者が企業の所有権・経営権を手放し、投資した資金を回収・利益をえること。

ーー渋谷:上場に向かって共に走り続けていき、より魅力的な企業に成長させていくのですね。続いて、CVCについてKDDIの江幡さん、お願いします。
江幡:一般的なVCと異なるところは、事業会社が作ったファンドということで、伴走しながら、協議したり、事業会社側の知識や技術を使ってスタートアップ企業の事業の流れを一歩進めていくというところがCVCの特徴だと考えています。
もちろん、目指すところはIPOやM&Aでのイグジットですが、事業会社としては投資先の企業と一緒に新しい事業を作り上げるというところも目的としています。

ーー渋谷:KDDIさんは、なぜ、地方かつファンドという選択をされたのでしょうか?
江幡:大きな企業も地方での事業に目を向けるのですが、やはり売り上げの数字などが中心になってきてしまうところがあります。とはいえ、地方にはまだまだ発掘しきれていない魅力的な資源や集団があるはずだと考えていました。社内では、単純に利益を求めるだけではなく、日本全国を盛り上げていくような取り組みも考えていかなければならないという意見もあり、ここ4年ほど、専門の活動をする部隊を作ってきました。

地域にある企業が、さらに一歩成長していくための伴走ももちろんですが、スタートアップ企業が地域にたくさん生まれ、活躍できる場も作れたらいいなという想いがありました。KDDIもそのような活動を核にやってきていたため、地方で実現するための1つの手段としてファンドを作り、活動を始めました。

現在は新潟県とタッグを組み、「InnoLabo NIIGATA」という地域発展に繋がる新規事業創出を促進する事業共創プログラムの取り組みを行っています。地域企業が現状の課題とアセットをスタートアップに提示し、各スタートアップが解決策や事業共創案を地域企業へ提案します。事業共創や協業を通じて、スタートアップの先進技術による地域企業の課題解決を支援すると共に、スタートアップの事業拡大への貢献を目指しています。

江幡氏

スタートアップと関わりたいなら、まずはLP出資の選択を

ーー渋谷:KDDIさんはどのような経緯でスタートアップと関わり始めたのでしょうか?
江幡:KDDIがスタートアップに関わるようになったのは、2010年頃になります。ファンドには色々な企業が出資をするわけですが、私たちはまず、渡辺さんのファンドに※LPという形で出資をさせていただきました。外部の方とレコードを作りたいと考えたときに、新しいことを考えているスタートアップ企業が候補に挙がりましたが、どのような形で関わっていけば良いのか悩んでいました。そのため、まずは渡辺さんのファンドを通じて学ばせていただきました。その後、もう一歩前に進んでいこうということでCVCの会社を設立したという流れになります。

正直なところ、VCの皆さんが行う、投資先への手厚い伴走に驚きましたが、伴走の過程をご一緒させていただき、自分たちがスタートアップ企業へどのように関わっていくべきか、LP出資を通して学んだことは多く、経験することができて良かったと強く感じています。

※LP(リミテッドパートナーシップ)
米国などで認められている企業形態の一つ。無限責任を負う最低1名のゼネラル・パートナーと、有限責任のリミテッド・パートナーによって組織される形態。LPは有限責任である代わりに、経営に参加できないという制約がある。

ーー渋谷:経験を踏まえ、江幡さんはどのような企業がLP出資に最適だとお考えでしょうか?
江幡:スタートアップ企業との関わりを作りたいと思っている企業には、まずはLP出資をお勧めしたいです。そもそも、どうしていいかわからない状態で、経営者部門がファンドを作って、CVCを意識しながら事業も考えるというのは相当の負担になってしまいます。実際、東京の大手企業から相談を受けた際は、「スタートアップの業界やVCの人へ相談するために、まずはLP出資に飛び込んでみたらどうですか?」とお話しすることが多いです。

企業の組織改革として、LP出資の活用を

ーー渋谷: 新潟県では、着実に起業家の数は増え、エンジェル投資家や直接的な出資が出始めています。とはいえ、お金の流れが大都市に比べてまだまだです。「地方企業にLP出資をしたい!」と思わせるにはどうしたら良いでしょうか?
渡辺:東京ファンドの多くは、地方の大手企業とタッグを組みたいと思っています。しかし、社内のイノベーションや新しい事業を立ち上げることの難しさが壁となっています。これは、全国どの企業にも当てはまることですが、地方は特に難しいです。その壁を乗り越えるために、我々を利用していただきたいと考えています。地方企業がファンドにお金を入れ、提案を受け入れてもらうことで新たな風を吹き入れることが出来ると思います。
提案内容はいくつかありますが、今回は二つ紹介します。

一つ目は、社内でイノベーションに取り組む組織を作るための支援をするというものです。社内DXを含め、社員組織も変えて、新サービスをジェネリックするようなプロセスを提案しています。

二つ目は、東京には世界から色々な情報が集まるので、新しいスタートアップやイノベーションが生まれます。その情報を定期的に共有し、社内共有も図ることで組織改革を行ってもらうというものです。
いずれにせよ、新規事業や新組織、優秀な人材をどのように発掘・育成していくのかというところに我々を使っていただきたいなと思っています。

ーー渋谷:つまり、LP出資は新規事業創出のためのステップとして、意味合いが大きいということでしょうか?
渡辺:意味合いは大きいと思います。大企業だったら、投資していただいたものを2倍、3倍に返しますと言われても、「それがどうした?」という感じになってしまうと思います。プロセスや中身という意味で我々に期待していただくことが、LP出資の大きな目的ではないでしょうか。

渡辺氏

企業の改革は、長期的な視点で成功を引き寄せる

ーー渋谷:「VCやCVCを活用して自社を変えたい」という会社も多いと思いますが、成功の秘訣はありますか?
渡辺:例えば、KDDIさんは経済産業省発表の「イノベーティブ大企業ランキング」で6年連続トップで、もう別格です。成功の秘訣は、関わるメンバーがほとんど変わっていないからだと思っています。それと同時に、CVCという取り組みをKDDIという企業が評価している点も大きいと思います。つまり、関わる人たちの士気が高いわけです。

ーー渋谷:人が変わらないというのは、時間とともにステージが変わるスタートアップ側もありがたいです。私も江幡さんとは株主として関わらせていただいていますが、初めてお会いしたのは10年前です。人が入れ替わっていたらKDDIさんとの今の関係性はなかったかもしれません。

渋谷氏

最新の情報に触れられる環境で慌てない、我慢する、波に乗る

ーー渋谷:新潟のスタートアップ育成にはこれから何が必要でしょうか?資金調達やイグジットについて、出資側が考えていることを教えてください。
渡辺:結論から言うと、慌てずにやったほうが良いです。例えば、数年前に投資させていただいた福井県の企業さんに関して、彼らは「プロダクトを作る→ヒット→数年で下火に」というサイクルを繰り返していましたが、創業15年ほどで大ヒットのプロダクトを生み出し、そのタイミングでアクセルを踏んで上場まで頑張りました。スタートアップの中でも数年の波があり、波には絶対に乗らなければいけないです。また、波がくるまでじっと我慢をする必要もあります。人を集めて開発を続けながら波をじっくり待つ。成功にはそれくらい時間がかかるものです。

IT企業であれば、下請けをしつつ、プロダクトをコツコツ作っていけばつぶれる可能性は低いので、我慢しましょう。それと同時に、最前線の情報や人と接点を持つことが大切です。こちらは地方でも出来ることですから、ぜひ実践していただきたいです。

ーー渋谷:急がず、つぶれないように、波がくるまで耐える。新潟の県民性に合っているのではないのでしょうか。江幡さんはどのようにお考えですか?
江幡:デジタルの世界においては、事業を始めることは地域を限定せずにどこでも可能です。一方で、東京・大阪・福岡のように、周りに同じような企業がたくさんあって交流が出来る環境というのは圧倒的に少ないと思います。決して拠点は大都市ではなくていいですが、各地の人と繋がっていくことが大切だと思います。

ーー渋谷:起業家の中には、直近でVCでの資金調達を考えていないのに、VCの皆さんに会ってもいいのかなと悩む方もいると思います。ただ、ベストなタイミングでVCの皆さんと一緒に取り組んでいけるよう、早めに接点は作っておくべきという認識で良いのでしょうか?
渡辺:もちろん、その通りで良いと思います。企業側もVCも対等な関係です。関係性を築いておけば、資金が必要になったときに相談しやすいと思います。VC側も、長年の付き合いで人柄もわかっていると安心です。ベンチャーファンドはいわゆる金融商品ですが、担保のある銀行などからすると、私たちは弱い立場です。もし投資した企業が「この事業、辞めます」と言えば、私たちは「そうか、残念だ」と言うしかない。だからこそ、投資する人がどのような人なのか、ずっと見ています。このような観点でも、関係性を築いておくのはとても良いことだと思います。

ーー渋谷:今後はより多くの方がベンチャーカンファレンスに足を運んでくれることに期待したいです。では、最後に新潟への想いをお願いします。
江幡:新潟は地方のロールモデルになっていると感じています。渋谷さんのように、新しい事業を立ち上げた人がいるという地域は意外と少ないものです。また、渋谷さんを中心に若い人たちが集まることで活気も生まれ、私は企業としても個人としても新潟という土地が好きです。新潟をさらに盛り上げられるよう、もっと関わっていきたいと思っています。

渡辺:私も、新潟の方の人柄にはここ数年でさらに魅力を感じています。新潟が盛り上がっていくということは、出資先の企業の元気にも繋がっていくと思いますので、10年、20年でも一緒に頑張っていけたらなと思います。

(右から)渡辺氏、江幡氏


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